2017/11/05
鮮やかに時代を切り取ったポップな響きとコンテンポラリーなビート感覚。ロバート・ワイアットに影響されたちょっとシュールで哲学的な詞。1980年代を彩ったシンセ・サウンドと重力から解放されたようなスウィート・ヴォイスを操りながら、ブルー・アイド・ソウルとヒップホップをキャッチーに融合させたスクリッティ・ポリッティことグリーン・ガートサイト。彼が2006年夏の初来日以来、絶妙のタイミングで『ビルボードライブ東京』のステージに上がった。
80年代を象徴するシンセ&サンプリングの打ち込みサウンドを駆使して「Wood Beez」「Perfect Way」「Hypnotize」という名曲を立て続けにリリースしたグリーン。その甘美な衝撃は、未だに鮮烈だ。新しいテキスタイルを備えたそれらは多くのフォロワーを生み、もはやポップ・ミュージックの1スタイルを築いたと言っても差し支えないだろう。70年代末にデビューし、質の高い楽曲と時代の先端を行く斬新な音作りで注目を集めてきた彼の、最新のステージがバンド・サウンドで展開された。
ギター、ドラムス、キーボード/ベース・ギターというオーソドックスな編成ながら、繰り出されてくるサウンドは、やはりスタイリッシュでモダンだ。畳み掛けるような前のめりのリズムには明らかにヒップホップの影響が感じられるし、とびきり人懐こいメロディは今も色褪せることなくヴィヴィッド。グリーンのユニークな声には官能性が加わり、ドリーミーでセクシーなポップ・ミュージックの応酬に、思わずうっとりしてしまう。周りを見回せば、観客も顔を綻ばせながら聴き入っている。音の背景にブラック・ミュージックのエッセンスを忍び込ませたハイブリッド・ソウルが、世紀を越えても生命感溢れる音楽であり続けていることが肌で感じられ、無性に嬉しくなった。
振り返ってみれば、いつだってグリーンは黒人音楽の最先端とレガシーにコミットしてきた。例えば「Wood Beez」では「ベッドに入るときは、いつだってアレサ・フランクリンのように祈るんだ」とソウルへの偏愛を吐露し、「Oh Patti」ではマイルス・デイヴィスにペットを吹かせ、「Boom! There She Was」ではZAPPのロジャーをフィーチャーし、ビートルズの「She’s A Woman」はダンスホール・レゲエにアレンジしてシャバ・ランクスと共演し、ジェル・ザ・ダマジャの名曲「Come Clean」を間髪入れずにカヴァーし、「Tinseltown To The Boogiedown」ではモズ・デフを招集し、「Die Alone」ではミシェル・ンデゲオチェロとタッグを組み……。ソウル、ジャズ、ファンク、レゲエ、ヒップホップ。さまざまな黒人音楽を等距離に置きながら、独自のポップ・サウンドを育んできた。
そんな豊潤なキャリアを重ねてきたグリーンの今宵のステージ。煌びやかなシンセの音を効果的に使いながらも、楽曲をじっくり聴かせるシンガー・ソングライター的要素が前面に出た味わい深いライブになった。
「70年代の若いころは熱烈なコミュニストだったんだ…」と過去を振り返りながら、珠玉のナンバーを連発する。どの曲も甘いメロディに彩られ、ポップであると同時に美しい。特に『キューピッド&サイケ85』からカットされたナンバーには、ひときわ大きな歓声が巻き起こり、会場全体に高揚感が満ちていく。ステージで歌うのは初めてという“あの曲”や、去年レコーディングしたというヒップホップ色の濃厚な新曲も演奏され、スクリッティ・ポリッティの過去と未来がシームレスに披露されていく。そこにはストリート・サウンドとポップ・ミュージックの奇蹟的な邂逅があり、それを目の当たりにしたこの夜は、寡作ながらも、これまで印象深い作品を発表してきたグリーンに、改めて新鮮なアルバムを期待する気分が膨らんだ。
新作のリリースも秒読みとのウワサも耳にするスクリッティ・ポリッティ。今回のライブには、次作へのヒントも隠されているような気がするのは、果たして僕だけだろうか?
グリーンが紡ぐドリーミー・ポップは今日(5日)も体験できる。ライブは決して多くない彼の、エポック・メイキングになりそうなパフォーマンスを堪能するまたとないチャンス。準備はいいかな?
◎スクリッティ・ポリッティ公演情報
2017年11月4日(土)~5日(日)ビルボードライブ東京
公演詳細>
Photo:Ayaka Matsui
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。寒さの到来とともに美味しさを増す魚介類。脂の乗ったお刺身に舌鼓を打つのが楽しい季節ですが、こんなときにこそじっくり味わいたいのが、日本ワインの代表格、甲州種の白ワイン。鉄分の含有量が少ない甲州種は、魚介類の生臭さを引っ張り出すことなく、舌に纏わりついた動物性の脂分をきれいに洗い流してくれる。どこか吟醸香も感じられる控えめながらもふくよかな味わいは、冬の和食でこそ堪能したい。シュール・リー製法で“旨み”が添えられた甲州種に、この冬は首ったけ?
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