2017/05/10 17:30
今年で結成20周年を迎えるカサビアンが、5月10日に約3年ぶり通算6作目となるニュー・アルバム『フォー・クライング・アウト・ラウド』の国内盤をリリース。これ記念して、メンバーのサージ・ピッツォーノ(G/Vo)が本作に込めた思いや制作過程、近年の音楽シーンについて語る日本独占インタビューが公開された。
――アシッドハウスやダンス、エレクトロ、ヒップホップの要素もふんだんに盛り込まれていた前作『48:13』に対して、この新作『フォー・クライング・アウト・ラウド』はギター・ロックに再び立ち返った最高のロックンロール・アルバムということになるかと感じたんですが、まずはあなたの本作に対する手応えを訊かせてください。
サージ:最初から、王道ギター・ロックの作品を作ろうと思って制作を始めた。しかも、時間を掛けずに短期間で作りたいと思った。スタジオに入って、曲を書いて、それを録って出す、という昔ながらのやり方でね。で、その最初に決めたプラン通りの作品ができたと思っている。出来上がったものには満足しているよ。自分が抱いていた感覚だ。このアルバムは純粋にその感覚を表している。色々試しながらも、原点に立ち返って最高のギター・アルバムを作りたかった。久しく作られていないからね。
――「久しく作れていない」ということですが、それがロックンロール・アルバムを作りたいと思ったきっかけ、動機だと?
サージ:そうだね。今多くの人の耳に響いているのは違う音楽だ。それはそれでいい。でも、そろそろいいんじゃないかって思った。いい加減ね。君はどうかわからないけど、俺はもっと生々しい音だったり、ディストーションの掛かった音が聞きたいし、嘘偽りのない、心から鳴らされる音が聞きたい。機械の音じゃなくて人間が鳴らしている音をね。
――あと「時間を掛けずに短期間で作りたかった」というのはなぜでしょう。
サージ:前作があまりにも濃密な作業だった。スタジオに何時間もこもっては、ループを何度も聞き返したり、サウンドの実験を繰り返した。今回はそれをやりたくなかった。最高の歌を書いて、それをできるだけ早く録りたかった。そうすることで、純粋な感覚を形にしたいと思った。高揚感のある、ポジティヴで希望に満ちたアルバムにしたかったんだ。
――本作のコンセプトはいつどのように組み立てられてきたものなんですか?
サージ:スタジオには常に出入りしているし、いろいろなアイディアは飛び交っている。で、実際に本腰を入れたのは去年の頭だ。6週間と期間を決めて、曲作りを行なった。そこで10曲書いて、少し休暇に出かけた。戻ってきて、できた曲にさらに磨きを掛け、プロデュースをして、よりカサビアンらしい音にしていった。それから年の終わりに掛けてあと2曲追加で書いた。「 Bless This Acid House」と「Ill Ray」だ。そんな感じで完成したんだ。
――今作も全曲あなたの作詞作曲、プロデュース作ということですよね。これまでの作品と比べて新たに試したことがあったとしたら?また、プロデュースにおいてどんな点にもっとも重点を置きましたか?
サージ:今回は原点に戻る、というアプローチをとった。だから、ハーモニーとメロディー、そして曲の構成に重点をおいた。モータウンのバリー・ゴーディー的なアプローチを心がけて、完璧な曲構成を目指した。適確で、完結で、直接的な歌、という発想に惹かれた。そこに今回一番やりがいを感じた。
――先ほど「カサビアンらしい曲にしていく」という話がありましたが、具体的にどういうことですか。
サージ:素晴らしいメロディーや歌ができていたお陰で、サウンド面でより面白いこと試みることができた。最高のサビがあれば、それに頼ることができるからね。心がけたことは、必要以上の楽器を取り入れずに音数を抑えることで、一番重要な要素である“歌”にしっかり焦点を当てることだった。アルバムの中で「Are You Looking For Action?」は誇りに思っているし、素晴らしいアルバムのセンター・ピースだと思っているけど、あの曲を手がけた時が唯一アシッド眼鏡を掛ける感じで、思い切り、聞き手を旅に誘うアレンジを施した。他の曲はどれも“4分以内に全て納める”と決めていた。そうやってルールを決めて臨んだことが今回凄く刺激になった。
――先行シングルの「You're In Love With A Psycho」はカサビアンの過去のシングル群の中でも際立ってポップでメロディアスなナンバーと言っていいんじゃないかと思います。この曲が生まれた経緯について訊かせてください。
サージ:ある朝、自然と口から出てきたんだ。ギターを手にしたら、流れるようにあの曲が出てきた。
――15分で書いてしまったそうですね?
