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2025/11/26 11:00

丸山隆平×休日課長による『ベースの日』10周年SPイベント開幕、低音とグルーヴが渦巻く濃密な夜<東京公演レポート>

 『ベースの日』が日本記念日協会に登録され10周年を迎えたことを記念したスペシャルイベント【THE BASS DAY 10th Anniversary Groove-Method LIVE】が、11月10日東京の恵比寿ガーデンホール、翌11日大阪のZepp Nambaで開催された。

 オーガナイザーはSUPER EIGHTのベーシスト丸山隆平と、ゲスの極み乙女、DADARAY、ichikoro、礼賛などで活動する休日課長。彼らを中心に豪華なゲストベーシスト、ゲストアーティストが集い、ここでしか観られない一夜限りのセッションが実現。今回は初日となる”THE BASS DAY EVE”東京公演をレポートする。

 客電が落ちると、二人のシルエットが静かに浮かび上がる。ステージ中央で向かい合い、互いにベースを構える丸山と休日課長。グローヴァー・ワシントンJr.「Just the Two of Us」のイントロが始まり、ホールの空気が一気に澄んでいく。リズムセクションには河村吉宏(Dr.)、清野雄翔(Key.)、真壁陽平(Gt.)が控え、柔らかなグルーヴを刻む。しかし主役はあくまで二人のベース。丸山がエフェクターで歪ませた低音を鳴らせば、課長がスラップで返し、音が絡み合う。ジャズでもロックでもない、二人にしか描けない独自の低音の会話。互いを見つめ合いながら微笑む姿に、『ベースの日』の象徴のような信頼関係が滲んだ。

 曲を終えると丸山が「THE BASS DAY、楽しみにしてましたか? ホストの丸山隆平と──」と声を上げ、課長が「休日課長です!」と呼応。客席から大歓声が沸き起こり、自然発生的なハンドクラップが広がる。課長が「【THE BASS DAY 10th Anniversary】盛り上がっていきますか!」と叫び、丸山が「まずは僕たちそれぞれのバンドから、自己紹介代わりの一曲を」と続ける。最初に披露されたのはSUPER EIGHTの「“超”勝手に仕上がれ」。丸山が<ベースの世界へと誘(いざな)う>と歌詞を変えて歌うと歓声が起こり、サビではシンガロングがホールを包み丸山がスラップで畳みかけ、課長が歪みで応戦する。観客のボルテージは高まる一方で、早くも最初のピークを迎えた。

 続いて課長が所属するゲスの極み乙女の「猟奇的なキスを私にして」。丸山はベースを置き、マイクを握ってボーカルに専念する。川谷絵音が描いた艶やかなメロディを、ハイトーンで情感豊かに歌い上げるその姿に、ホール全体が息を呑んだ。「こんなにお客さんが集まってくれて……10周年にふさわしい景色ですね。ありがとうございます」と課長があらためて礼を述べ、「これだけのベーシストが一堂に会するなんて滅多にないこと。今日は思う存分、低音を楽しんでください」と丸山が呼びかけると、温かな拍手が広がった。

「【THE BASS DAY】とはいえ、ギターボーカルの方にも登場していただけるとありがたいなと。お呼びしたいと思います!」と丸山が告げReiが登場。「こんばんは、Reiです! みなさん楽しんでますか? ベース、好きですか?」と笑顔で挨拶し、「今日はベースを主役にするとどんなにかっこいいかを、一緒に体感してもらいたいと思います」と語る。そのままSUPER EIGHTの「稲妻ブルース」へ。ハードシャッフルのリズムの上で課長がランニングベースを弾き、丸山とReiが息の合ったデュエットを聴かせる。中盤のギターソロではReiがステージ前方に出て、ピッキングの一音一音を空気に刻むように弾き切った。観客がどよめき、課長が「危うくギターの日になりそう!」と笑いを誘う。丸山が「ここからは本職のベーシストたちの登場です」と声を張ると、客席の期待がさらに高まった。

 照明が落ち、ステージに登場したのはRADWIMPSの武田祐介。静寂の中で一本のベースを構え、ゆっくりと音を鳴らす。バッハのチェロ曲の独奏は、低音とハーモニクスが織りなす緻密な構築美に満ちていた。「いやー、緊張しました(笑)。ベースは一人で弾くもんじゃないですね」と笑いつつも、その演奏には圧倒的な集中が宿る。

 続いて課長を呼び込み、コールドプレイ「Viva la Vida」をカバー。武田がルーパーでフレーズを重ね、二人とは思えない厚みのあるサウンドを作り上げる。ボディを叩き、歪ませ、音のレイヤーを積み上げながら、ベースという楽器の概念そのものを更新していくようなステージ。さらに丸山を呼び込み、三人での「Layla」(エリック・クラプトン)。武田がエフェクトを駆使してベースであのギターフレーズを再現すると、観客の間から思わずため息が漏れた。低音のうねりがステージ全体を包み込み、この夜の“グルーヴの核”が確かに形を帯び始めていた。

 武田祐介の研ぎ澄まされた演奏が余韻を残す中、次に登場したのはTOKIE。「私は喋るのが苦手なので、早速やりたいと思います」と短く告げると、ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ の「Steppin’Out」が鳴り響く。休日課長が再びベースを手に加わり、二人の指がステージ上を走る。低音が跳ね、空気が振動し、会場全体にロックンロールの熱が広がっていく。TOKIEのベースは鋭く、それでいてしなやかに揺れ、まるでグルーヴそのものが生き物のようにうねる。曲の後半では体を大きく揺らしながらリフを刻み、客席の視線が釘付けになった。

