今年設立7周年を迎えたロックレーベル・TALTOによるイベント【TALTOナイト 2024】が12月4日、東京・Spotify O-EASTで開催された。出演はSAKANAMON、マカロニえんぴつ、ヤユヨ、WON、SPRINGMANの5組。今年は2ステージ制で行われ、個性的にしてエモーショナルな音楽をシームレスに体感することができた。

　トップを飾ったのは、女性シンガーWON。ステージに幕を下ろした状態で、「Unique (Acoustic Ver.)」を歌とピアノ（演奏は竹縄航太）で披露し、憂いを帯びた歌声でフロアを埋めたオーディエンスを一瞬で惹きつける。さらに今年リリースされた「You to (Acoustic Ver.)」、歌、ピアノ、ギター（演奏はSANAKAMONの藤森元生）の編成でメジャーデビュー曲の「日記（Acoustic Ver.）」を歌い上げ、冒頭からシンガーとしての奥深い表現力をしっかりと示した。

　「実はこれが3回目のライブ。前回よりも緊張がほぐれてるので、めっちゃみんなの顔を見ながら歌えました。楽曲の温度差が激しいんですけど、次はみんなでブチ上げていけたらと思います！」と明るくアピールし、「ヘイトキラー」「ギャンラブ」「裏目シアター」のメドレー。この３曲はいずれも作詞がWONで、作曲と編曲が100回嘔吐による楽曲。歌詞、サウンドにリンクしたリリックビデオ風の映像も楽しい。ラストは空白ごっことのコラボレーションによる12月18日リリースの新曲「無知」。壮大さと切なさを併せ持ったメロディ、不安や葛藤と向き合う勇気を描いた歌詞が一つになったこの曲は、彼女の新たな代表曲になりそうだ。

　サブステージの幕が開き、荒川大輔のソロプロジェクトSPRINGMAN（Vo / Gt.）が登場。レスポールをかき鳴らし、〈出来ないままでまた疲れた／今日も夜がきてしまった〉というフレーズからはじまる「勤労」でライブはスタート。「どうもお疲れさまです！　SPIRINGMANです、よろしく！」という挨拶に導かれた「さよなら北千住」では、キャッチ―なサビに合わせて観客が手を挙げ、身体を揺らし始める。荒川の歌とギター、サポートミュージシャンのベース、ドラム、キーボードの編成による生々しいアンサンブルも気持ちいい。

　思うようにいかない日々のなか、“逃げちゃだめだな”という呟きにも似た思いを描いた「エスケープコール」の後は、豪快なギターサウンドを軸にしたアッパーチューン「右にならえ」を放つ。パンキッシュな「いないふり」ではなぜかギターを弾かず、ハンドマイクで〈こちらはいつだって腐っても／味方だぜ〉という歌詞をダイレクトに響かせてみせた。さらに、離れてしまった恋人に対する思いを切々と綴った「ポットパイ」を歌い上げ、「今後ともTALTOを、そしてSPRINGMANをよろしくおねがいします！」という言葉から、大らかなポップネスをたたえた「カポック」へ。芯の通ったロックサウンドと多彩な音楽性、リアルすぎる感情を映し出す歌詞を含め、自らのアイデンティティを存分に発揮したステージだった。

　続いては、TALTOレーベルの“長男”SAKANAMONのステージへ。2024年3月に“ライブ”と“ラリー（回復）”をテーマにしたEP『liverally.ep』を発表し、全国ツアー【来ぶらり】を行うなど精力的な活動を続けている3人は、冒頭から「マジックアワー」「幼気な少女」「ぱらぱらり」と高速ナンバーを連発。圧倒的な疾走感をたたえたビートのなかで、トリッキーかつポップなフレーズが散りばめられ、映像喚起力と濃密な感情表現を含んだボーカルが広がる。2009年の結成から16年。磨き上げられてきた藤森元生（Vo. / Gt）、森野光晴（Ba.）、木村浩大（Dr.）のアンサンブルは今が最高潮だ。

　「気が付けばTALTOで一番年上になってしまって」（藤森）「あまり体育会系な感じはないんだけどね（笑）　一応先輩ということで、美味しいタルトを届けたいと思います！」（森野）というゆったりしたトークの後は、新曲「ただそれだけ」。知りたくもない情報が勝手に押し寄せてくれる現状を音楽で打ち破るべき制作されたというこの曲は、ラップ的な手法を取り入れた平歌と〈音を鳴らせ／音で満たせ〉というサビのコントラストが鮮烈なSAKANAMON流のミクスチャーロックだ。

