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2015/04/11 13:00

Album Review:トバイアス・ジェッソ・Jr 自身が味わった苦い経験から生まれた素晴らしい楽曲群を聴く

 ノース・ヴァンクーヴァー出身、現在29歳のシンガー・ソングライターであるトバイアス・ジェッソ・Jrのデビュー・アルバム『Goon』が素晴らしい。素朴なピアノ・プレイに芯の強い旋律がくっきりと浮かび上がり、時代の流行り廃りを越えた、真摯でタイムレスな価値だけを残してゆく歌の数々が吹き込まれている。アルバムのプロデューサーを務めたのは、元ガールズのメンバーとして知られるチェット・“JR”・ホワイト。現在も良質なローファイ・インディー・ポップを紹介し続けているトゥルー・パンサーからのリリースであり、ガールズも籍を置いていたレーベルだ。

 カナダの故郷を拠点に今回のソロ・デビュー作を発表したトバイアスだが、以前は米国のロサンゼルスでミュージシャンとして活動していたという。恋人が離れ、交通事故に遭い、母親が重い病を宣告されるという散々な経験を経て、失意のうちに帰郷。引っ越し業者に勤務しながら、作曲を行っていたそうだ。「Hollywood」というナンバーでは、ロサンゼルスでもがき苦しんだ日々を回想している。アルバムの冒頭に配置された「Can’t Stop Thinking About You」は失われた恋人への思いを切々と綴ったラヴ・ソングであり、どちらの曲も痛みの体験をありありと描き出すメロディが秀逸だ。

 ピアノ弾き語りを中心に構成された『Goon』だが、トバイアスは決して、高度な演奏テクニックを披露するピアノ奏者ではない。彼がピアノに向き合ったのはここ2年ほどの話で、それ以前にはギターやベースをプレイしていたという。なぜ彼はピアノを演奏し、こんなにも素晴らしい楽曲群を残すことが出来たのだろう。想像でしかないが、彼自身が味わった苦い経験と同じように、ピアノの音色は鮮烈な体験として、当時の彼の胸に響いたのではないだろうか。トバイアスの歌と音色は、彼の経験をそっくりそのまま、リスナーの胸の内に移し替えてくれる。

 控え目に、しかし効果的に添えられるストリングスやホーン、ギターやドラムスのアレンジも素晴らしく、アルバムにはザ・ブラック・キーズのパトリックやハイムのダニエルらも参加している。ときにジョン・レノンのピアノ曲のように冒険的な展開を繰り広げ、ニルソンの歌のように普遍的な余韻を残すアルバム『Goon』。トバイアス・ジェッソ・ジュニアは本作の話題性も手伝って、母国カナダや米国、EU諸国など、各地でのライヴやフェス出演が次々に決定している。ここ日本でのパフォーマンスにも、ぜひ期待したいところだ。

text:小池宏和

◎リリース情報
『グーン(Goon)』
トバイアス・ジェッソ・Jr(Tobias Jesso Jr.)
2015/04/01 RELEASE
True Panther Sounds/Hostess
BGJ-10232 2,095円(tax out.)

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