サージ:そう。たまたま物事が上手くいく日だったんだろうね。どこから出てきたのか、なぜあの場で口ずさんだのか、自分でも全くわからない。気づいたら歌っていた。最高だったよ。15分で大体出来ていたからね。サビの部分を聞き返してみて、思わず笑みがこぼれたんだ。なんて楽しい曲なんだって。悪意は全くない。だって、誰にでも多少は邪悪な部分があるものだろ。凄く甘いメロディーと美しいポップ・ソングに捻りのある歌詞と言う組み合わせが気に入っている。意外性があるのはいつだって好きだ。
――また、ノエル・フィールディングらが出演している「You're In Love With A Psycho」のミュージック・ビデオ(https://youtu.be/kimPUWSwxIs)の撮影風景がちらっと公開されていましたけど、それを観ただけでもだいぶヤバそうな気配がするビデオでした(笑)。どんな内容、そしてどんなメッセージを込めて作ったビデオなんですか?
サージ:『カッコーの巣の上で』がベースになっている。あとグルーチョ・マルクスが出ている『我輩はカモである』もベースになっている。40年代のハリウッド映画もね。俺たちはどこかの戦場にいるという設定だ。これまでで最高のビデオになったと思う。白昼夢を讃える、素晴らしいビデオだと思う。誰もが狂気を内に秘めている、ということを皮肉を交えて、真面目腐らず、笑える感じで表現している。
――前作から本作までの3年間は、カサビアンにとって、またあなた個人にとってどんな時期だったと言えますか?
サージ:その3年のうち、2年はバンドでツアーをしていた。2年ツアーした後、残りの1年はこのアルバムを作るのに専念していた。その間に休暇もとったけど、基本的には働きっぱなしだ。
――この3年間での体験、経験が本作に影響を与えたことがあったとしたら?
サージ:地元のレスター・シティーがプレミア・リーグで優勝した。あれは最高に嬉しかった。あと個人的には結婚もした。アルバムを作っている合間に結婚をして休暇をとったのも凄く楽しかった。
――おめでとうございます。凄くポジティヴな時期だったようですね。
サージ:ああ、物凄くポジティヴだった。非常に充実していたし、このアルバムを作るのも楽しかったよ。
――ちなみにトムにとってはなかなかタフな時期だったとインタヴューで彼は語っていますよね。
サージ:そうだね。彼にとってはかなり辛い時期でもあった。けど、このアルバムが彼にとって希望の役割を果たしたと思う。このアルバムを作ることが。特にこのアルバムは凄く高揚感があってポジティヴだったから、これを作ることが彼にとって精神浄化作用になったと思う。
――また、この3年の間にはイギリスがEUを離脱し、アメリカでトランプ大統領が誕生するという、世界的にこれまでの価値観を破壊され、試されるような大きな転換点があったわけですけど、そういう時代の激動はあなたの表現に影響を与えたと思いますか?たとえばアメリカでは今、ロック&ポップ・アーティストたちによるアンチ・トランプのプロテスト・ソングが次々に生み出されている状況だったりしますよね。
サージ:アルバムを作ってる最中は全く意識していなかった。世の中で起きていることと関係なく、自分の本能にしたがって作りたいアルバムを作った。でも、結果的に自分がやったことというのは、今の時代に対する俺たちなりの貢献となる作品を作ったということだった。前向きな感覚だったり、希望を示している。人々の気持ちを高揚させる音楽を世に出す。こんな時代だからこそ、そういう音楽を出すことが大事だと思っている。どれだけ最悪かってことを訴える人たちもたくさん出てくるだろう。俺たちはそんな中で前向きな気持ちや希望を発したかった。
――では、楽曲について訊かせてください。最初に最高のロックンロール・アルバムと言いましたが、シンプルでストレートなロックチューンだけではなく、カサビアンらしい危険でアヴァンギャルドなナンバーも中盤以降びしばし入っているのが最高です。ディープな音楽マニアでもあるあなたが、今回特にインスパイアされたアーティストや作品があったら教えてください。
サージ:ESGというバンドがいるんだけど、彼らにはたくさん刺激をもらった。ESG、それからトーキング・ヘッズの存在は大きかった。あとヤング・ファーザーズ(Young Fathers)を気に入ってよく聞いていた。他にはロキシー・ミュージックなんかも聞いた。70年代のギター・ミュージックに傾倒していた。素晴らしいメロディーに、歌も最高で、尚且つ、サイケデリックなサウンドも健在だ。一挙両得、という。そもそも曲がいいから聞きがいがある上に、入り組んだ、面白いサウンドもあって聞き応えがある。あの時期の音楽に凄く刺激をもらったよ。
――前作ではカニエ・ウェストの『イーザス』に刺激を受けたと言っていましたが、そういう意味合いの作品は今回ありましたか?
