2015/01/15
ステージに登場すると同時に、あちらこちらから聞こえてくる喘ぎ声にも似た歓声。まるで会場全体に濃厚なムスクのフレグランスが振りまかれたような空気感。そして、彼の一挙手一投足にどよめきが起こる。ため息がこぼれるほどのセクシーさとスタイリッシュさが滲み出す存在感――やはりJOEは21世紀のマーヴィン・ゲイやテディ・ベンダーグラス、もしくはルーサー・ヴァンドロスなのだろうか。
1993年のデビュー以来、時代の音を手堅く取り込み自身をアップデートさせながらも、R&Bの本流を決して外れることはない。グラミー賞のノミネートも多数。まさに、威風堂々のキャリアを誇る、現代最高の“セックス・シンボル”であり、ヴォーカリストであるJOEが、満を持して『ビルボードライブ』に戻ってきた。現代のチャートを席巻しているヒップホップやダブステップなど、今世紀になって全盛を極めてきた音楽の中にあってJOEは、07年の『エイント・ナッシング・ライク・ミー』が全米ポップ・チャートで2位を獲得するなど、オーソドックスなR&Bのスタイルを貫きながらも、その貫禄と存在感を力強く放ち続けている。
さて、そんなステージはJOEと同様、スーツ姿でキメた5人のバンドをバックに、あなたたちのプライベート・シートに向かって艶かしく、思い切りムーディに歌い、語りかけてくるスタイル。ショウの大半を、女子率が異様に高い客席に降りて歌い、女性一人ひとりにハグしていく。そんな彼の歌声は絶妙のピロートークになり、ほとばしる汗はジャコウの香水になる。観客全員と時空を共有するのではなく、それぞれのカップルに向かって愛を囁き、歌い上げているのだ。これほど色香が濃密に漂うショウは、全世界の中でもそれほど見つけ出すことはできないだろう。
代表曲の「オール・ザ・シングス」や「アイ・ワナ・ノウ」はもちろんのこと、アルバムの数も最新作の『ブリッジス』(2014年)を含め10枚以上も発表しているJOEのことだから、どんな曲がチョイスされてくるのか、今までに彼のショウを観たことのある人にとっても楽しみはいっぱいだ。
果たして今回のステージは、メイズの「Before You Let Go」や「Can’t Get Over You」といったカヴァーを織り交ぜながらも、最新作からの曲もたっぷりと交え、ときにはアコースティック・ギターを弾きながら、多くのオーディエンスが聴きたいと願っている代表曲も妖艶に歌う、まるでベスト・ヒット曲集の趣き。ほとんどMCもなく歌い続けるJOEの円熟した声の悦楽を、僕は充分に味わった。
何のギミックも仕掛けも必要としない、正統的なソウル・リヴュー。それをJOEは今の時代に体現し、全世界のR&Bファンを心酔させているのだ。だから、彼のライヴにサプライズなど期待するのは門外漢が考えること。オーソドックスであること――その意味の大きさをステージで正々堂々と証明してみせているのがJOEなのだから。
今宵はひたすら、JOEのセクシーでスムースな歌声に身体を委ねて、うっとりと聴き惚れてしまった。やっぱり、歌が上手い人のライヴは、全身を麻痺させるほど陶酔させてくれる。これ以上、彼に何を求めるものがあるのか――。そんなことさえ頭をよぎる圧倒的なライヴ・パフォーマンスにねじ伏せられた夜だった。
現代最高峰のR&Bシンガーのライヴは、東京が15、19、20日。大阪が16、18、22日。まだまだ飛びっきりセクシーなショウを観るチャンスは残されている。ぜひ、この機会に、まさに脂の乗ったJOEのセクシャルな歌の世界を味わい尽くして欲しい。Are You OK?
◎JOE公演情報
ビルボードライブ東京
2015年1月14日(水)~15日(木)&19日(月)~20日(火)
ビルボードライブ大阪
2015年1月16日(金)&18日(日)&22日(木)
More Info:http://billboard-live.com
Photo: Yuma Totsuka
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ)編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。たまには、ちょっと変わった組み合わせでワインを楽しむのも乙なもの。たれ味の焼き鳥にカリフォルニア産の『フロッグス・リープ』のジンファンデルが意外に相性ピッタリで、幸せな気分に。
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