2015/09/03
柔らかな衝撃が、また訪れた。ジ・インターネットによるニュー・アルバム『Ego Death』(米本国では6月29日、日本盤がこの8月19日にリリース)の話だ。BillboardのR&Bアルバム・チャートでは最高3位を記録。ジ・インターネットは、そもそもオッド・フューチャー(OFWGKTA)に所属するシンガー/DJのシド・ザ・キッドとプロデューサーのマット・マーシャンズを中核メンバーとするバンドであり、これまでにも『Purple Naked Ladies』(2011年)、『Feel Good』(2013年)とコンスタントにアルバムを発表している。新作『Ego Death』は、セールス面でも過去作以上に大きな評価を集めることになりそうだ。
ヒップホップ/トリップ・ホップ由来のビートと、洒脱で高品位なジャズ/ソウルのバンド・サウンドが密に手を取り合い、そこにシド・ザ・キッドことシドニー・ベネットの美しく官能的な歌声が泳ぐ。髪をクールに刈り込んだシドは、レズビアンと呼ばれることを嫌っているものの同性愛者であることをカミングアウトしており、彼女が歌うラヴ・ソングの対象は女性となっている。破天荒なリリックを投げ掛けるタイラー・ザ・クリエイターとも、若くして凄まじいラップ・スキルを誇るアール・スウェットシャツとも違う、甘美でロマンチックなヴァイブを纏っている点にこそ、ジ・インターネットの面白さがあり、ひいてはオッド・フューチャーというコレクティヴの多様性を示していた。
キャリアを重ねてますますふくよかさを増したジ・インターネットの音楽性を伝える新作『Ego Death』だが、ここで歌われる「エゴの死」とは何のことだろうか。例えば、「For the World」というナンバーで、シドはこんなふうに歌っている。《あなたは特別な人なのよ。あなたを守りたいし、あなたが生き伸びるためなら誰だって殺すわ/でも、この世の最後の一人が倒れたとき、何も感じなくなってしまうでしょう》《私のために言ってるんじゃないわ、これは世界のためなのよ》。
声を荒げるでもなく、甘く優しく語りかけるように届けられるそんな歌声には、思わずゾクリとさせられてしまう。献身的な愛に潜む狂気がそこにはあり、愛を巡る真実のひとつがここにはある。だからこそ、ジ・インターネットのラヴ・ソングはとてつもなくロマンチックで、いつでも危うさと隣り合わせなのだ。ラヴ・ソングはここまで歌える、という彼女たちの到達点に、ぜひ耳を傾けて欲しい。
〈Text:小池宏和〉
◎リリース情報
『エゴ・デス』
2015/08/12 RELEASE
SICP-4508 2,200円(tax out.)
iTunes:http://apple.co/1NsYugF
※日本盤ボーナス・トラック 2曲収録、歌詞・対訳・解説付き
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