2024/01/28 19:00
“出会いや組み合わせの化学反応”をテーマに、クリエイティブレーベル・MeMe Meets が主催するライブイベント【LIVE Meets Vol.5】が、1月26日に東京・Spotify O-EASTで開催された。2022年にスタートしたライブシリーズ【LIVE Meets】も5回目となり、今回はMeMe Meets所属のあたし、harha、ケタチガイが出演。加えて、私立恵比寿中学の安本彩花と、超特急のタカシがソロ名義の松尾太陽でゲスト出演し、この日だけのスペシャルなコラボも披露された。以下、同公演のオフィシャルレポートを掲載する。
開場中に、オープニングアクトとして登場したのは松田今宵。音楽塾ヴォイス出身のシンガーソングライターで、昨年秋に配信デビューして以降、その独特の感性で話題をさらっている新星だ。まずは、東海テレビ・フジテレビ系土ドラ『あたりのキッチン!』のオープニングテーマとして書き下ろしたデビュー曲「甘じょっぱい」を、軽快にキーボードで弾き語って場内の空気を温めれば、今度は12月に配信されたばかりの最新曲「Smoky Baby」をアコースティックギター抱えて披露。ステージ後方の大型ビジョンに映し出されるミュージックビデオを前に、初恋をテーマにしたポップチューンで燻ぶったSmokyな感情をやわらかな歌声で、丁寧に紡いでいった。こういったビジョンを最大限に活用した映像と音楽とのコラボレーションも、この日のイベントの大きな見どころであったと言えるだろう。
開演時間となり本編のトップバッターを飾ったのは、高校在学中に投稿した“歌ってみた”動画が500万回再生を記録し、MeMe Meetsの第1弾アーティストとなって【LIVE Meets】にも皆勤賞のクリエイター、あたし。儚いのに存在感のある不思議な歌声で、どんなジャンルの楽曲も“あたし”色に染めてしまう20歳だ。1曲目の「シュガーハイ」は小学館『塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い@comic』のバーチャルライブコラボ楽曲で、LEDビジョンの中には、コミックの中から日常生活と同居するヒロイン・佐藤さんの姿が。“漫画のようにいかない”という歌詞とリンクする景色を背に、その切なさを息交じりの甘い声で歌ったかと思いきや、「AtoZ」ではアッパーできらびやかなトラックと対照的にダウナーなボーカルを投下する。さらに、この日共演するharhaが書き下ろしたバラード「太陽観測」では、その声に潜む微熱が聴き手の胸をジワジワ熱くしたりと、微細な感情を巧みに描き出す幅広い表現力には驚きだ。
極まった人の心を深堀りするのが得意な彼女だけに、中でもラブソングの威力は絶大。後半はテレビドラマの主題歌やテーマソングに起用されたナンバーを並べ、 “100万回100億回の愛してる”という「イベリス」のキラーフレーズが、もどかしくもピュアすぎる想いを直球で訴える。「自己紹介忘れちゃったので……」と、ここで「あたしだけで検索すると出てこないと思うので、あたし(スペース)歌ってみた、とか、あたし(スペース)オリジナル曲、で検索してきてください」と伝え、最後に贈ったのは「そっか」。消えそうな愛の欠片を必死に追いかけるようなエモーショナルな歌声は、オーディエンスの心を震わせ、心地よくも鮮烈な余韻を残した。
次いで、Adoの「ウタカタララバイ」をいきなりのアカペラでぶつけ、食らいつくような圧のある熱量高いパワーボーカルで場内を圧倒したのは、アーティスト・mona+によるソロプロジェクトのケタチガイ。歪んだラップから朗々としたボーカルまで、ステージを闊歩しつつ出力自在に客席を翻弄したかと思いきや、「最近、寒くないですか?」と愛らしく問いかけるMCとのギャップも楽しい。そこからはオリジナル曲を畳みかけ、いわく「相手に対する不満や怒りを表した、救いを求める曲」という「Stranger」では、凄まじい速度で落下していくアニメーションと浮遊感あるトラック、そして力強いボーカルが相まって、幻想的な異世界を作り上げる。
