2016/08/05 11:30
1年間の期間限定で復活した“鈴木茂とハックルバック”、待望のビルボード公演が実現した。このハックルバックは、はっぴいえんど解散後の鈴木茂が米西海岸へ渡ってレコーディングした初のソロ・アルバムにして名盤『バンド・ワゴン』(75年)の収録曲を演奏するために結成されたグループ。鈴木以下のメンバーは、上田正樹らとプレイしていたキーボードの佐藤博、田中章弘(b)、林 敏明(ds)の3人で、正式なレコーディングは残されていない。唯一存在したのが、オーディオ・フェア用に録ったスタジオ・ライヴのカセット(後にCD化)。活動期間もおよそ10ヶ月という、まさに“幻のグループ”だった(現在は75年のライヴ音源が発掘済み)。
ここに復活した“鈴木茂とハックルバック”は、鈴木、田中の元メンバーを中心に、元シュガー・ベイブの上原ユカリ(ds)、12年に亡くなった佐藤の代わりに中西康晴(ex-上田正樹とサウス・トゥ・サウス)というラインナップ。これに今回は何と、かの吉田美奈子がゲスト・シンガーとして参加した。だからもうオーディエンスは、始まる前から既にヒートアップ。しかも参加予定のなかった“トンさん”ことオリジナル・ドラマー林 敏明の参加が、直前に決定。ステージにはシッカリとダブル・ドラムがセットされた。
照明が落ちると、ゾロゾロとメンバーが登場。するとゲストのはずの美奈子さんも、みんなと一緒にマイクの前へ。スターター「グレート・アメリカン・ファンキー・ガール」が始まると、一歩下がってタンバリンを鳴らし始めた。そして2曲目「砂の女」では、見事なコーラスを披露。おそらく誰もが、彼女はショウの途中でステージに呼び込まれ、何曲か一緒に歌うと想像していたはず。ところが蓋を開けてみると完全に出ずっぱりで、鈴木が歌う曲でも力強いハーモニーを乗せてくる。普段は少々頼りなさげな鈴木のヴォーカルも、最強の援軍に声を張り上げ、渾身の歌いっぷりを披露。ギターのアドリブや十八番のスライド・ギターもいつになく豪快で、思わず声を上げてしまった。鈴木のライヴにはもう何度となく接しているが、いつもは飄々とプレイする彼がこれほど熱くパフォーマンスするのは観たことがない。美奈子さんの存在が、彼の持ち得る最高のポテンシャルを引き出したのだ。
はっぴいえんど時代の圧巻の2曲、「さよなら通り3番地」と「花いちもんめ」に続いては、急逝した佐藤に捧げる「バッド・ジャンキー・ブルース」に涙。更に美奈子さんのレパートリーから、佐藤ゆかりの「レインボー・シーライン」、「朝は君に」、「アップルノッカー」を立て続けに。こうした彼女の往年の名曲をハックルバックで聴けるとは、まさに感動的である。本編ラストでは「100ワットの恋人」、アンコールでは「ウッドペッカー」も登場と、終盤は再び『バンド・ワゴン』に戻り、かつてないほどの大熱演にピリオド。正真正銘、プレミアムな2日間4ステージだった。
Text: 金澤寿和
Photo: Yuma Totsuka
◎公演情報
ビルボードライブ東京
2016年7月1日(金)~7月2日(土)
詳細はこちら
ビルボードライブ大阪
2016年8月20日(土)
詳細はこちら
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像