　EP『liverally.ep』収録曲「DUAL EFFECT」そして、代表曲「ミュージックプランクトン」を繋げた後、スペシャルゲストとして呼び込まれたのは、マカロニえんぴつのギタリスト、田辺由明。披露されたのは、藤森がTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく！』の劇中バンドである結束バンドの楽曲として提供した「光の中へ」のセルフカバー。緻密にして大胆なアレンジのなかで田辺の高速フレーズが炸裂するシーンは、今年のTALTOナイトの大きなハイライトだった。
　
　4番手としてサブステージに上がったヤユヨは、リコ（Vo. / Gt.）、ぺっぺ（Gt. / Cho.）、はな（Ba. / Cho.）による大阪出身のバンド。最初に演奏されたのは、今年8月にリリースされた「エス・オー・エス」。70年代のポップミュージックを現代風そしてヤユヨ流にアップデートしたサウンド、そして〈ああ！　反吐が出そうだよ〉という強烈な言葉のコントラストで観客を魅了した。さらにオーディエンスのハンドクラップとともに披露されたギターロックチューン「うるさい！」、自分と向き合い、先へ進む決意をポップに昇華した「チョコミンツ」を放ち、「悲しい歌じゃなくて、希望の歌なんで、笑って聴いてほしいなと思います」（リコ）と失恋を振り切ろうとする女性の心境を映し出す「あばよ、」へ。

　「私たちがTALTOに入ったときは末っ子だったのに、2組も新しいアーティストが入ってきて。ちょっとでも成長したところを見せられたらなって。ステージの大きさとは関係なく、みんなと楽しみたい思います！」（リコ）というMCに導かれたのは、人気曲「さよなら前夜」。そして最後は、心地いいシャッフルビートと何気ない日常の幸せを描いた歌詞が響き合う「ふたり曜日」。ロックとポップの絶妙すぎるバランス、そして、何があっても笑顔で前に進む姿を描いた歌によって、フロア全体の熱気をしっかりと上げてみせた。

　【TALTOナイト2024】のトリを務めるのは、もちろんマカロニえんぴつ。TALTOロゴが入ったタオルを掲げた田辺を筆頭に、長谷川大喜（Key. / Cho.）高野賢也（Ba. / Cho.）がステージへ。そして“oasis”Tシャツを着たはっとり（Vo. / Gt.）が登場すると、会場全体が大きな拍手で包み込まれた。

　はっとりのギターのアルペジオから始まり、バンドサウンドが加わった瞬間に“おお！”という歓声が上がった「零色」、軽快なピアノのフレーズ、エモーショナルなギターサウンドを軸にしたポップチューン「レモンパイ」。冒頭2曲でオーディエンスのテンションは一気に頂点へと達した。

「音楽で、個性で殴り合ってるのがとてもいいなと思います。お客さんとして観てるのも超楽しいし、気が引き締まる一日だなと。俺たちに何ができるだろうとちょっとビビりながらも、素敵な30分にしたいと思います！」（はっとり）

　このイベントに対する思いを言葉にした後は、「時間がないからどんどんやります！」とビートルズへのリスペクトを盛り込んだ「poole」、感情の機微を生々しバンドサウンドとともに映し出した「悲しみはバスに乗って」。青春の刹那、愚直さをストレートに描いた「忘レナ唄」、そしてライブアンセムの一つ「洗濯機と君とラヂオ」。

　メンバー全員が演奏を心から楽しみながら、緻密にして大胆なアンサンブルの精度はさらに向上。その結果、多彩なアイデアを取り入れた楽曲がステージの上で生き生きと躍動する。マカえんは今、明らかに最高のコンディションにあるようだ。

　「自分で勝手にはじめたバンドなんだけど、自信をくれたのはここ（TALTO）です。そして、もっと個性出していいんだって思えたのは、TALTOのバンドのおかげです。ふだんはあまり言わないけど、江森さん、発掘してくれてありがとうございます」とレーベルと、レーベル代表の江森弘和氏への感謝を告げたはっとり。さらに「いろんな時期があるからバンドなんです。いいかい？　ステージだけカッコよければ、あとはどうでもいいんです。どんなときも、あなたに会うための曲を作っています。いっしょに歌い続けてもらえますか？」という言葉から、ラストの「ヤングアダルト」へ。〈ハロー絶望〉というフレーズをポジティブに響かせ、大きな興奮と感動が生み出された。

　アンコールで「ミスター・ブルースカイ」を演奏し、イベントは終了。出演者全員で写真撮影を行い、濃密な【TALTOナイト2024】はエンディングを迎えた。圧倒的なオリジナリティと、誰もが楽しめるポップネス。TALTOレーベルのスタイルと矜持を実感できる、意義深い夜だった。

Text：森朋之
Photo：酒井ダイスケ

◎セットリスト
【TALTOナイト 2024】
WON
1. Unique (Acoustic Ver.)
2. You to (Acoustic Ver.)
3. 日記 (Acoustic Ver.)
4. メドレー（ヘイトキラー～ギャンラブ～裏目シアター）
5. 無知

SPRINGMAN
1. 勤労
2. さよなら北千住
3. エスケープコール
4. 右にならえ
5. いないふり
6. ポットパイ
7. カポック

SAKANAMON
1. マジックアワー
2. 幼気な少女
3. ぱらぱらり
4. ただそれだけ
5. DUAL EFFECT
6. ミュージックプランクトン
7. 光の中へ feat. 田辺由明（マカロニえんぴつ）

ヤユヨ
1. エス・オー・エス
2. うるさい !
3. チョコミンツ
4. あばよ、
5. さよなら前夜
6. ふたり曜日

マカロニえんぴつ
1. 零色
2. レモンパイ
3. poole
4. 悲しみはバスに乗って
5. 忘レナ唄
6. 洗濯機と君とラヂオ
7. ヤングアダルト
En. ミスター・ブルースカイ