2024/04/19
伊東健人が2024年4月14日にソロアーティストとして自身初となるワンマンライブ【Kent Ito 1st LIVE ~咲音~】(読み:さいん)を東京・豊洲PITで開催。同公演の公式レポートが到着した。
『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』の観音坂独歩や『【推しの子】』の雨宮吾郎(ゴロー)など、声優としてさまざまな作品のキャラクターに命を吹き込んできた伊東。
一方、アーティストとしては、本人曰く「オールドルーキー」。ボカロPとしての活動経験や、中島ヨシキとの音楽ユニット・UMake、SEGAが展開する『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』への楽曲提供など、それまでも音楽活動はしてきたが、並々ならぬ思いがあったゆえにアーティストデビューしたのは声優デビューから10年後となる2022年。そして今年、テレビアニメ『月が導く異世界道中 第二幕』の第1クールのエンディングテーマ「My Factor」で自身初のアニメーションタイアップを獲得。アーティストとして活動するのであれば、いずれはアニソンを歌いたい、アニメ業界に還元したい──そう話していた伊東にとって念願の一歩となった。
その「My Factor」を含む最新 EP『咲音』までのナンバーをブラッシュアップして届けたこの日。既存曲だけでなく、カバーに加え、作りたての新曲を披露し、「全力で走り続けたいと思います」と“これから”の意思表明も。ひとりの音楽人としての決意と多彩で奥深い表現力が、柔らかく、力強く咲いた。
開演前、伊東がリスペクトするアーティストたちの楽曲がSEとして流れる中続いたのは、『咲音』の幕開けを飾るインストゥルメンタル「Sign」。文字通りはじまりの合図となって照明が落ち、オープニングムービー後、バンドメンバーの石川裕大(バンマス/Gt.)、浅倉高昭(Bs.)、山本淳也(Dr.)がステージへ。
満場の客席から期待を込めた声が立ち上がる中、淡い色のジャケットを身にまとった伊東が登壇。スタンドマイクの前に立って「会いたかったよ、東京!」と叫び、青い色の光を浴びながら、爽やかで切ないサマーソング「戯言」を披露。そこから作詞を手掛けている「陽だまり」に、しなやかにつないでみせる。ライブならではの生命力に溢れた有機的なサウンドスケープ、色とりどりに灯ったペンライト、ハンズクラップに彩られながら、その歌声が伸び伸びと響きわたった。そんな爽やかな雰囲気から一転、「今日はみんな楽しんでいってください!」というアジテートでソリッドな「BiT」へ。声を楽器のようにしながら音と戯れたかと思うと、「サッドマンズランド」でダーティな世界に誘う。キタニタツヤが書き下ろした重厚感たっぷりなこの曲は、眩しい光が激しく点滅する中でMVと共にパフォーマンス。序盤から三者三様の楽曲をノンストップで連射し、一体感を高めていった。フロアの盛り上がりを前に「いやー……すごいっすねぇ」と、控えめにつぶやいた伊東。オーディエンスに「元気ですか?」と訪ね、コミュニケーションを楽しんでいく。1stライブへの想いを打ち明ける場面も。
「リリースイベントという形では1年半以上前にやらせてもらっていましたが、今日は1stライブです。今年僕、36歳の年男になるわけですけども。36歳で1stライブって、正直、音楽業界的にはオールドルーキーだと思います。普段やっている声優の仕事のご縁、自分の意思、タイミングなど、全部重なっての今日なので、僕も光栄ですし、楽しみにしていました。誰よりも感情が顔に出にくい人間なのですが、これでもめちゃくちゃ楽しんでいます」
そう話しながら表情を緩ませ、「突然ですが、ここでカバーソングをやりたいと思います!」と宣言。
「いろいろと考えてきたんですけど、今日を逃したら一体いつやるのかっていうそんな曲です」と前置きし、レーベルメイトであり縁の深いクリエイター/シンガーソングライターの須田景凪の「シャルル」を熱唱。「シャルル」をモチーフにしたオーディオドラマ「エレジー」にも出演している伊東。「もっともっと!」と煽りつつ、伊東ならではの表現力で、曲の主人公の叫び、焦燥を巧みに体現していった。
