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2024/11/15

<ライブレポート>緑仙の熱気と存在感が会場とネット画面を埋めつくした【緑一色】福岡公演

 「麻雀やっている人が『麻雀の大会とかで、もしかして“緑一色”出したのか?』って勘違いさせてバズるやつなので(笑)。みんなよかったらいっぱい呟いてください(笑)」と、冗談めかして放つ言葉に、「このライブは役満ですわ」と、一言添える。緑仙の愛で満ちた言葉は、同じ時間を共有していた人の心に、日常を少しだけ輝かせる魔法をかけた。

 にじさんじ所属のバーチャルライバー・緑仙が、福岡・電気ビルみらいホール(11月2日)を皮切りに、東京(11月10日)、仙台(11月16日)と巡る初のソロライブツアー【緑仙 2nd LIVE TOUR「緑一色」】を開催。ニコニコ生放送で同時配信された本ツアーの初日は、物理的な距離を超えて、緑仙の熱気と存在感が画面越しにも強く伝わってきた。

 開演前のアナウンスを緑仙自らが務めるという惜しみないサービス精神を感じさせる幕開けから、やがて、スクリーンに「緑仙」を思わせるビビッドなカラーの中国風オープニングムービーが映し出され、フロアが暗転。赤い照明がステージを照らした瞬間、緑仙の歌声が響き渡る。〈期待してもしょうがない〉――重厚なビートとシンクロする、諦念の一言が空気を震わせた。

 大振袖が印象的な中華風の衣装に身を包み、ハンドマイクを握る緑仙。ペンライトでフロアが瞬時に「緑一色」へと染まっていく。鋭い歌声が放たれた1曲目の「イツライ」から、シームレスに流れたのは、その続編「ジョークス」。ホーンの華やかな音色に連動して緑仙の歌声が、見えない扉を次々と押し開けていく。そういうエネルギーに満ちた革命的なパフォーマンスだ。「初めての人もね、ついてきてください!」そう初心者にも気遣う。その言葉に、フロアの隅々まで目を配り、一人ひとりの存在をしっかりと受け止めていることが伝わってくる。

 アーティスト衣装にチェンジした「独善食」では、ダークで深みのある歌声が映像として流れるスモークと重なり合い、楽曲の持つ内省的なテーマがさらに際立っていくのを感じた。どこか乾いた視線の緑仙も印象深い。

 とりわけ、心を動かされたのが、この日の0時に配信リリースされた3rdミニアルバム『ゴチソウサマノススメ』のリード曲「終着駅から」だ。「おじいちゃんに向けて歌わせていただきます」と口にすると、背景映像には電車の車内が映し出され、窓の外に流れる景色が見える。その歌声には、涙ぐみそうな音色が存在していたが、駅に到着して電車のドアが開いた瞬間、見えない誰かを前向きに送り出すための、確かな優しさと強さも共存していることに気づいた。胸がじんと熱くなった。

 手に取った青色の拡声器と、マイクスタンドのマイクとのスムーズな切り替えも見事だった「なんでですか?」を経て、眼鏡をかけた知的な緑仙が、「Reject it now!」では冷静さを、振り付けも目を引いた「天誅」では妖艶さを振りまく。似て非なるこのパフォーマンスに、一人のアーティストとしての底知れない可能性もうかがえた。「みんなはインターネットから出て、この会場に来てくれたわけですよ。せっかくなので僕に向けてたくさん手を伸ばしてください!」と、「ジガトラ」で呼びかけると、ニコニコ生放送の画面上には「インターネットから見てるよ」のコメントが次々と流れる。椅子に座ったまま膝に開いた本を乗せ、澄み切った声で「タイト」を歌い切ると、場内には「緑仙」と呼ぶ声が充満。会場に集まった観客の手のひらにも、遠く離れたネット越しのリスナーにも、緑仙の愛が届いているのを実感したパートだ。

「オリジナル曲『タイト』も歌わせていただいたんですけど、忘れられない思い出を無理やりにでも作って、みんなの呪いとして長く生きていけるように、このライブもその呪いのひとつとなるように、全力でパフォーマンスしていきたいと思います。」

 2024年 ベガルタ仙台の応援ソング「Blowin' Wind is blowin'」には、「一緒に頑張ろう」という気持ちが溢れていた。ここまで応援歌が圧倒的な説得力をもって心に響いてくるのは、緑仙自身がベガルタ仙台の「真の理解者」であることに他ならない。「VTuberとはなにか」。そう発信を続ける中で、ただ表現するだけでなく、人の心に寄り添う努力をしてきた。その姿勢が、応援歌としての力強さに昇華されている。

 アイドルさながらのオーラを放つ「しあわせクッキー」は、可愛らしい応援ソングとして空間をまるごと明るく彩っていた。その愛らしさは、キュートな振り付けという外見的要素から来ているというよりかは、緑仙の素直な内面から自然とにじみ出てきているもの。「友達代表宣言」の〈きみの良いところ100個も言える〉を歌った途端、「無理かも、20個くらいならみんなのいいところ言えます(笑)」と、さらりとアドリブを差し込んでみせたりもする。そうした自然体な振る舞いが、愛らしさを増幅させている理由のひとつだと思う。メジャーデビューしてから初めて作詞を担当した「リコネクト」は、フィナーレにぴったりだった。

 アンコールは、2023年 ベガルタ仙台応援ソング「WE ARE YOU」、先日ミュージック・ビデオが公開された『ゴチソウサマノススメ』の収録曲「猫の手を貸すよ」、そして「藍ヨリ青ク」。感情の嵐が吹き抜けた後、フロアには消えることのない熱が残っていた。


Text by 小町碧音
(C)A/N

◎セットリスト
【緑仙 2nd LIVE TOUR「緑一色」】
※2024年11月2日(土)福岡・電気ビルみらいホール公演
1. イツライ
2. ジョークス
3. 独善食
4. 終着駅から
5. Jam Jam(カバー)
6. なんでですか?
7. Reject it now!
8. 天誅
9. ジガトラ
10. タイト
11. 君になりたいから
12. セルフィーDimension(Rain Drops)
13. 青のすみか(カバー)
14. Blowin' Wind is blowin'
15. しあわせクッキー
16. 未来予想図II(カバー)
17. 友達代表宣言
18. リコネクト
<アンコール>
1. WE ARE YOU
2. 猫の手を貸すよ
3. 藍ヨリ青ク

◎リリース情報
『ゴチソウサマノススメ』
2024/11/13 RELEASE
<初回限定盤(2CD)>
TYCT-69319/20 2,970円(tax in.)
<通常盤(CDのみ)>
TYCT-60238 2,200円(tax in.)

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