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2025/12/24 18:00

“観る”だけのコンサート映画の時代は終わり 『ワールド・オブ・ハンス・ジマー:新次元へ』が感情の深層に触れる

 『グラディエーター』『インセプション』『ライオン・キング』『DUNE/デューン 砂の惑星』──。映画史にその名を刻む、こうした作品群の背後に「ハンス・ジマー」の名を見出す人は、決して少なくないだろう。【アカデミー賞】を2度、【グラミー賞】を5度、【ゴールデングローブ賞】を3度受賞するなど、現代を代表する作曲家として映画音楽界に絶大な影響を与え続ける存在だ。

 そんなジマーが監修・ゲスト出演という形で関わった、最新コンサート映画が『ワールド・オブ・ハンス・ジマー:新次元へ』である。本作は、2024年に13か国を巡回したツアーの中から、ジマーが特別出演したポーランド・クラクフ公演の模様を収録。演奏を担うのは、長年の芸術的パートナーである指揮者ギャヴィン・グリーナウェイを中心に、オデッサ・オーケストラ&フレンズ、ナイロビ室内合唱団、さらにリサ・ジェラードやレボ・エム、村中麻里子といった卓越したソリストたちだ。壮麗なサウンド、鮮やかな照明と映像、そしてスクリーン越しに語りかけるジマー本人──映画館という特別な音響空間で、「映画音楽」という枠を超えた音の物語が再び息を吹き込まれる。

 2025年夏に公開された『ハンス・ジマー&フレンズ:ダイアモンド・イン・ザ・デザート』では、砂漠の真ん中に設えられたステージで、バンド編成を主軸としたエンターテイメント性溢れるショウが展開されていた。対して本作は、クラシカルな様式美と深い情緒を湛えた、構築性の高い音楽体験へと重心を移している。

 ステージの中心にはグリーナウェイが立ち、ジマー自身は映像やナレーションを通じて楽曲を解説、観客を導いていく。ステージ背面の巨大LEDスクリーンには、『ザ・ロック』や『パール・ハーバー』にまつわるジェリー・ブラッカイマーとの対談や、『シャーロック・ホームズ』に関するガイ・リッチーとの思い出話などが挿入され、作品の背景を情感豊かに描き出す。スクリーン越しにジマーがグリーナウェイに語りかけ、指揮台から彼が応じるという一幕も、本作ならではの演出だ。

 本作の最大の魅力は、ジマー作品の再構築にある。編成こそフルオーケストラとバンドの融合だが、その演奏は既存の映画スコアの単なる再現にとどまらない。民族音楽、クラシック、ロック、電子音楽……そうした多様な要素が有機的に絡み合い、「観る」音楽から「浸る」音楽へと変貌を遂げていく。

 なかでも圧巻なのは、『ライオン・キング』のセクションだ。南アフリカ出身のシンガー、レボ・エムとノクカニャ・ドゥラミニによるズールー語のソウルフルな男女混成ボーカルと、ナイロビ室内合唱団による高揚感あふれるコーラス、ルイス・ヒベイロ、ルーシー・ランディモアといった多彩なパーカッショニストらが織りなすリズムセクションは、まるで大地そのものが脈打っているかのようなエネルギーを放つ。これらがストリングスやバンドサウンドと交差し、目を閉じればサバンナが眼前に広がるようなシネマティックなサウンドスケープに圧倒される。

 また『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』や『ワンダーウーマン』では、日本人チェリストの村中麻里子が力強くエモーショナルなソロを響かせ、聴く者の心に熱い火を灯すことだろう。なお村中は、映画『DUNE/デューン』のスコアでもソリストを務めており、ジマー作品に欠かせない存在となっている。

 ピアノやストリングスによるミニマルなリフレインが、宇宙空間の虚無と祈りのような人間の感情を静かに照らし出す『インターステラー』。どこまでも余韻を残すコード進行が、夢と現実の境界線を揺らすように響き渡る『インセプション』。同じ楽曲、同じ演奏家であっても、アレンジや指揮者、演出の違いによって、ここまで世界観が変わるのか。これは、作曲家としてのジマーの懐の深さ、そして楽曲の構造そのものが持つ強靭さの証左でもあるだろう。

 ドイツのクラシック音楽賞【エコー賞】の後継として2018年に創設された、ドイツで最も権威あるクラシック音楽賞の一つである【オーパス・クラシク】の〈年間最優秀ツアー賞〉を受賞した本ツアーは、今後ヨーロッパや北米でも継続予定である。「映画」というメディアを飛び越え、コンサートとも一線を画すハンス・ジマーの「新次元」を体験するには、まさに映画館という場がふさわしい。音楽は、ただ耳で聴くだけのものではない。物語を語り、感情を揺さぶり、観客の内面に波紋を広げていく──本作は、その真理をスクリーン越しにまざまざと伝えてくれるのだ。

Text by 黒田隆憲

◎作品情報
『ワールド・オブ・ハンス・ジマー:新次元へ』
2025年12月26日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷で先行公開
2026年1月9日(金)より、TOHOシネマズ 梅田ほかで公開
監督:マティアス・グレヴィング
撮影監督:クリストファー・シュテックレ
編集:ハーゲン・シェーネ
音楽:ハンス・ジマー
配給:カルチャヴィル合同会社
https://www.culture-ville.jp/twohz

<2026年の公開劇場>
1月2日(金)~
109シネマズ プレミアム新宿

1月9日(金)~
TOHOシネマズ すすきの
109シネマズ名古屋
TOHOシネマズ 梅田
109シネマズ箕面
サロンシネマ

1月16日(金)~
吉祥寺オデヲン
109シネマズ木場
109シネマズ佐野
塚口サンサン劇場
アイシティシネマ
宮崎キネマ館

1月23日(金)~
109シネマズ菖蒲
シネマイーラ
ミッドランドシネマ名古屋空港
京都シネマ
ufotable CINEMA

1月24日(土)~
キネマ旬報シアター

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