2017/05/09
音楽家/アーティスト/プロデューサーとして活躍する やくしまるえつこが、メディアアート界のオスカーとも言われる世界最大の国際科学芸術賞「アルス・エレクトロニカ賞」の『STARTS PRIZE』で、グランプリ(Grand Prize for Artistic Exploration)を受賞した。
「アルス・エレクトロニカ賞」の『STARTS PRIZE』は世界中で最も優れた、科学/芸術/テクノロジーがクロスオーバーした作品を決める賞で、アルス・エレクトロニカが欧州委員会(EC)からの命を受け実施。この度、やくしまるえつこの作品『わたしは人類』(英語名:Etsuko Yakushimaru - “I’m Humanity”)が、日本人初となるグランプリを受賞した。
『わたしは人類』はやくしまるえつこがバイオテクノロジーを用いて制作した作品。“人類滅亡後の音楽”をコンセプトに、新しい音楽 ― 伝達と記録、変容と拡散 ― の形を探るプロジェクトで、人類の歴史上初めて「音楽配信」「CD」「遺伝子組換え微生物」で発表された音楽作品だ。
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「人類は古来より伝達と記録によってその歴史を継続させてきた。そして音楽の歴史もまた、伝達と記録、ひいては変容と拡散の中にある。歌われ/奏でられた音楽は、口承で/楽譜で/ラジオで/レコードやCDで/クラウドで、他者に伝えられ/複製され/演奏され、その過程で変異を発生させながら時空を超えて拡散する。音楽とメディアの深いかかわりは、伝達と記録の関係性であり、それは遺伝子とDNAであるとも言える。」
- やくしまるえつこ
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やくしまるえつこは、日本に古くから生息するシアノバクテリアの一種である微生物・シネココッカスの塩基配列を用いて楽曲『わたしは人類』を作成。さらに、やくしまるはその楽曲の情報をDNAコード化し、DNAを人工合成してこの微生物の染色体に組み込み、実際に『わたしは人類』の遺伝子組換え微生物を制作している。そのようにして制作された『わたしは人類』は、人類の歴史上初めて「音楽配信」「CD」「遺伝子組換え微生物」という3つの形で発表された。
バイオテクノロジーを駆使して作られ、発表されたこの曲が世界配信され、ポップミュージックとして流通し、Apple Musicのトップページを飾る。そして、楽曲発表と同時に、遺伝子組換えでできた新たな微生物それ自体を、2016年9月から茨城県で開催された国際芸術祭「KENPOKU ART 2016」のテーマソングとして展示、その後、山口の美術館である山口情報芸術センター[YCAM]でも展覧会が行われた。これらの展示において、日本の経済産業大臣が初めて「遺伝子組換え微生物」の一般公開展示の大臣認可を行い、日本で初めて公共の場所で「遺伝子組換え微生物」が展示されたのだ。
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「この音楽をDNA情報にもつ遺伝子組換え微生物は自己複製し続けることが可能である。いつか人類が滅んだとしても、人類に代わる新たな生命体がまたその記録を読み解き、音楽を奏で、歴史をつなぐことになるだろう。」
- やくしまるえつこ
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「作品自体は自分と切り離されているものと思っていて、それは読み解かれた時点で作品が現れるという感覚です。読み取り手がないことには、作品があってもそれはただの情報の羅列でしかないもので、逆に言うと、どういう状況でどんな人が、あるいはどんなものが、その情報をどのように読み取るのかっていうことが、作品にとってはほぼ全て。だからこそ、全方位に開いていた方がおもしろい。
機械が読み取るとどういうふうに変換されるのか、人工知能がその音楽を聞くとどういう解釈を示すのか、あるいは地球外生命体のフィルターを通すとどういう色に映るのか、そしてそこにはどんな差異が発生するのか。そのような思索の一環として、人類が滅亡したのちに誕生するポストヒューマンにもこの情報の羅列を解析してもらいたいと思ったのです。」
- やくしまるえつこ
(WIRED.JP『わたしは人類』インタビューより)
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『わたしは人類』の2つの映像作品が、みらいレコーズオフィシャルYouTubeチャンネルにて公開。1つ目は、やくしまるえつこ『わたしは人類』の実際の遺伝子情報を基にしたビデオ。この映像は1970年代に登場した生命の誕生、進化、淘汰などのプロセスを簡易的なモデルで再現したシミュレーションゲームである「ライフゲーム」のアルゴリズムを使って作られている。
もう一つの映像は2016年12月に『わたしは人類』の遺伝子組換え微生物が展示された山口情報芸術センター[YCAM]での、やくしまるえつこのバンド「相対性理論」による『わたしは人類』のライブパフォーマンス映像。このライブパフォーマンスでは、シネココッカスのDNAに基づき『わたしは人類』の譜面中に仕掛けられたトランスポゾン(ゲノム上を転移する、突然変異の原因となる遺伝子)のパートにおいて、実際に突然変異が起こるアレンジで演奏された。
◎やくしまるえつこ
アーティスト、音楽家、プロデューサー、作詞家、作曲家、編曲家、ボーカリストとして、ポップミュージックからエクスペリメンタルミュージックまで幅広く活躍。ドローイングやインスタレーション、メディアアート、詩、文筆、朗読、と多岐に渡る活動を一貫してインディペンデントで行っている。自身のバンド『相対性理論』をはじめ数々のプロジェクトをプロデュース、また、SMAPやももいろクローバーZらへの楽曲提供も行い、『美少女戦士セーラームーン』の主題歌なども担当している。
2016年には、レコード会社にも事務所にも所属しない完全インディペンデントのアーティストとして日本の音楽の歴史上初めて、自身のバンド相対性理論の日本武道館公演『八角形』を実施。2016年に発表したアルバム『天声ジングル』や『フライング・テンタクルズ』には、坂本龍一や、アメリカの伝説的テクノアーティストであるジェフ・ミルズ、オーストリアの音楽家クリスチャン・フェネス、カンヌ映画祭受賞映画監督の黒沢清ら、国内外のアーティストが賛辞を贈った。
アート分野でも、ドローイングやインスタレーション、人工衛星や生体データを用いた作品、人工知能と自身の声による歌生成ロボット、オリジナル楽器の制作、といった試みを次々に発表。六本木・森美術館や豊田市美術館をはじめ美術館や芸術祭などでの作品展示も行っている。
日本の最も著名なSF文芸誌『SFマガジン』(早川書房)において、存命中の音楽家としては初めて表紙特集が組まれる(没後の音楽家を合わせると、やくしまるえつことデヴィッド・ボウイの2人だけ)など、その活動内容はもちろん、存在そのものが未来的・先鋭的な存在として、音楽と最先端の科学やテクノロジー、現代アートを自然且つ自由に繋げる活躍を続けている。
やくしまるえつこのことを、芥川賞およびフィリップ・K・ディック賞受賞作家の円城塔は、「人力、世界シミュレーター」と評している。
http://yakushimaruetsuko.com/archives/2602
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