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2017/05/23 20:00

クリスタル・キャッスルズ【単独来日公演】エディスが振り乱す蛍光グリーンのヘア、鮮やかに染まる自滅的な多幸感

 転生か蘇生か――カナダ・トロント発のエレクトロ・パンク・デュオ、クリスタル・キャッスルズ(Crystal Castles)の単独来日公演プレビュー(http://bit.ly/2pRzcD0)でこんなことを書いてから約2か月。2017年5月15日、東京・代官山SPACE ODDにて開催された今回の公演は、初代ヴォーカリストのアリス・グラス(Alice Glass)が在籍していた旧体制からは9曲、新ヴォーカリストとしてエディス・フランシズ(Edith Frances)が加入した新体制からは8曲と、これまでの歴史を総括するようなものになった。

●【YOUR ROMANCE】ドリーミーな楽曲を奏でる図太いバンド・サウンド

 オープニング・アクトには、都内で活動する4人組シンセポップ・バンド、YOUR ROMANCEが出演。バンド結成の2014年、Youtubeにアップロードされた楽曲で一気に注目を集め、翌年4月には配信限定で初の音源をリリース。2016年に1stフルアルバムとPAELLASとのスプリットEP、今年初めにPHOTO ZINE『Rendez Vous』を発売するなど、多方面で活躍する彼ら、これまでにもオブ・モントリオール(of montreal)やジ・エルウィンズ(The Elwins)の来日公演に出演している。

 ただクリスタル・キャッスルズとは不思議な組み合わせに感じるかもしれない。「YOUR ROMANCE」というバンド名も示すように、浮遊感のあるInui(vo,g)とShinji(vo,syn)のツイン・ヴォーカルに、Shissy(b)とShun(dr)が加わって織り成すメランコリックでドリーミーな楽曲は80~90年代ポップスを彷彿とさせる。しかし生で聴くと意外にも芯の通った図太いバンド・サウンドだ。「クリスタル・キャッスルズは大好きなんです」というInuiの言葉にも素直に納得できる迫力であった。

●【クリスタル・キャッスルズ】神秘的且つ暴力的なエレクトロ・サウンド

 ステージ転換を挟み会場が暗転すると、歓声と共に「Antiquate」が流れ出す。現時点では発表されていないため、モーツァルト『レクイエムニ短調KV626』より「涙の日(ラクリモーサ)」のサンプリングとして存在しているこの楽曲。クリスタル・キャッスルズの真骨頂とも言える神秘的且つ暴力的なサウンドが広がる中、エディスとサウンドメイカー兼プロデューサーのイーサン・カス(Ethan Kath)、サポートドラマーが登場し、4ビートのインスト楽曲「INTIMATE」でパフォーマンスをスタートさせた。

 2014年にアリスが脱退したのち、2016年より正式メンバーとして明かされたエディスは初来日。未だ謎に包まれている彼女、この日は両端の尖ったフォックス型サングラスをかけ、天井のミラーボールにも負けじと輝く蛍光グリーンのヘアに真っ赤なルージュ。新生クリスタル・キャッスルズを自分の目で確かめようと集まった約400人は、まずこのパンキッシュな姿に目を奪われたに違いない。しかしエディスは好奇の眼差しを跳ね返すかのごとく、いきなりペットボトルの水を撒き散らし、初っ端から強気にフロアを煽ってみせた。

 エディス加入後のアルバム『Amnesty(I)』から最初に放たれたのは「CHAR」。いつも通りフードを深くかぶったイーサンは、ステージ向かって右手に置かれたRolandのシンセサイザー『V-Synth GT』2台とPioneerのDJ機器を寡黙に奏で、音源よりも更に歪んだヴォーカルを槍のように鋭い一つの音として昇華する。楽曲同士はノイズなどで見事にコネクトされ、連打される単音がマシンガンにも似ている「ENTH」のアウトロでは、初期の名曲「CRIMEWAVE」における特徴的な電子音が鳴り響き、これには大きな歓声が沸いた。

 足の裏から入り込み五臓六腑をねじり上げるような轟音は「TELEPATH」で激しさを増し、目を眩ませる色とりどりのストロボライトもさることながら、端正な顔を鬼のような形相に変えステージ上で飛び跳ねたり、マイクスタンドを振り回したりというエディスのド派手なパフォーマンスも相まって、徐々にオーディエンスの理性は崩壊。皆がプラコップを持ったまま踊り狂うため、どこからともなく液体が降りかかり、最近では珍しくダイブをする人の姿も見られたほど。アリスを恋しく思うのは私だけではないはずだが、心配が杞憂に終わったという人は多いだろう。

 細かいエディットとステレオ効果が印象的なエディス加入後の「KEPT」、デビューアルバムの始まりをチープなフレーズで飾る「UNTRUST US」という象徴的な2曲はメドレー風にアレンジ。そこから音階の崩れるような展開を経て、規則的なリズムのスピードアップに続いた「CELESTICA」でクリスタル・キャッスルズは一旦撤退。DJの流れから、合唱団によるニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」のカヴァーをサンプリングに使用したナンバー「FEMEN」が響き渡ると、会場は開演時と同じ厳かな雰囲気に。ただそれもすぐに凄烈なビートの嵐で吹き飛び、もはや前後もなく四方八方に暴れまわる人の群れ。そのまま共倒れするなら望むところ、とでもいうような自滅的な多幸感。網膜に飛び込んでくる光景が現実なのかもわからない。

 最後まで怒涛の勢いで駆け抜け、MCは一切なし。クリスタル・キャッスルズの真骨頂とも言えるハードコア・テクノ調の「CONCRETE」で公演が締めくくられると、感謝と称賛の印としてこの日一番の大きな拍手が贈られた。転生にしろ蘇生にしろ、そこで彼らの音楽が鳴る。ただそれだけで充分だった。

TEXT:佐藤悠香

◎セットリスト
【Crystal Castles 来日公演】
2017年5月15日(月)東京・代官山SPACE ODD
01. ANTIQUATE
02. INTIMATE
03. BAPTISM
04. SUFFOCATION
05. CHAR
06. KEROSENE
07. --/// --- - -
08. ENTH
09. CRIMEWAVE
10. FLEECE
11. FRAIL
12. TELEPATH
13. KEPT // UNTRUST US
14. CELESTICA
15. FEMEN
16. --/// --- - -
17. WRATH OF GOD
18. NOT IN LOVE
19. CONCRETE

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