2017/08/01
Old Style But Gooooooood Style !
なんてヒューマンな温もりに溢れている音楽なんだろう――。
指弾きされたヘヴィ・ゲージの弦から繰り出されるキレのいいフレーズ。そしてコクのある響き。米国ブルーズ・ロックの“リヴィング・レジェンド”=エルヴィン・ビショップが陽気でフレンドリーなステージをたっぷり満喫させてくれた。
1963年にポール・バターフィールドとバンドを組み、68年にはセッション・アルバムの『フィルモアの奇蹟』に参加して、ブルーズ・ロックの最前線に躍り出たエルヴィン。懐が深く、骨格のしっかりしたサウンドは、米国南部の豊かな音楽性を受け継いでいるだけでなく、彼独特の咀嚼も経て、唯一無二のスタイルに昇華されている。その人懐こく、そしてダイナミックなナンバーの数々は、聴き手を心地好く高揚させてくれる。まるで音楽が持つ包容力に抱かれているような錯覚すら感じるふくよかさに溢れているのだ。
多くの熱狂的なファンが待ちに待ったエルヴィン・ビショップ初のビルボードでのライブ。今回はフジロックのステージもこなしてきているだけにバンドとのまとまりはタイトだ。果たして、それは期待を外すことなく、豊潤なグルーヴとメロディがとめどなく湧き出てくる、圧巻の展開になった。
エルヴィンが「秘密兵器」と紹介した女性ベーシストを含む6人のバンドは、ニュアンス豊かなリズムをハッピーなオーラとともに繰り出してくる。初っ端から快調に飛ばすエルヴィンをしっかり支え、3曲目からは早くもディープなブルーズ・ワールドへ――。タメのある独特のシンコペイションを交えながら、ニューオリンズ直系の太いうねりが会場を飲み込んでいく。否応なしに身体が揺さぶられ、気が付けばみんな手を叩いたり足を踏み鳴らしたりして、バンドのグルーヴにシンクロしている。その底なしに官能的なリズムとメロディの絡みは、まさにデルタの湿度や土っぽさといった匂いや肌ざわりをしっかり伝えてくる。ブルーズをベースとした米国音楽の深さを改めて実感した。
まさに「伝説的な存在」と言って差し支えないエルヴィンだが、ステージの上ではひょうきんで微笑ましいキャラクター。たどたどしい日本語を使いながら、観客に親しげに語りかけてくる。演奏が始まると鬼気迫る瞬間が幾度となく訪れるのだが、MCのときはアメリカ南部の片田舎に居そうな“気のいいおじさん”なのがユーモラス。脇を固めるベテランのメンバーたちと陽気におしゃべりしている。
しかし、ひとたびギターを抱えると、とても74歳とは思えないタフさを発揮し、ダイナミックな音を矢継ぎ早に弾き出してくる。ホンキートンク・ピアノやアコーディオン、カホーンなどとリズミックに共鳴しながら、味わい深い旋律をつま弾くエルヴィン。以前からの代表曲はもちろん、今年リリースした新作からのナンバーも披露しながら、ステージはなめらかに進行していく。決して新しい音楽を演っているわけではないが、レガシーをたっぷり吸収した濃密で深い陰影を湛えたサウンドが観客の間をすり抜けながら会場に染み込んでいく時間の移ろいは、まさにライブならではの快楽だ。そんな、ささくれた心に潤いを与えてくれるような90分に、偶然にも誕生日だった僕は、理屈抜きで彼のギターに酔い痴れた。
まさに“真夏の夜の夢”と言ってもいいエルヴィン・ビショップのライブは、今日(8月1日)、大阪で目撃することができる。アメリカのロックやブルーズに親近感を覚える音楽ファンなら、絶対に見逃せないステージであることは間違いない。ぜひ、足を運んでみて。
◎公演情報
【エルヴィン・ビショップ】
2017年7月31日(月) ※終了
ビルボードライブ東京
2017年8月1日(火)
ビルボードライブ大阪
1stステージ開場17:30 開演18:30
2ndステージ開場20:30 開演21:30
詳細:http://www.billboard-live.com/
Photo:Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。例年以上に厳しい暑さが続く今年の夏。灼熱のヒートアイランドに、早くもバテ気味の方も多いのでは? こんなときは、冷涼産地で育まれる爽やかな白ワインが、くたびれがちの身体を元気にしてくれる。オススメはフランス・ロワール地方で造られているソーヴィニヨン・ブラン100%のスティル・ワイン。ハーバルな香りと透明感溢れる酸が、和食にも好相性。サッパリとした液体が喉を心地好く下っていく。銘品の「サンセール」を筆頭に、傑出したワインが目白押しのロワール。酷暑の今こそ、ぜひお試しを!
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像