 「次の曲は、丸山くんが選んでくれた私のバンドの曲です」と笑みを見せ、自身が所属するTHE LIPSMAXの「Miss Bunny」を披露。丸山をステージに呼び込み、女性ボーカル曲をパンキッシュに歌い上げる。ステージを駆け抜けるエネルギーは圧巻で、丸山が放つ声がTOKIEの低音に絡み合いながら、熱を帯びたグルーヴを生み出していった。

 続けて披露されたのは、丸山が主演を務めたミュージカル【ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ】からの「Sugar Daddy」。イントロが流れると、客席から歓声が上がる。丸山は妖艶な仕草でマイクを握り、腰をくねらせながらステージを練り歩く。「TOKIEのベース、どう? 滅多に聴けるもんじゃないんだからね、あんたたち!」と、ヘドウィグになりきったセリフを放つと、客席は大歓声に包まれた。二人の掛け合いはまるで音で繰り広げるダンスのよう。TOKIEのグルーヴと丸山のパフォーマンスがぶつかり合い、フロアの熱量がさらに上昇していった。

 そしてこの夜のトリを飾るゲストとして現れたのは、スピッツの田村明浩。「俺はロックバンドのベーシストなので、一人じゃ何もできません(笑)。なので今日は、俺がいちばんやりたかった相手を呼びます」と紹介し、a flood of circleの佐々木亮介を呼び込む。披露されたのは、スピッツの「俺の赤い星」と「裸のままで」。佐々木のがなり声が草野マサムネとは異なる角度から楽曲の核をえぐり出し、スピッツの内に秘められたロックの衝動と切実さを露わにする。

 田村はステージ狭しと動き回りながらベースをドライブさせ、アグレッシブな姿を見せた。「『俺の赤い星』は、危うくてセンシティブな声を持つ人に歌ってもらいたかった。だから、佐々木くんしかいないと思った」と語る田村に、佐々木は「11歳のときスピッツを初めて聴いて稲妻が走った」と応じる。二人はそのままa flood of circleの「夜空に架かる虹」をベースとアコギのみで披露。骨太な低音と剥き出しのボーカルが絡み合い、ホールには静かな緊張と温もりが同時に漂った。曲が終わると客席から大きな拍手が巻き起こった。

 ライブはいよいよ終盤。ホストの丸山と課長、ゲストの武田、TOKIE、田村の5人が並び、トークコーナー「BASS SUMMIT」が始まる。5人のベーシストによる真剣な音楽談義になるかと思いきや、まるでライブ前の楽屋でミュージシャンたちが与太話しているところを盗み聞きしているような、そんな親密で愉快なひとときとなった。

 ラストは5人のベーシストとサポートメンバー、さらにReiを加えた特別編成で、ザ・ビートルズ の「Helter Skelter」をカバー。ポール・マッカートニーがハードロック黎明期に生み出したヘヴィナンバーを、5本のベースが壁のように重なり合う音圧で再構築する。低音のうねりが床を震わせ、観客の身体が自然に揺れる。ポールが目指した“ロックの極限”を、現代の日本のベーシストたちが別の形で再提示してみせたような瞬間だった。

 続いて演奏されたのは、「丸サ進行」と呼ばれるコード進行を用いた椎名林檎の「丸の内サディスティック」と小沢健二の「今夜はブギーバック」のマッシュアップ。丸山と課長、Rei、バンドメンバーがセッションを重ね、リズムが渦のように膨らんでいく。曲が終わるにつれメンバーが一人ずつステージを降り、最後に残ったのは丸山と課長の二人。オープニングと同じ「Just the Two of Us」が再び流れ、二人は静かに向かい合う。円環を描くように始まりと終わりが繋がり、ホールは温かな拍手に包まれた。

 5人のベーシストがそれぞれの方法でグルーヴを体現し、ベースという楽器の魅力と可能性を提示した約2時間。10周年を祝う節目の夜は、マニアックでありながらもエンターテインメントとしての高揚感に満ち、まさに『ベースの日』の名にふさわしい濃密な祝祭だった。


Text:黒田隆憲
Photo:山川哲矢


◎公演情報
【THE BASS DAY 10th Anniversary Groove-Method LIVE - Tokyo】
2025年11月10日(月)東京・恵比寿ザ・ガーデンホール
<セットリスト>
M1 Just the Two of Us feat.Bill Withers(Grover Washington Jr.)
M2 “超”勝手に仕上がれ(SUPER EIGHT)
M3 猟奇的なキスを私にして(ゲスの極み乙女)
M4 稲妻ブルース(SUPER EIGHT)
M5 無伴奏チェロ組曲 第1番 プレリュード(バッハ)
M6 Viva la Vida(Coldplay)
M7 Layla(Eric Clapton)
M8 ステッピン・アウト(John Mayall&the Bluesbreakers)
M9 Miss Bunny(THE LIPSMAX)
M10 Sugar Daddy(『Hedwig and the Angry Inch』よりNeil Patrick Harris)
M11 俺の赤い星(スピッツ)
M12 裸のままで(スピッツ)
M13 夜空に架かる虹(a flood of circle)
M14 Helter Skelter(The Beatles)
M15 丸の内サディスティック(椎名林檎)~今夜はブギーバック(小沢健二 featuring スチャダラパー)~Just the Two of Us feat.Bill Withers(Grover Washington Jr.)

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