2024/03/06
2月25日、大阪・フェニーチェ堺にて【越境 ~BORDER CROSSING~ 石田組×SUGIZO】が開催され、ライブレポートが到着した。
音楽の境界は何のためにあるのだろう? ジャンルに分類して理解するため? ならば、こうも言えないか。その境い目を喰い破ることで音楽は進化を続けてきた。つまり、境界は越えられるためにこそある、と。
大阪のラジオ局FM COCOLOが企画し、同局でDJも務めているプロデューサー/音楽評論家 立川直樹が立てたコンセプト、「越境」をもとに実現した異色の顔合わせによる公演を観た。
『石田組』は神奈川フィルの首席ソロ・コンサートマスター、京都市交響楽団特別客演コンサートマスターを担うバイオリニスト石田泰尚が2014年に結成した破格の弦楽合奏団。石田が信頼を置く、首都圏で活躍する第一線の弾き手たちを、公演ごとに“組員”として招集するスタイルで、全国ツアーを敢行。バロック、ロマン派から国民楽派、さらに映画音楽、タンゴ、ロックに及ぶ幅広いレパートリーで、聴衆を魅了するステージを展開中。
SUGIZOは、両親ともにオーケストラの演奏家という環境のなか、幼少期からバイオリンを学び、十代で出会ったジャズ、ロック、ニューウェーブなど多様な音楽的素養を蓄積。ロックバンドLUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARSにおいて、ギター&バイオリン・プレイだけでなく、音楽面の頭脳として活躍するほか、多彩なソロ活動を展開。さらに難民支援や環境保護などに積極的なアクティビストとしても知られる存在だ。
開演を待つあいだの場内には、BGMではなく、どこかの街の交差点を行き交う車と人々の雑踏の音が流れ、アンビエントな効果をもたらしている。
やがて暗転した舞台に組員たち、そして石田組長とSUGIZOが登場。調律を経て、総勢14名が奏で始めたのは、神秘的でエキゾチックなリフ。レッド・ツェッペリンの「カシミール」だ。石田組長が足を開き、腰を落としたポーズで舞うようにバイオリンを弾けば、SUGIZOのギターは絶妙なノイズも交えながらアンサンブルに絡んでいく。続く「天国への階段」のギターソロでは、弦楽器との競演ゆえ、音圧を押さえたタッチが逆に生々しさを増す。
組長の短い挨拶をはさんだ次曲はラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。一転して雅びな世界に、SUGIZOのギターもぐっと甘やかに響く。
さらにSUGIZOが音楽的ルーツのひとつに挙げるバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」を今回は石田組のみで演奏。すると、SUGIZOは1996年の大ヒット曲「IN SILENCE」を披露。インストゥルメンタルで聴くLUNA SEAナンバーは、曲の骨格が直に感じられて新鮮だ。
休憩をはさんでの第2部は、ヴァイオリンを手にしたSUGIZOのソロ・インプロビゼーション「越境」で開始。足元のループペダルを操り、弾いたばかりの音を何層にもループさせながら重ねていくプレイは、まるで変幻自在の彼が何人もいるかのようだ。
フィンランドの大作曲家シベリウスの弦楽曲「アンダンテ・フェスティーヴォ」を石田組が清らかに奏でて厳かな気持ちに導かれたところで、ざわついたノイズとともにSUGIZOが加わり、舞台が真っ赤な照明に染まると、不穏な空気に満ちたキング・クリムゾンの「21世紀のスキッツォイドマン」が炸裂。原曲は後半、ジャズ的な即興となるが、彼らもトリッキーな「決めと溜め」の応酬を見事に繰り広げてくれた。
高い緊張を要した曲のあとは、石田組恒例のメンバー……もとい、組員紹介。12人ひとりひとりを、所属オーケストラやキャリア、ちょっとした小ネタを交えて、組長が愉快に紹介していく。堅いイメージのあるクラシック奏者の素顔が垣間見えて楽しい。
最後にはバイオリン奏者のひとり、伊東翔太が、今回の“特別組員”SUGIZOと同じ先生に学んだエピソードを披露し、“兄弟子”と呼ぶ微笑ましい一幕も。この緩急の付け方が実にいい。
SUGIZOは再びバイオリンを持つと、永遠のヒーロー、デヴィッド・ボウイの曲——ボウイが亡くなった2016年に哀悼の意を表してカバーしていた——「Life on Mars?」を奏でる。これに石田組はクイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」で応える。もちろんあの多声コーラスも、多弦ハーモニーで再現。この日、演奏されたツェッペリン、クリムゾンの名曲とともに強烈な印象を残す。偉大な先達たちが'70年代に、それぞれのやり方でロックに組み込もうとしたクラシック音楽の要素を、再び石田組が因数分解してみせてくれた。そんな味わい深さがある。
いよいよ終盤。SUGIZOのソロ曲で、儚く美しい「Synchronicity」のバイオリンの音色に浸されたあとは、本編ラスト、LUNA SEAの壮大なバラード「I for You」だ。この曲を1998年にレコーディングしたときは東京都交響楽団を起用したとあって(石田組には、前述の伊東、ヴィオラの萩谷金太郎ら、都響の団員も複数参加している)趣き深い共演となった。
アンコールは石田組による、ビゼー『アルルの女』第2組曲より「ファランドール」。重厚な冒頭部と軽快な舞曲の2つのテーマが入れ替わりながら見事に重なっていく。
確かな手応えを感じた面持ちの石田組長とSUGIZOが、「続きがあると思っていい?」と再会を願いながら演奏した最後の曲は、LUNA SEAの現時点での最新シングル曲「THE BEYOND」。突き抜けたギターのロングトーンが、青空の向こうへ、どこまでも鳴り響いていくかのようだった。
石田組は、その名称、組長の風貌(剃り込みにソフトモヒカン、サングラスとダボッとしたセットアップ)がいかつい雰囲気を漂わせているが、生演奏を聴けばツボを押さえた選曲と音色の繊細さに驚くだろう。こういった意外性も武器にして、結成10周年となる今年の秋には、初の日本武道館公演が決まっている。
一方、SUGIZOはLUNA SEAの結成35周年を祝う大規模なツアーが控えている。だがバンドとは違って、石田組の弦楽器群と一体となったときのSUGIZOの楽曲には、また別の器官を得たとでもいうような自由さを感じた。
ステージでは、お互いの忙しさを讃え合っていたふたりだが、遠からぬ未来、また軽やかに境界を越えて往来してくれることを期待したい。
TEXT:大内幹男
PHOTO:井上嘉和/加藤大
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