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2025/11/21 12:00

<インタビュー>kz(livetune)が語る海外でのボーカロイド需要の変化

 7月12日・13日にシドニーで行われた、オーストラリア最大規模のアニメ・マンガイベント【SMASH! Anime Convention】に、kz(livetune)が出演した。

 ポップカルチャーファンによるポップカルチャーファンのための非営利団体として創設された「SMASH Inc」運営のもと、2007年にスタートした歴史を持つ同イベント。今回は国内最大規模のカルチャーイベント【ニコニコ超会議】を主催する株式会社ドワンゴと、シンガポールを拠点に東南アジア最大級のポップカルチャーイベント【アニメ・フェスティバル・アジア】を主催するSOZO Pte Ltdが協力する国際的なクリエイター連携プログラム「Asia Creators Cross」(以下、ACC)の一環として、日本人アーティストが出演。そのなかの一人がkz(livetune)だ。

 今回はkz(livetune)にインタビューを行い、海外のオーディエンスと自身の距離感や海外でのボーカロイド需要の変化、【SMASH! Anime Convention】の感想などについて話を聞いた。

――今回の【SMASH! Anime Convention】では、12日のアフターパーティーと13日のデイイベントに出演しましたが、それぞれ違った時間帯でパフォーマンスしてみてどうでしたか?

kz:いつも通りというかなんというか……。最近、どこでやってもアウェイ感がないんですよね(笑)。初音ミクをはじめとしたボーカロイドもそうですが、ここ10年ぐらいで日本のカルチャーが世界に浸透した影響か、かつてよりもリアルタイムにいろんなアニメや音楽などが届いているような気がしていて。昔だと集英社作品だけしか届いてないんじゃないか、というくらいの感覚だったのですが、コスプレイヤーさんたちの衣装選びなんかにも顕著に表れているように、どんどんやりやすくなっているというか。ヨーロッパはまだ少しタイムラグがあるようにも思えますが、今回のようにオーストラリアやアジア圏は特に差がなくなってきていると思います。

――ボーカロイド自体が世界へリアルタイムで届いている感覚もありますか。

kz:初音ミクがワールドツアーをやっていたりしますからね。かつてよりも間違いなく、タイムラグは無くなっていると思います。

――最初に海外でライブをした時のことは覚えていますか?

kz:初めて海外でDJをしたのは2012年にフランスで行われた【JAPAN EXPO】でしたね。その時はEDMカルチャー自体がそこまでメインストリームではなかったので、今はDJブースがあってフロアも踊るスペースを取ってくれていてあとは自由に、みたいなものが多いんですけど、その時は椅子がめちゃくちゃ並んでいて(笑)。「そういうのじゃなくて、立って見てもらうもので~」というのを説明しなきゃいけなかった。ボーカロイドとか自分の曲以前に、DJとして30分のパフォーマンスをして、お客さんがそれをどう楽しむか自体があまり浸透していなかったところもあったので、それが難しかったですね。

――その状況が変化したのはいつ頃なのでしょうか?

kz:2014年以降はEDMカルチャーの浸透もあってか、DJブースでプレイするのが当たり前になってきました。そこからのお客さんの反応でいえば、「Tell Your World」(livetune feat. 初音ミク)を知ってくれている人はすごく多かったですけど、それ以外の曲に関しては知られているかどうかわからないままプレイしていました。でも、今はボーカロイドというフォーマットで作っていることだけで、割といい反応をもらえたりするので。自分の曲が届いているかというよりはフォーマットとして周知されているから、あまり媚びる必要がないというか。お客さんに変に寄せなくてもいいし、有名な曲じゃなくても大丈夫、というのはその頃あたりから自覚しています。

――「自分の曲が海外に届いた」と初めて感じた瞬間はいつなのでしょう?

kz:自分の曲が届いていると感じたのはライブというより、海外のファンの方と触れ合った時かもしれません。パフォーマンスが終わった後にお客さんと話すタイミングとかがあった時に、僕のことを好きでいてくれていて、その上で細かいことまで話してくださる方がいたり、珍しいグッズを持っていてくれたりして「海外にもここまで応援してくれている人がいるのか」と感じたので。

――海外の観客の反応で、印象的なものがあれば教えてください。

kz:海外のオーディエンスって、自分が楽しかったらちゃんと1人でも盛り上がれるじゃないですか。日本ってやっぱり空気自体が落ち着いていると1人で盛り上がりづらい人が多いんですよね。実際自分もそうだし。だからこそ、自分の曲を知っててもらわないと海外に行けないみたいなのも逆になくて。なんなら日本よりもイージーな気すらしますよね。国内のほうがハードルが高いから、そこでやれてるなら全然問題ないと思っちゃう。

――今回の【SMASH!】への出演を後押しした「ACC」のように、様々なキャリアのクリエイターに世界へ飛び出すチャンスを与えるプロジェクトというのは、一人のアーティストとしてどのように感じますか?

kz:自分や同年代のクリエイターは、おかげさまでアジア圏でのDJも度々やらせてもらっているのですが、若手となると全く違いますからね。(海外で公演を行うことを)重い気持ちで捉えないでほしいし、これを機会に売れる・売れないということを考えないでほしい。終わった後に「あの曲すごい好きでした」と言ってもらえる人が1人でも2人でも海外にいてくれたら単純に嬉しいし、クリエイターとしてすごくモチベーションになる。そういう機会を与えてくれるのはすごくいいと思います。

――たしかにそれは励みになりますよね。

kz:とはいえ、海外をゴールにしてほしくはないですけどね。海外でウケたからいい曲かと言われれば、別にそうでもないですし。「すごく一生懸命やってたら、こんなところにも届いていた」というくらいがありがたいんだと思います。こういうイベントに自分を売り込むのは一人だと難しくて、そういうところをバックアップしてくれるのはありがたいです。

――今後はどういったクリエイターに同様の機会があるといいと考えますか?

kz:みんなだいたいインターネットにずっといるし、日本ですら自分の曲を聴いてる人と会う機会がない人もめちゃくちゃいますからね。そういう意味では、若手もそうですがベテラン勢で海外に不慣れな人たちを引っ張り出すのもいいかもしれません。意外といまは若手の方がコミュニケーションが得意だし、ベテランのほうが出不精ですから(笑)。


Text/Interview/Photo:中村拓海(blueprint/リアルサウンドテック)