2017/10/26
太陽から放射される高温の「太陽風」は広い宇宙を駆け巡り、この地球にも吹きつける。そのため磁気圏が形成されているわけだが、ときにプラズマ粒子がそこをかい潜り、大気中の原子にぶつかることがある。この衝撃による発光こそが、いわゆる「オーロラ」として、地上から観測されるというわけだ。
TK from 凛として時雨が、同名義では初となるツアーとして、大阪、愛知、東京を順に巡る【TK from 凛として時雨“Acoustique Electrick Session”】を2017年10月7日より敢行。東京公演は10月14日、会場はBillboard Live TOKYOとなったが、TKがこのステージに立つのは2度目である。単独ライブとして開催された前回は2015年7月、ドラム、チェロ、ピアノを率いた4人体制の同じくアコースティックセットで行われ、今回はTKを中心に平井真美子(piano)、須原杏(violin)、TOKIE(b)、BOBO(dr)が集結。音源をはじめ、通常のライブでもキーボードやヴァイオリンを積極的に取り入れるなど、普段からポストクラシカル的な趣の強いTKではあるが、それをそのままアコースティックセットに落とし込んだだけのパフォーマンスを彼が見せるはずもない。さらに多角的なアプローチで再構築した音の粒子を、人が無意識に作っている自己のフィールドをすり抜けさせることにより、六本木の上空に見事な音楽のオーロラを浮かび上がらせてみせたのだった。
●研ぎ澄まされる聖なる美しさ
メンバー5人は徐々に大きくなる反響音のSEで登場。TKは椅子に腰を下ろし、自身を取り囲むように設置されている計4本のギターからエレアコを手に取って、まずは原曲でもアコースティックギターやストリングスの掛け合いが特徴となっている「dead end complex」を、より優美さの際立ったアレンジで。続く「Secret Sensation」には大胆にもボンゴやマラカスを取り入れてエスニカルな雰囲気をまとわせ、TVアニメ『91Days』のオープニングテーマとして書き下ろされた「Signal」では狂気の破片のようなピアノのフレーズループや、在りし日の斜陽のように流れゆくヴァイオリンの神秘性を打ち出した。今回のツアーでしか出来ない体験だということを実感させた冒頭3曲である。
最初のMCでは「初めまして、TKと申します。今日は最後まで楽しんでってください」と、いつもの穏やかな口調で挨拶。さらに会場について「こんなラグジュアリーな空間で」と触れ、フロアを取り囲む二階や三階のカウンター席を見上げつつ「前回も言いましたけど、生首みたいですね」と一言。傾斜が急で距離も近いため、ステージから見ると人の顔だけ浮かんで見えるらしい。この発言で一気に雰囲気も打ち解け、些か緊張感を抱えているように見えた観客もその心を物理的な距離と同じ近さにまで持っていくことが出来たと思われる。その後の演奏は脳へ直接響いているかのような浸透性を持ち、けれども完全に受け入れてしまえば細胞を破壊されるのではとも思わせる鋭さ。聖なる美しさをさらに研ぎ澄ましていく。
TKは楽曲によってギターを持ち替えながら、至近距離で見ても生演奏とは信じ難い複雑なフレーズを涼しい顔で爪弾いていく。ツアータイトルに「エレクトリック」が含まれているように、2本のテレキャスターも用意されており、最初にその1本を使用したのは、作曲をTK、作詞と歌唱を安藤裕子が手がけた2014年のコラボレーション楽曲「Last Eye」。この日は最初から最後までバンドセットのときほどの轟音が存在せず、TKも「叫ぶ」と言うよりは「嘆く」ような歌い方をしていたため、その霞みがかった透明感のある声がよく響き渡ったが、原曲に程近い形でシンプルに披露されたこのバラードには呼吸も忘れ聞惚れる人が多かったのではないだろうか。ラストで一瞬鳴らされたフィードバック、そこから回転し始めたミラーボールの演出もひどく感動的なものであった。
●笑顔のあとの夜明けのような幕引き
抱き締めながら刺す、とでもいうようなパフォーマンスの続いた本編。そのラストには、TVアニメ『東京喰種 トーキョーグール』のオープニングテーマとしても知られる「unravel」を、鉄のような攻撃性よりは鉛のような悲壮感を押し出すように歌い上げた。それから一度ステージを降り、拍手に応えて今度は一人で登場したTK。「ライブの録音はあとで懺悔の気持ちを込めて聴くんですけど、いつもMCの声が小さすぎてなに言ってるかわかんないんですよね。でも、歌だけは頑張って歌います」と話し、カッティングやハーモニクスの技巧的な弾き語りで始めたのは、凛として時雨のアコースティックナンバー「eF」。元々はピエール中野(dr)もギターを弾いているこの楽曲、演奏後には「ピエールパートが恋しかったので口で歌ってみました」と、アウトロ部分について笑顔を浮かべる場面もあった。
そして再びメンバーを呼び込むと、最後に未発表の新曲を演奏。他者との関係というよりは、自己に対する疑問や葛藤を綴ってきたTK、この日披露した「contrast」でも<白い息がまだ愛の意味すら分からなくて居なくなった>と歌われているが、新曲は<人の愛し方を歌だけで伝えないで>という歌詞で始まり、<ありきたりな言葉と答えじゃ繋がれないよ>という歌詞で締めくくられる。自身で<歌だけで伝えないで>と歌っていることを考えると、歌でしか伝えられない自己への疑問や葛藤という面もやはりあるかもしれないが、約一時間半にわたって作り上げられた閉鎖的且つ親密な空気を静かに震わせる切実な言葉と、それを私たちの耳に運んでくる暖かなメロディだった。ステージは終わりを迎えたものの、この先を感じさせる、夜明けのような幕引きである。
TEXT:佐藤悠香
◎セットリスト
【TK from 凛として時雨“Acoustique Electrick Session”】
2017年10月14日(土)東京・Billboard Live TOKYO
[1st]OPEN 15:30 / START 16:30
01. dead end complex
02. Secret Sensation
03. Signal
04. Wonder Palette
05. an artist
06. Showcase Reflection
07. Last Eye
08. contrast
09. unravel
EN1. eF
EN2. 新曲
◎ライブ情報
【TK from 凛として時雨 "First Reflection in Beijing"】
2017年10月28日(土)中国 北京・糖果Live
OPEN 18:30 / START 19:30
◎動画
「Signal」http://youtu.be/uNjKYBnRbdE
「Wonder Palette」http://youtu.be/AjK5PJf_SkA
「unravel」https://www.youtube.com/watch?v=gQMmVCv8P3w
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