続いてはアコースティックのブロックへ。その準備をしている最中に、フロアの景色を見て「いいね、このバラバラのペンライト」とポツリ。「これからもそのバラバラ加減でよろしく。色のイメージがある曲も、あるにはあるんですけど、それをやらなきゃいけないってわけではないんです。人それぞれ。僕は強制したくないです。と、言いつつ、次は、完全に色の曲名です(笑)」
石川がガットギターに持ち替え、ゆるやかに始まっていったのは「AMBER」。暖色系のライトが客席を灯す中、たおやかで、じんわり染みるような声を響かせていく。思えば、先に話題に挙げていたリリースイベント=2022年10月22日に東京・品川インターシティホールで初のリリースイベント『Kent Ito 真夜中のラブ Release Event “Waves #1″』で初披露となったのが、この「AMBER」であった。当時、オリジナル曲はデビュー曲のみ。「せっかくのリリースイベント。まだ1曲しかない理由でバラエティパートに尺を使うくらいなら」と新曲を自ら持ち込んだのだ。そのエピソードからも伊東の姿勢が垣間見られるが、この後、期待を上回るようなサプライズが待っていた──。
「AMBER」のあとは、2nd EP『咲音』に収録された「Follow」を。ソロアーティスト活動では初めて作詞から作曲まで伊東本人が手がけたナンバーである。優しい音色に、客席からは温かな拍手が沸き起こった。
会場を眺めつつ「豊洲PITはいつ以来だろう。『アイマス』(2017年の『アイドルマスターSideM』グリーティングツアー)以来かもしれない。あの時はいろいろな人が出ていて。まさかひとりでやれる日がくるとは……」と感慨深げな表情を浮かべる。豊洲PITの会場の広さを知っているからこそ「最初スタッフに、“1stライブ、豊洲はデカいよ”ってひよっていたんです」と明かし「そしたら見事ソールドでした。みんなありがとう」と感謝を伝えた。
すると、赤いストラップのアコースティックギターを首から掛けながら「ここからが一番力の入るポイントなんですけど……」と手に力を入れた伊東。
「今日は、自分で作った、自分でギターを弾く、新曲をやります! しかも2曲やります!」と叫び、この日いちばんの大きな歓声が、豊洲PITの高い天井に響き渡った。
「それでは新曲です、聴いてください」と贈られたのは「意味愛」と、当日はタイトルを明かしていなかった「歩幅」の2曲。「意味愛」と「歩幅」、サウンドのカラーの違いも面白い。「意味愛」は感情が溢れ出すようなスリリングなナンバーで、Aメロから自然とハンズクラップが湧く。〈無意味を愛せ 不意に気付いてむせてしまうならビターを頂戴 甘いだけではぬるいままの〉という、苦みを含んだ歌詞も印象的だ。
一方、「歩幅」はノスタルジックな匂いが漂うミディアムナンバー。はじまりは静かながら、サビでは伸びやかに、力強く。〈諦めの悪さね ハッピーエンドすらまだ かじかんだ手をさすりながら また君をノックする〉という文学的な言葉も胸に残る。デビュー以降、アーティストとして進化してきた伊東に、静・動の強力なレパートリーが加わったことを感じさせた。
歌い終えると「いやー間に合いました。一週間ちょっと前くらいに出来たんだよね、良かった」と安堵した表情を見せ、再びファンを驚かせる。ライブもいよいよ終盤戦。「あと2曲くらいで帰ろうかと思うんだけど……」と話せば、当然「えーっ!」の声が。「それくらいで帰るのがちょうど良いんだよ。そしたら次ライブした時も来てくれるでしょ?」と飄々と笑った。
次の曲でもギターを弾くことを示唆しつつ「皆さん、急ですけど幸せってなんだと思いますか?」と問いかけると、「今!」など客席からはさまざまな反応が。「幸せについて自分でも考えましたし、友だち同士でも考えました。幸せって結局、上を求めるとキリがなかったり。じゃあもう上を見ないほうが幸せなんじゃないかなとかって言い合って作りました、聴いてください」と、「sugar」を。MVが流れる中、〈当たり前の日常に少しひと匙だけあればいいな〉と軽やかな歌声をギターと共に届け、ハンズクラップを巻き起こした。その手拍子がひときわ大きくなる。
