2017/07/27 12:00
和英辞書で「助ける」と引くといくつかの単語が出てくるが、まず最初に思い浮かべるのは「help」か「rescue」ではないだろうか。日本語では分かりにくいが、この2つには大きな違いがある。簡単に言えば「help」は「手伝う」といった軽いニュアンス。一方の「rescue」はそれよりも差し迫った状況下、危機や困難にあることを暗示し、組織的な動きを意味することが多いという。
2017年7月15日、米津玄師が自身初となるホールワンマン2DAYSの最終公演を東京国際フォーラム ホールAで開催した。タイトルは【RESCUE】。米津と言えば、最新曲「ピースサイン」のMVが公開からわずか24時間でYouTubeの再生回数100万回を突破し、7月3日付のBillboard JAPAN HOT100チャート、Hot Animationチャートでは1位を獲得するなど、今最も勢いに乗っているアーティストの一人である。その作品に救われている人は多い。だがどうだろう。今回の「RESCUE」に関しては、彼自身もまた救助の対象であったように思えるのだ。
●かつての孤独な少年による“救いの手”
合計約10,000枚のチケットは即日完売し、最終日も約5,000人が会場に詰めかけた。開演時間になると、The XX「A Violent Noise」のSEでバンドメンバーと米津が登場。歓声とピンク色の光に包まれる中、ライブはシンセサイザーのフレーズが特徴的な「ナンバーナイン」からスタートした。ステージには4つの四角いステップがダイヤ型に置かれており、中心手前の米津から時計回りに、須藤優(b)、堀正輝(dr)、中島宏士(g)という位置。なお、このお立ち台の縁にはライトが仕込まれており、ダンサンブルなナンバー「メランコリーキッチン」では、米津の得意とするトリッキーなリズムに合わせて明滅したのだが、こういった演出が多く見られたのも【RESCUE】の特徴となった。
ステージ背後や上部にはスクリーンも設置されており、「どーも、米津玄師です! 今日はよろしく!」という挨拶のあと、夢幻に迷い込んだような怪しさの香る「Black Sheep」ではノイズや煙といった抽象的なムービーが流れ、米津がボカロPとして活動する際に用いるハチ名義で発表した【初音ミク「マジカルミライ 2017」】のテーマソング「砂の惑星」では初音ミクも登場。テレビ朝日系『報道ステーション』のオープニング映像でも知られる加藤隆が手がけたアニメーションも、いくつかの楽曲で強い存在感を放つことになる。
米津の楽曲は音や言葉の数が多く、打ち込みも頻繁に使用されるため、ライブでの再現が難しい。だが、だからこそ彼が信頼を寄せるメンバーの演奏力、そしてその歌唱力をもって生音としてかき鳴らされたとき、何十回、何百回と聴いた楽曲でもまた違った温かみを持つのである。ストリングスも導入されている「orion」などバラードの深みも増すが、特にこの演奏時には照明が落ちると同時にスクリーンに無数の星が投影され、会場がプラネタリウムのような空間となったため、息を呑んだ人も多かった。最後のサビ部分ではミラーボールが回転。先ほどまで平面上にあった星が360度に飛び散り、観客は見事宇宙に放り出されることとなった。
そして「まだまだいけますか? どうぞよろしく!」の一声からは、ボーカロイドではない自身初の作品である「ゴーゴー幽霊船」をはじめ、最近ではライブでも絶大な人気を誇るナンバーを連投。昨年秋に発表された「LOSER」のミュージックビデオではダンスも披露し話題となったが、この日はハンドマイクで「駄菓子屋商売」を歌いながら体を動かす場面も。この時点で演奏曲は10曲超え。それでもまだノンストップで駆け抜け、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』のオープニングテーマでもある「ピースサイン」後、ようやく米津は「元気ですか?」と口火を切った。演奏曲などについても短く話し、本編ラストには色彩豊かなムービーを背後に、ベースラインなどの低音が目立つダウナーな「fogbound」、舌が絡まりそうなメロディラインと幻想的なシンセサイザーが絡まる「春雷」を初披露。どちらもレコーディングしたばかりだという未発表の新曲である。
●かつての孤独な少年のための“救いの手”