そこから「忘れたいのに忘れられない乙女心を歌った曲」と紹介された「Dimmer」で、大きく手を振って寒い夜を温めたほっこりムードは、しかし、後半戦で一変。自身のキービジュアルを背に、ヒップホップ色の強いトラックで中毒性の高いShowTimeを歌い上げる「無礼King」は、「世の中に対する怒りや鬱憤を詰め込んだ曲」というだけあって、サウンド、歌詞、ボーカルとすべてがパンチ力満点の桁違いなものだ。ケタチガイというプロジェクトに込めた「納得の出来ない世の中も“ケタケタ”笑い飛ばしてやろうぜ」というポジティブな想いをブチ上げ、ラストは新曲「お気楽Luck Life」をドロップ。「皆さんの1週間はずっとラッキーです!」と自作のハンドサインを掲げて声と拳を煽ると、ここまでの流れからは想像できないほどの多幸感のなかでライブを締めくくり、客席から大きな拍手を浴びた。
3番手は、ハルハ(Creator/Rap)とヨナベ(Vo.)による2人組の音楽ユニット・harha。ハルハがマニピュレーター台の前でギターを抱え、ヨナベが半透明のパーテーションの向こうでスタンバって始まったのは、昨年の配信以来YouTubeでの再生回数が248万回を超えている「人生オーバー」だ。アニメーション・ミュージックビデオをバックに、パーテーション越しの影を揺らして歌うヨナベの声は密度が高く、皮肉たっぷりのポップチューンを笑い飛ばすように歌うのが爽快。「浪漫人」から「怪々界」へ、タイトルが表す通りロマンティックからホラーへと一転する展開も、ミュージックビデオが流れる前でパフォーマンスされるぶん見応えが高まる。ヨナベのシアトリカルでダイナミックなボーカルといい、こういったシネマティックな楽曲世界こそが彼らの持ち味なのだろう。それを実感させられたのが「みなさまを童話の世界にお連れいたします」と前置かれた「アンデルセン」で、見る者の想像力を掻き立てる少年と少女のアニメーションをバックに、永遠に語り継がれる“物語”への切なる憧れが、美しい世界観で表されていった。この日、演奏された楽曲のほとんどでっミュージックビデオがそのまま流れたこと、そのどれもが楽曲の世界観と深く結びついていたことからも、音楽に留まらない彼らの“創造”に対する高い意識が見て取れる。
「後半戦ですがついてこれますか!」というハルハの声で手拍子が湧き、雪崩れ込んだ「ボクラノ」では、場内はきらびやかな音があふれるダンスフロアの様相に。エレクトロなビートに乗って半透明の囲いの向こうでリズミカルに歌うヨナベの歌声に、ハルハの粒立ったラップが差し込まれ、サビで重なりコズミックなハーモニーを奏でていく。その軽快で心躍るサウンドに湧いた拍手がテンポを落とし、手拍子となって彩ったのが「アルテルテ」。ポップなアニメーション映像に、そっと心に寄り添うようなサウンドと歌声が相まって場内を温めると、最後に「まだ発表していない、世に出ていない曲を」と「草縁(くさゆかり)」を初披露。「未来に地続きで連なる毎日を面白おかしく生きられるように作りました」(ハルハ)という紹介に続いたのは、“これからは僕が君の盾になろう”と歌う力強いロックチューンで、ハルハがかき鳴らすギターとヨナベの滑らかな歌声が軽やかに疾走。大いなる勇気をオーディエンスに与え、大きな喝采を呼んだ。
