2015/09/15
9月14日、LA出身のラッパー、タイラー・ザ・クリエイターが最新作『Cherry Bomb』を引っさげた来日公演を東京・LIQUIDROOMにて行った。
開場時、入場者全員にオリジナルのお面が配られ、どこかお祭りのような雰囲気もあったこの日のライブ。自身がリーダーをつとめるヒップホップ・コレクティブ=OFWGKTAとともに、本国ではすっかりスーパースターとなった彼が、この規模の会場でライブするとあって、会場には多くの外国人の観客も詰めかけていた。
えも言えぬ期待感がフロアに溢れる中、定刻を20分以上押して(もちろん、誰も時間通りに出てくるとは思っていない様子だったけど)いよいよアーティストが登場。まず、DJ TACOが先導し、アフロ・ビートからサンプルしたと思われるファンキーなリズムが掛かる中、サポートのジャスパー・ドルフィンとタイラー本人が続いてステージに表れた。自身のアパレルブランド<Golfwang>を展開することでも知られるタイラーだが、この日は黄色地に“GOLF”と書かれた同ブランドのTシャツ姿だ。
一曲目は『Cherry Bomb』でもオープナーを飾る「DEATHCAMP」。先に鳴っていたアフロ・ビートと入れ違いにイントロの4音が鳴り響き、続くスウィンギングでアップテンポなビートに合わせていよいよその力強いラップがスタートする。単純なラップスキルより、むしろアジテーターとしての才覚に抜きん出たもののあるタイラーだが、この日もその圧倒的な迫力は健在で、ただでさえ期待感にはち切れそうなフロアが、更に、更に、とアガっていくのが印象的だった。
ライブをみていて改めて新鮮だったのは、その音楽的な語彙の豊富さ。もちろん、PCから流れるトラックのみを伴奏とした、いわゆるトラック・ショーの形態ではあるものの、(初期からお得意の)スクリューものを昇華したようなビートの「Sam Is Dead」等の曲や、ジューク並みの高BPM&エディットが楽しい「RUN」など、ビートの種類が実に多彩。さらに思い切った展開が印象的な「Tamale」や、メロウな「Fucking Young」など、メロディアスな楽曲も挟むことで、夢見がちな少年性も垣間見せ、諧謔と夢想と暴力衝動が混在した独自のステージングを披露した。
一方、曲間の力の抜けたMCのやり取りも印象的で、中盤ではフロアを左右で二つの“チーム”に分け、コール&レスポンスの声の大きさで勝敗を競わせたり(aikoとかがよくやるアレ)、タイラーが「いま、この子がジャスパーより俺の方がクールだって言ったけど、そんなことないよ。ジャスパーの方がクールさ!」とエセ自虐MCで観客に絡んでジャスパーのツッコミを受けたりと、客席も巻き込んだ話芸も次々と披露し、会場の笑いを誘っていた。
終盤、「次で最後の曲だよ」タイラーがMCし、自らが着ていたTシャツを客席に投げ込むと、それを巡ってフロアでひと騒動起きる場面も。そんな様子も意に介さず、タイラーは「KEEP DA O'S」が流れる中、フロアに降りて次々と観客とハイタッチを交わし、サッとステージを去っていった。終演後のフロアの雰囲気は異様にハイでドライ。“感動”みたいな湿っぽい言葉からは何億光年も離れた場所で、それでも高揚を描き出す力の確かさに、改めて迫力を感じるステージだった。
Photo:Masanori Naruse
◎公演情報
【TYLER THE CREATOR】
2015年9月14日(月)東京・LIQUIDROOM
19時開演
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