アンコールに応じて再登場した米津は「どうもありがとう」と礼を述べ、サビ前のブランクなどで太鼓を叩きながら代表曲「アンビリーバーズ」を。メンバー紹介ではサポートギターの“なかちゃん”こと中島宏士について「小学校4年生から一緒の幼馴染で」と説明し、そして彼は「昔は本当に早くここから出ていきたいっていう、その一心で過ごしてた。遠くへ行きたい、遠くへ行きたいっていう想いが強くて。それで気がつけばこうやって一緒になかちゃんがステージに立ってて、スタッフの人たちがいて……俺から言えることは、遠くへ行けってことくらいかな」と笑顔を浮かべた。先ほどの「ピースサイン」については「子どものころを思い返すことがすごく増えて、その一貫の曲なんですけど」と話していたが、最後に歌われた「neighbourhood」も同じようにして生まれた楽曲とのこと。歌詞にもこんな一節がある。<きっと夢は叶うなんて嘘を/初めから信じちゃいなかった/それでもなおここまでこれた/お前はどうしたい?>
今までの発言や作品から察するに、米津は孤独な少年だったに違いない。そこから考えれば随分と遠くへ来たことだろう。だからライブタイトルを目にしたときには当たり前に「RESCUE YOU」だと思った。だがこれは彼の「RESCUE ME」でもあったのではないだろうか。かつての孤独な少年は、まだ<お前が許せるくらいの/大人になれたかな>という不安を覗かせながらも、多くの人に支えられながら、最後に「ありがとう。米津玄師でした!」と自らの名を高らかに叫べるくらいの自信を得て、今、しかと前を見据えている。こうして彼が救われていくにつれ、不思議と私たちも、少しずつ、救われていくのである。
TEXT:佐藤悠香
PHOTO:中野敬久
◎セットリスト
【米津玄師 2017 LIVE / RESCUE】
2017年7月14日(金)15日(土)東京国際フォーラム ホールA
01. ナンバーナイン
02. フローライト
03. メランコリーキッチン
04. あたしはゆうれい
05. 翡翠の狼
06. Black Sheep
07. 砂の惑星(新曲)
08. orion
09. ゆめくいしょうじょ
10. ゴーゴー幽霊船
11. 駄菓子屋商売
12. ドーナツホール
13. アイネクライネ
14. LOSER
15. ピースサイン
16. love
17. fogbound(新曲)
18. 春雷(新曲)
EN1. アンビリーバーズ
EN2. Neighbourhood
◎ミュージックビデオ
「ピースサイン」http://youtu.be/9aJVr5tTTWk
「orion」http://youtu.be/lzAyrgSqeeE
「LOSER」http://youtu.be/Dx_fKPBPYUI
◎ツアー情報
【米津玄師 2017 TOUR / Fogbound】
2017年11月01日(水)大阪府・フェスティバルホール
2017年11月02日(木)大阪府・フェスティバルホール
2017年11月04日(土)兵庫県・神戸国際会館こくさいホール
2017年11月05日(日)兵庫県・神戸国際会館こくさいホール
2017年11月08日(水)埼玉県・大宮ソニックシティ
2017年11月09日(木)埼玉県・大宮ソニックシティ
2017年11月18日(土)徳島県・鳴門市文化会館
2017年11月19日(日)愛媛県・松山市民会館
2017年11月23日(木・祝)福岡県・福岡サンパレス
2017年11月24日(金)福岡県・福岡サンパレス
2017年11月26日(日)鹿児島県・鹿児島市民文化ホール第一
2017年11月29日(水)新潟県・新潟県民会館
2017年12月01日(金)北海道・ニトリ文化ホール
2017年12月07日(木)宮城県・仙台サンプラザホール
2017年12月09日(土)福島県・郡山市民文化センター 大ホール
2017年12月14日(木)神奈川県・パシフィコ横浜 国立大ホール
2017年12月16日(土)愛知県・名古屋国際会議場センチュリーホール
2017年12月17日(日)愛知県・名古屋国際会議場センチュリーホール
2017年12月23日(土・祝)岡山県・岡山市民会館
2017年12月24日(日)広島県・上野学園ホール
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