ここで、ゲストの安本彩花(私立恵比寿中学)が、ついに登場する。毎年恒例の生誕ソロライブをはじめ、自身でもオリジナル楽曲の制作に取り組むなど、ソロとしても精力的に音楽活動を行っており、この日も自身が作詞・作曲したオリジナル曲を次々にパフォーマンスしていった。DJブースが設えられたステージに現れるなり「こんばんは、安本彩花です! 本日はよろしくお願いします!」と大きく手をあげて宣言すると、“あやちゃーん!”の声援を受け、ロックチューンの「カレーライス」をスタンドマイクで激唱。客席からは“オイ!オイ!”と拳が振りあがり、“カレー!”“うまい!”のコール&レスポンスまで展開して、問答無用の熱狂の渦にオーディエンスを巻きこんでいく。
「小さいころからカレーライスが苦手で、なんでみんなが美味しいって言うカレーを食べられないんだろう? という思いから作った曲。でも、今はスープカレーが好きです」と1曲目の制作秘話を語ると、ここからは自らDJブースに立って楽曲を鳴らしていった。「楽しむ準備できてますか?」とスクラッチでエビ中ファミリーを煽動し、「恋の感覚」でしっとりと甘い夜の匂いを香らせれば、そのままシームレスで今回のライブのために制作された新曲「Dear」へ。大勢のOGが存在するエビ中の一員らしく「違う道を歩んで頑張っている仲間に向けて作った曲」という最新曲を、ブースから飛び出して届ける彼女の後ろでは、PC画面を模した画面上のセットリストに歌唱曲が次々に追加されていくのも上手い。また、DJタイムの2曲はなんと撮影が許可されており、数多のオーディエンスがスマホのカメラを向けていたので、SNS上でその勇姿が見られるだろう。
さらにサプライズは続き、ここで「とってもお世話になっているお兄さんを」と、本日出演する松尾太陽がステージに。タカシ名義で9人組ダンス&ボーカル超特急のボーカルを務める彼と、安本はドラマやバラエティ番組、ライブでの共演歴もあり、何かと交流のある間柄だ。そして「超特急さんの楽曲でとても好きな曲があるので……」という安本のたっての要望により、なんと2人で超特急の「a kind of love」を歌唱。「みなさん、手拍子をお願いします!」と松尾が煽れば、客席のペンライトは安本の緑に松尾の白と、それぞれのイメージカラーに染まっていく。爽快なサビでは歌詞に合わせて全身で“E!”を作り、曲のハンドサインを掲げて、曲終わりには松尾が私立恵比寿中学の安本が超特急の決めポーズ。安本が「メチャメチャ楽しかったです!」と礼を述べると、彼女が横ストライプの衣装を着ていることに触れた松尾は「良かったです。僕、(衣装が)縦ストライプなんで」と自身のスーツ衣装を指し、安本に「さすが関西人ですね!」とプレッシャーをかけられる一幕もあった。
松尾を見送った安本は、最後にロッカバラード「スーパーヒーロー」を笑顔で熱唱。「25歳になった今、ファンや支えてくださる方のおかげで、こうして笑顔で歌えているんだと実感したときに作ろうと思った」というリアルな感情に基づく歌には確かな熱があり、周囲にいる人々への感謝のみならず、人と人のつながりの大切さをも感じさせてくれた。「みなさんのおかげで楽しいステージを作ることができました。まだまだ力不足なので、これからも一生懸命歌を作って頑張っていきます」という締めの挨拶にも、アーティストとしてのプライドがキラリ。グループとソロの両輪で、アーティスト性を高めてゆくだろう彼女の今後に期待したい。
イベントもクライマックスに近づき「最後まで楽しんでいってください!」とトリを飾ったのは松尾太陽。超特急のボーカリストとして長年活躍しながら、2020年からは本名の松尾太陽名義でソロ活動もしており、この日は一ボーカリストとしての高いパフォーマンス力を見せつけることとなった。登場した流れのまま、最初に歌い始めたのは全英詞の「Magic」。オリジナルではダンサブルなナンバーを、キーボードとギターの生演奏でアコースティックに変貌させ、アレンジの利いた自由な歌い回しで聞かせていく。シティポップ曲「The Brand New Way」でも「クラップしてください!」と号令をかけ、オーディエンスの手拍子やギター&ピアノと波動をシンクロさせながら歌う姿には、超特急のステージとは異なる喜びの形が。会場とステージの空気から生まれる“瞬間”の感情に基づいた自由なボーカリゼーション、そこから生まれる楽しさこそが、この日の松尾太陽のステージの一番の特徴であったと言えよう。