サージ:ないよ。ない。どう言えばいいのか…、70年代のあの感覚が大きかった。あの時期独特の空気感というのか。でも、ただの模倣にはしたくなかった。レトロな作品にはしたくなかった。ただ…、T・レックスやボウイ、ラモーンズ、セックス・ピストルズといった、あの時代ならではの雰囲気に惹かれたんだ。
――ちなみにいちリスナーとして、最近のリリースで面白い、気に入ったものがあったら教えてください。
サージ:さっきも言ったけど、ヤング・ファーザーズの2枚目が凄く気に入っている。あとは…、デス・グリップスは今も変わらず好きだし、ケンドリック・ラマーのアルバムもお気に入りだ。
――そして、本作中で間違いなくキー曲のひとつと言えるのが8分22秒の大作「Are You Looking For Action?」です。この曲が生まれた経緯について教えてください。
サージ:原型は3分しかなかったんだ。今作のテーマでもあった、簡潔なポップ・ソングとして元々書いた。それが、休暇から帰ってきて聞き返してみたら、聞き手をサイケデリックな世界の狂った旅に誘える可能性をこの曲は秘めていると感じた。ダンス・フロアにもうってつけだ。ダンス・フロアではせっかく盛り上がっているところで曲に終わって欲しくないよね。そのまま続いて欲しいと思う。だからこの曲でそれをしっかり示すのが大事だった。その結果、8分にも及ぶものになった。ロキシー・ミュージックの曲を聴いていて、サックス・ソロにヒントをもらったんだ。ワクワクしながら書いた曲だよ。
――このとんでもなくアイディア過剰な状態を曲としてまとめていくのって大変じゃなかったですか?
サージ:う~ん、どうかな。確かに自分の中できちんと整理したり、時には自分の抑えることも必要になってくる。まあ、納得がいくまで取り組むことだと思う。何度かやってみれば、やるべきことは自ずと見えてくるものなんだ。
――作詞作曲プロデュース、そのすべてを一手に担っているということで、煮詰まったりすることはなかったですか?
サージ:もちろん。でも明日にはまた新しい日で来る。何年もやってきて学んだんだ。物事がうまくいかない時は、一旦止めることだ。続けても、振り続ける雨に向かって叫んでいるだけで、何も生まれない。一旦その場を離れて中に入れば雨も降っていない。次の日には気持ちを新たに臨むことができる。「よし、何か掴めたぞ」って感じでね。
――他の人に助言を求めたりとか。
サージ:う~ん、どうだろう。自分の場合、とりあえず音楽を聴くかな。そうすることで脳がリセットできて、解決策も見出せる。他の曲を色々聴く中で、「なるほど、そうやればいいのか」ってヒントにも出会う。過去の名作や、感性を刺激してくれる音楽を聴くことが、音楽を作る上で助けになる。気持ちや考えを切り替えるきっかけになる。
――本作の制作で最も苦労した点はどこですか?
サージ:手放すこと(笑)。いつものことなんだけど、どこで止めるかが一番難しい。だからリリース日が決まっているのはありがたい。締め切りがきたらそれ以上手直ししたくてもできないから。その分ギリギリまで何かしら手を加えているけどね。
――あなたはインタヴューで「世の中的にはポップ・ミュージック、ポップ・スターはエド・シーランなんだろうけど、俺にとってのポップ・ミュージック、ポップ・スターはCANのダモ・鈴木なんだ」と言っていました。あなたは今の英国のポップ・ミュージック・シーン、また、ギター・ロックの現状についてどんな展望を持っていますか?また、そういう状況の中でカサビアンの果たすべき役割は何だと思いますか?
