2015/07/21
USエモ/ポップ・バンドのファン.は、ジャネル・モネイを迎えた2012年のシングル曲「We Are Young」でグラミー賞のソング・オブ・ザ・イヤーを獲得するほど目覚ましい活躍を見せたけれども、現在バンドは活動を休止し、メンバー3人がそれぞれの活動に取り組んでいる。個々が優れたソングライターであり、ジャック・アントノフはテイラー・スウィフトらに楽曲を提供しつつ自身のバンド=ブリーチャーズを結成。アンドリュー・ドストは目下、映画音楽を手掛けているのだそうだ。そしてリード・ヴォーカリストのネイト・ルイスによる初のソロ・アルバム『Grand Romantic』が、この6月にリリースされた。The Billboard 200では初登場7位と、快調な滑り出しだ。
ピンクの「Just Give Me A Reason」(US1位)やエミネムの「Headlights」といった楽曲に参加してソロ・アーティストの道に踏み出したネイト・ルイスは、まずアルバムの先行シングル「Nothing Without Love」によって、その壮大なエモーションの世界を示してみせた。アルバムはその先行曲が持つエネルギーを押し広げながら、傷ついた愛の多様なストーリーを描き出してゆく。メロディとアレンジが奔放に飛び交い、力強く思いの丈を紡ぐさまは、バンド/ソングライター・チームの制約を離れたネイト・ルイスのありのままの個性と言えるだろう。
ストリングスやフルート、シンセ・サウンドがじっくりと織り成すソウル・バラード“Take It Back”や、トロピカルなパーカッションが弾ける陽気なポップ・チューン“You Light My Fire”など、ファン.作品に引き続きプロデュースを担当しているジェフ・バスカーの力も大きいだろうが、自由な膨らみを響かせる楽曲アレンジはネイトというソロ・アーティストのイマジネーションを支えている。胸の中に激しく渦巻く思いを嵐になぞらえて音像化する「Great Big Storm」の強烈なシンフォニーや、失意のドン底で格闘するうちに美しいコーラスに包まれる表題曲「Grand Romantic」。下手をすれば大仰にもなりかねない楽曲群を、ネイトの生々しい感情を乗せた歌声は臆することなくリードしてゆく。
中でも興味深いのは、ベックがヴォーカル&ギターで参加した「What This World Is Coming To」だろう。コンピレーション作品『Beck Song Reader』(元々はベックが発表した楽譜集)にファン.が参加したという経緯もあり、今回2人は楽曲の中でヴォーカルを分かち合い、そして寄り添わせているのだが、いかにもベックが登場しそうなフォーク・ロック風の作曲と、ネイトらしいダイナミックな展開が融合している点で面白い。ソロ作で強く個性的なのに、決して内向きではない懐の深さが『Grand Romantic』には備わっている。なお、ネイト・ルイスは本作を携え、FUJI ROCK FESTIVAL ‘15の2日目(7/25)に出演予定だ。こちらもぜひ楽しみにして欲しい。
[Text:小池宏和]
◎リリース情報
『グランド・ロマンティック』
2015/06/17 RELEASE
WPCR-16452 1,980円(tax out.)
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