2015/06/09
デビュー・アルバム『Boys & Girls』(2012)をもって、グラミーではベスト・ニュー・アーティストにノミネートされるほどの話題性を帯びてはいたけれども、そんなアラバマ・シェイクスの新作『Sound & Color』がThe Billboard 200で初登場1位を記録するとは、つくづく喜ばしい事件だった。今回のチャート・アクションにより、彼女たちは現在最も重要なロック・バンドとしての認知を深めてゆくに違いない。
アラバマ・シェイクスは、その名の通り米アラバマ州アセンズに活動拠点を置く4人組のルーツ・ロック/ガレージR&Bバンドだ。2011年に『Alabama Shakes EP』を自主リリースしたのち、海外配給では主に英国のラフ・トレード、米本国ではデイヴ・マシューズらが設立したATOと契約を交わして、アルバム・デビューを果たした。純白のジャケット・アートワークが用いられた『Boys & Girls』は、フロント・ウーマンであるブリタニー・ハワード(Vo/G)が音楽に心の解放を見出して陽の当たる舞台に立ち、ロマンスを重ね合わせてゆくまでの物語が綴られていた。
ところが一転、漆黒のアートワークが印象的な『Sound & Color』では、タイトルにも象徴されるとおり、音楽が人種差別問題に対してどのように向き合っていくべきか、という率直なテーマが取り上げられている。ディアンジェロやケンドリック・ラマーらの話題作からも明らかなように、緊張感を増す人種間対立は米国のポップ・ミュージックにおいて重要なテーマのひとつとなっているのだ(2014年のファーガソン事件以降も、人種差別問題として取り沙汰される血なまぐさい事件は頻発している)。
先行シングルの「Don’t Wanna Fight」では表題そのままの悲痛な叫びを歌うブリタニー。また、じっくりとグルーヴする「Future People」では、《子供たちよ、今は耐えて、生き続けるのよ》と祈るように語り聴かせている。黒人の父と白人の母を持つブリタニーは、その生い立ちゆえに人種間対立についてのっぴきならない思いがあるのだろう。ただ社会問題を俯瞰して歌うというよりも、より生活感と体温を強く受け止めさせるパフォーマンスだ。
『Sound & Color』が素晴らしいのは、歌詞のテーマもさることながら、ブリタニーの作曲と生々しい歌声を2015年現在に解き放つ、刺激的でクリアなサウンドを備えているからである。歪んだギター・サウンドが溢れ出すソウル・バラード「Gimme All Your Love」も、痛快なガレージ・パンク「The Greatest」も、孤独感を振り払おうとするホンキートンクの「Shoegaze」も、ブリタニーらしいロマンチックなラヴ・ソングで本編を締め括る「Over my Head」も、ヴィンテージなようで恐ろしく明瞭なサウンドに仕上げられている。矛盾しているようだが、“歪んだハイファイ”なのである。いくつかの楽曲ではブレイク・ミルズとの共作も行われ、確かな聴き応えを誇る傑作アルバムだ。
[text:小池宏和]
◎リリース情報
『Sound & Color (サウンド&カラー)』
2015/04/22 RELEASE
Rough Trade/Hostess
BGJ-10237 2,371円(tax out.)
※日本盤はボーナストラック2曲追加、歌詞対訳、ライナーノーツ 付
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