2016/02/29
まさに天衣無縫――そんな言葉がしっくりくる歌声が会場を優しく包み込む。
ようやくパティ・オースティンが日本に戻ってきてくれた。それも、デビューのころから変わらない麗しい声を携えて…。会場となった『ビルボードライブ東京』は、スタート前からいつになく上気した空気が満ちていて、みんなが彼女の登場を心待ちにしている。そんな親密な空気が感じられるアイドル・タイム。僕は今まで何千本と観てきたライブで、何度こんな感覚を持ったことがあるのだろう? きっと数えるほどしかないはず。ちょっと恥ずかしいけど、そう考えただけで鳥肌が立ってしまった。
パティ・オースティン――この名前は僕の中では特別だ。たった4歳で、黒人音楽の聖地=アポロ・シアターでデビューし、5歳でレコード会社と契約したという天才少女。1970年代からCTIレーベルで傑作を連発し、その歌声と感情表現はクインシー・ジョーンズをも唸らせ、彼のクエスト・レーベルへ…。
そんなトピックに溢れたパティのキャリアは、そのまま70年代半ば以降のAORのトレンドを牽引する存在としてピッタリ重なる。ジャズもソウルも溶け込んだソフト&メロウなサウンドに乗って、実にピースフルで暖かみのある歌が、今夜も彼女の登場と同時に会場を包み込んだ。ジョージ・ベンソンやジェイムス・イングラムがデュエットの相手に指名したがった理由が、実によくわかる。こんな美しい声と一緒なら…。
今回のライブは「AOR SET」というタイトルが付けられている通り、彼女の最も魅力的な優しくてエネルギッシュなエモーションに満ちた楽曲が次々と披露されていく。
エラ・フィッツジェラルドが得意とした難曲の「ミスター・パガニーニ」から、ポップなロックを作らせたら当代随一のグループ=スクイーズの名曲「アナザー・ネイル・フォー・マイ・ハート」まで、幅広いジャンルを難なくこなすパティだからこその“余裕”が、ゆったりとした空気を会場に敷き詰め、オーディエンスはうっとりと聴き惚れている。僕も自然とリラックスして、白ワインのアロマに包まれながら、じっくりと聴き入ってしまった。とにかく彼女の歌が発する心地好いスウィング感覚が、僕の、いや観客全員のハートを鷲掴みにしているのだ。
ステージはコンセプト通り、メロウながら円熟味を増した歌声で届けられてくる。あくまでもエレガントなパティの歌声は、まさにコンテンポラリーなセンスに染め上げられていて、“都市生活者のサウンドトラック”と言ってもいいほどの華やかさを放っている。
オープニングはジョージ・ベンソンの「ギヴ・ミー・ザ・ナイト」。「みんな一緒に手拍子を取って!!」と会場を巻き込みながら、続いてザ・ローリング・ストーンズ~ディペッシュ・モード(!)~ビル・ウィザースのカヴァーをメドレーで聴かせてくれる。また、大ヒット曲の「愛してると言って」といった代表曲はもちろん、意外な選曲も含め、もう夢のような時間がじんわりと、しかし確実に身体に染み込んでくる。時折、パワフルに声を発する瞬間もあるものの、大半の時間がエネルギッシュながらもロマンティックなムード。アンコールはデズリーの「ガット・トゥ・ビー・ゼア」。こんな現実逃避なら、たまにはあっても罰は当たらないはず――そんなふうに思わせてしまうパティの声は、まさに官能的な“媚薬”と言ってもいいだろう。
さぁ、大切な人をエスコートしたいなら、今宵は2人でパティの歌声に身体を委ねて。東京は今日(29日)、そして大阪では3月2日に彼女のステージがある。彼女の歌声が聴こえてきた瞬間から、周りの人とは別次元の、2人だけの時間が待っている。素敵だよね。
Photo:Masanori Naruse
TEXT:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。まだまだ寒さが残る季節の変わり目に、北イタリアのロンバルディア州で造られている高級スパークリング=フランチャコルタなどはどう? 細かくて繊細な泡が心地好い飲み心地を感じさせてくれる。赤も白もオススメ! パテやテリーヌなどの動物質を使った冷製のオードブルにピッタリの美味しさ。ひと足早く春を感じるアロマと味わいが、身体への“ご褒美”のように染み込んでくる。春先に咲く可憐な花をイメージさせるデリケートな口当たりが、季節を先取りした気分に…。ぜひ、食事のお供に楽しんでみて。
◎公演情報
Patti Austin
~AOR Set~
ビルボードライブ東京:2016年2月28日(日)~29日(月)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2016年3月2日(水)
>>公演詳細はこちら
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