2016/03/28 18:00
2月のグラミー2016式典では圧巻のライヴ・パフォーマンスを繰り広げ、米Billboardの「最も偉大なグラミーの瞬間」第1位に選出されたケンドリック・ラマー。ステージの内容はといえば、刑務所のステージ・セットで手錠に繋がれ顔に痣のメイクをしたケンドリックが、「The Blacker The Berry」で同胞同士の傷つけ合う現実を告発。その後巨大な炎の前でプリミティヴなダンスを舞うダンサーたちとステップを踏み、「Alright」のコール&レスポンスを巻き起こす。最後にはスタンドマイクで怒涛の速射砲ラップを放ち、アフリカ大陸の地図に〈Compton〉と記された(コンプトンはアフリカ大陸にある、もしくは、コンプトンはアフリカだ、というニュアンスだろうか)背景が浮かび上がる、というものだった。
昨年のアルバム『To Pimp A Butterfly』の最も刺激的なメッセージを視覚化するような内容だったが、3月に入ると突如としてスポティファイ上で作品群『untitled unmastered.』を公開し、追って他のストリーミング・サーヴィスやダウンロード・リリースも行われた(既にCDリリースも開始)。全8トラックが収められており、そのすべてが無題。便宜上、トラック番号と日付が割り当てられているといった具合だ。日付が古いものでは3曲目の「untitled 03 | 05.28.2013.」、新しいもので言うと7曲目「untitled 07 | 2014 - 2016」などが収められている。
アルバムのタイトルどおり、本作は言わば未マスタリングの未発表デモ集であり、何らかの理由で『To Pimp A Butterfly』には収められなかった楽曲群である。先のグラミー式典で披露したメドレーでは、最後の鬼気迫る速射砲ラップの一部に「untitled 05 | 09.21.2014.」のリリックが用いられていた。より踏み込んで言えば、このデモ曲の完成形が、あのときのパフォーマンスと捉えることも出来る。《俺はどうしたらこのことをより広く伝えられるだろう》と真剣そのものの表情でまくし立てるケンドリックを思い返しても、真に切迫感に満ちエキサイティングなナンバーだが、どうやら完成形としての音源リリースはなさそうなのが少し残念である。
デモ集とはいえ、ジャズ/アヴァンギャルド・ヒップホップの粋を尽くした『To Pimp A Butterfly』の製作時期が、どれだけ充実し狂気じみた季節であったかを伝える8曲。「untitled 01 | 08.19.2014.」は、甘く官能的な思い出から苦悩の現実に引き戻される、という残酷な幕開けだが、暴力や貧困、宗教観や音楽ビジネスの波乱といった現実を見据えながらも、ケンドリックは本作の中で一貫して同胞にエールを送り続けている。シー・ロー・グリーンとデュエットを繰り広げるブラジリアン・ファンク風の「untitled 06 | 06.30.2014.」も面白い。たとえ荒削りなままでも、投げかけられたポジティヴなメッセージがキラリと光る作品だ。Billboard 200ではトップに輝いている。〈Text:小池宏和〉
◎リリース情報
『untitled unmastered.』
2016/03/04 RELEASE
URL:http://apple.co/1VPBbEw
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