「メチャクチャ熱いですね!」と客席の熱気をたたえ、ジャケットを脱いで縦ストライプのスーツ姿になると、「せっかくなので、超特急の曲をもう1曲」と歌われたのは、一昨年に配信された「クレッシェンド」。高音域の続くメロディックなナンバーを、十八番のファルセットやフェイクを交えて歌い上げ、大きな拍手を浴びる。そして「今日はさまざまな曲を用意してきました」と、ソロでのオリジナル曲を次々に披露。バラードの「体温」では、アコギとキーボードが奏でる温かな音色と呼吸を合わせ、アカペラも交えて海のように深く、大きな愛を、包容力に満ちた歌声で表した。「Hello」ではステージ上の椅子に腰かけ、大きく手を振って肩の力の抜けたラフなムードを醸しつつも、クライマックスのダイナミックなフェイクから、この音楽空間を心から楽しんでいることが伝わってくる。
ソロの楽曲について「普段あまり表立ってやる機会が多くないので、こうやっていろんな方に聞いてもらえるのはもちろん嬉しい」と語りながら、「なにより、みんながクラップしたり、手を振ってくれてる姿を見て“みんな、メッチャええ奴やんか!”ってなりました」と告白。「こんな温かな場所にいられるのが、メチャクチャ嬉しい気持ちです。また呼んでいただけるように、いろんな感情を共有できるように、【LIVE Meets】ともども頑張っていきます」と表明して、ラストソング「起承転々」を贈る。“何度だって はじめていこう”“明けない夜はない”と歌われる詞世界は、すべての人々に対する応援ソングであると同時に、歌の世界に生きる彼自身の思いと確実に重なるもの。雨を降らせる暗雲が青空へと変わっていくビジョンの映像でも、力強いメッセージを具現化した最後、長いブレイクを挟んで“ものがたりをつづけよう”とアカペラで静かに、けれど深く歌い上げた彼の眼差しには、揺らぐことのない音楽道への決意が現れていた。
「また会える日まで、ありがとう!」と満場の拍手を受けて退場しながらも、「忘れたわ!」と戻り、ステージ上のワードローブに掛けていたジャケットを持っていく茶目っ気まで見せてくれた松尾。そんなユルさを許すアットホームな空気の中で、音楽に対する真剣なクリエイションを繰り広げられるのが、【LIVE Meets】というライブシリーズの特色でもあるだろう。
Text by 清水素子
Photo by 武石早代
◎セットリスト
【LIVE Meets Vol.5】
1月26日(金)東京・Spotify O-EAST
松田今宵
01. 甘じょっぱい
02. Smoky Baby
あたし
01. シュガーハイ
02. AtoZ
03. 太陽観測
04. イベリス
05. そっか
ケタチガイ
01. ウタカタララバイ
02. Stranger
03. Dimmer
04. 無礼King
05. お気楽Luck Life
harha
01. 人生オーバー
02. 浪漫人
03. 怪々界
04. アンデルセン
05. ボクラノ
06. アルテルテ
07. 草縁
安本彩花
01. カレーライス
02. 恋の感覚
03. Dear
04. a kind of love w/松尾太陽
05. スーパーヒーロー
松尾太陽
01. Magic
02. The Brand New Way
03. クレッシェンド
04. 体温
05. Hello
06. 起承転々
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像