本編ラストにセレクトしたのは「My Factor」(TVアニメ『月が導く異世界道中 第二幕』エンディングテーマ)。ネオンカラーの照明がエレクトロ・ポップサウンドによく似合っている。きらびやかなテープが客席を舞う中、〈マダサメナイデマダサメナイデ 〉という言葉に、きっとこの場にいた多くの人が共鳴しただろう。「ありがとうございました!」と一度バックステージへ戻ったものの、アンコールの声は止まなかった。
その期待に応え、アンコールに登場した伊東がパフォーマンスしたのは、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』に提供した「magic number」。まさかのセルフカバーに客席が揺れる。本人は「もっともっとやりたいのは山々なんですけども、そこはすみません。オールドルーキー、曲数がそこまでないんです」と苦笑していたが、1stライブでありながら、ただ単に軌跡をたどるのではなく、観客の度肝を抜くようなサプライズ、さまざまなチャレンジをドラマティックに組み込んでくるのがすごいところであり、オールドルーキーならではの醍醐味ではないか。
本当は20曲でも30曲でもやりたいんだけど、と音楽への愛をこぼした。ここでは、「縁の下の力持ち」としてマニュピュレーター・柳 俊彰を含めたバンドメンバーと、「こういうライブ、お決まりのコーナーをやりたい」とライブグッズを紹介。ただ「ありがたいことに大体売り切れとなりました!」と、手に取ってくださった皆様へ感謝の気持ちを述べた。すぐさまファンから再販を希望する声が会場で上がっていたリクエストに応え、ライブグッズの事後通販が決定したようなのでチェックして欲しい。
その後、話題は自身の活動について。
「ライブでも新曲を2曲届けることができましたし、2023年の下半期から良いペースで来られています。早くもこの1年が1/3終わるとのことで、気づいたら棺桶の中かもしれない。生物ですから(笑)。正直、今のような働き方ってずっとはできないと思うんです。でも、ちょっと疲れたなと思う時まで、全力で走り続けたいと思います」
冷静さとユーモアを交えながらこれからへの意気込みを語る伊東。その姿を真剣な眼差しで、静かに見つめる観客たち──ではあったが、彼としてはリアクションを期待していたようで「今、拍手待ち」とコメント。微笑みを誘った。そんな和やかなムードの中で、最後の曲であり、ソロアーティストとしての出発点「真夜中のラブ」は贈られた。伊東自身もクラップで盛り上げ、曲終わりには両手を広げて「みんなのおかげで最高の1日になりました。またお会いしましょう!」と約束。和気あいあいと記念撮影をした後、マイクを通さず、改めて感謝の気持ちを伝え、客席とステージ、双方に笑顔が咲き誇った。眩しいほどにいい光景であった。
ステージで音を浴びている伊東は、“感情が顔に出にくい”という本人の意識とは相反して、内に秘めた喜びが全身から溢れていたように感じる。それは客席から彼を見ていたファンも感じていただろう。音で感情を共有した1日を経て、次はどのようなアクションが待っているのだろうか。今後の続報に期待したい。
Text:逆井マリ
Photos:SHINGO TAMAI
◎公演情報
【Kent Ito 1st LIVE ~咲音~】
<セットリスト>
01. Sign
02. 戯言
03. 陽だまり
04. BiT
05. サッドマンズランド
06. シャルル *カバー
07. AMBER
08. Follow
09. 意味愛 *新曲
10. 歩幅 *新曲
11. sugar
12. My Factor
EN1. magic number *セルフカバー
EN2. 真夜中のラブ
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