2014/09/01
この2014年には、2月リリースの最新フル・アルバム『Morning Phase』が全米アルバムチャート“Billboard 200”で最高3位と好評を博しているベック。音源アルバムとしては2008年作『Modern Guilt』以来だったが、その間には2012年末に『Song Reader』というタイトルの「楽譜」アルバムを発表している。1曲ずつがアートワークにもこだわり抜かれた冊子形式で、全20曲をパッケージした作品であった。長年の構想を経て制作された『Song Reader』は、ベック自身の手によって、多くのゲスト・ミュージシャンを招いた再現ライヴなども行われてきた。
そんな『Song Reader』の全20曲が、20組のアーティストによって音源化された(日本盤は9月17日発売。iTunesでは既に配信中)。ノラ・ジョーンズやファン.といったグラミー受賞クラスのビッグ・ネームをはじめ、デイヴィッド・ヨハンセン(ニュー・ヨーク・ドールズ)やジャック・ホワイトといった新旧のロック・スターたち、マーク・リーボウにフアネス、スパークスといった音楽ファンを唸らせる顔ぶれまで、楽譜という「種」をそれぞれの技巧で育て上げた果実の彩りが、何とも華やかで楽しい音源作品になっている。
そもそも楽譜版『Song Reader』は、大半の楽曲が歌の主旋律と歌詞、ピアノの伴奏パート、それにギターやウクレレのタブ譜が添えられた体裁であり、一曲一曲はまさに素朴で小さな「音楽の種」である。つまり、楽譜自体は完成形ではなく、ミュージシャンそれぞれに解釈しアレンジしてゆくことで、無限の可能性の広がっている作品でもあるということだが、そこは流石に曲者揃いの参加アーティストたち。秀逸なアレンジを通してベック作品を己のものとし、熱演に結びつけている。
オープニングを飾るLAのシンガー・ソングライター、モーゼス・サムニーによる「Title Of This Song」は、いきなり『ペット・サウンズ』風のハーモニー・コーラスがトリップ感を誘い、トゥイーディー(ウィルコのジェフ・トゥイーディーと息子スペンサーと組んだユニット)は、楽譜に「男声・女性問わず」と記された「The Wolf Is On The Hill」を優しく味わい深いオルタナ・カントリー/アメリカーナで披露している。ジャック・ホワイトは、「I’m Down」をギターやピアノのユーモラスなくたびれ感と共に描き出し、ベック自ら録音した「Heaven’s Ladder」は、率先して歌詞も改変するベック節メロディ全開の1曲だ。一方、フアネスによる「Don’t Act Like Your Heart Isn’t Hard」はこだわりのスペイン語歌唱。可変拍子でコロコロと表情を変えるインスト・チューン「The Last Polka」を、鮮やかに料理してみせたマーク・リーボウも素晴らしい。
ジャック・ホワイトと並んで俳優/コメディアンのジャック・ブラック(かつてベック「Sexx Laws」のMVにも出演)が「We All Wear Cloaks」で参加しているのも面白いが、「音楽の種」として世に放たれた楽譜版『Song Reader』は、こんなふうに1本の巨大なピープル・ツリーであるコンピレーション盤『Song Reader』へと発展した。ソングライターとしてのベックは、リスナーの耳へと一方通行に届けられるばかりではない、人々が無限に繋がる機会や場としての音楽を生み出そうとした。そう、『Song Reader』の次なる果実を手にするのは、貴方かも知れないのだ。
Text:小池宏和
◎リリース情報
『ベック・ソング・リーダー』
2014/09/17 RELEASE
HSU-10017 2,371円(tax out.)
※iTunes配信スタート中
http://bit.ly/1k5c9AS
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