サージ:今はポップ・ミュージックがシーンを独占していて、そのバランスは不当とも言えるほどの偏りだ。あらゆるメディアを占領している人たちとこっちは競わなきゃならない。勝ち目なんてないよ。これだけ偏っていたら。唯一できることがあるとすれば最高の音楽を作ることだ。最高の音楽であれば、人は見つけ出してくれる。全てのラジオ局でかかるわけじゃないかもしれないし、優遇されることもないかもしれないけど、最高の曲を作れば、それは人の耳に必ず届くはずだ。今の市場が独占されている状況は、まさにメジャー・レーベルの思う壺だ。クリーンで、子供が喜ぶ、みんなが楽しめるもので占領されている。でも、かつては、同じテレビの番組でも、ナイン・インチ・ネイルズとスパイス・ガールズが同等に扱われていた。あの世代の若者にとってはそれが良かった。少なくとも、ポップではない「亜流」にあるものに触れる機会があったから。そういうのを目にして、「違う世界が存在するって知ったからにはもうポップなんて聴けない」って思わせてくれた。つまりポップ・ミュージックとは違う世界があるんだってことを人に知ってもらうことなんだけど、それが今はなかなか難しい。
――ギター・ロック復権への担い手として周囲からの期待や自分たちの使命感は感じてますか。
サージ:あると思うよ。これまでもずっとそういう思いはあったし、自分たちの音楽が若い世代に何らかの刺激になればいい。長く活動してきたけど、他のバンドや、音楽に関わらず映像作家、芸術家にも刺激になれたら嬉しいよ。
――アートワークについて。なぜこのおじさんの写真を(笑)?グラフィックだった『48:13』からは真逆の方向に行きましたよね?
サージ:写真に写っているのはリック・グラハムという、カサビアンのローディーを14年間やってくれている人だ。「For Crying Out Loud」というのはそもそも非常に英国的な言い回しで、「何てこった」という意味なんだけど、それを書き出した時に、“思わず大きな声で叫んでしまうくらい揺さぶられる音楽”を連想してなんて素晴らしいんだって思ったんだ。で、それを表現するのに一番ピッタリの顔こそ、この70歳になる男だと確信したんだ。画家のフランシス・ベーコンのインタヴューを読んだことがあって、その中で彼は、友人しか描かないと語っていて、なぜかというと、その人たちの人となり、顔の表情や繋がりを全て知っているからだと。俺も、このジャケットこそが人々を自分たちの世界に呼び込んでくれると思った。「これが俺たちの世界だ」ってね。「綺麗な若い女性を載せなきゃだめだ」とか「かっこいいイメージを使わなきゃだめだ」とか、そんなのまっぴらごめんだ。俺たちはこの実に美しい70歳の男性の写真を(アートワークを手がけた)アーティストに渡して、それを核にアートワークを作ってもらったんだ。なかなか最高だと思っている。
――実際彼は「For Crying Out Loud」とよく言うのですか。
サージ:いっつも言ってるよ!アンプを持ち上げようとして重すぎたりとか、誰かにぶつかった時に「For Crying Out Loud!」と叫んでるさ。
――ちなみに「Sixteen Blocks」はあなたのふたりの息子さんがシンセサイザーで参加してるようですね。お子さんはまだ小さいですよね?参加のいきさつは?
サージ:学校から帰ってきたばかりでスタジオにやってきて、隅の方で、置いてあったシンセをいじり出して、ノブをめちゃくちゃに動かして遊んでた時の音が最高だったんで、それをそのまま使うことにしたんだ。
――8月にはいよいよソニックマニアでのヘッドライナー来日が決まっていますよね。
サージ:そうそう。今から待ちきれないよ。
――今作のツアーはどんな内容になりそうですか?
サージ:純粋に高揚感と喜びで溢れたものになる。正にレイヴ。正真正銘のレイヴになるよ。今のセットリストは全て揃っているから特別なものになると思う。これまで長年積み上げてきたものもある。俺たちのライヴは最強だ。人生最高の夜を期待していてくれ。
インタビュー:粉川しの
通訳:伴野由里子
◎リリース情報
New Album『フォー・クライング・アウト・ラウド』国内盤
2017/05/10(水)RELEASE
<初回生産限定盤[2CD]>
SICP-5316~5317 / 2,800円(tax out)
<初回仕様限定盤[1CD]>
SICP-5318 / 2,200円(tax out)
※国内盤のみボーナス・トラック5曲収録
◎公演情報
【ソニックマニア2017】
日程:2017年8月18日(金)
会場:千葉・幕張メッセ
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