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2023/10/31

<ライブレポート>冨田ラボ、ビルボードライブで即興作編曲の様子を披露

 冨田ラボが、10月6日に大阪・ビルボードライブ大阪、10月8日に神奈川・ビルボードライブ横浜で【冨田ラボ 即興作編曲SHOW ~新曲レコーディング公開ライブ~】を開催した。

 R&B、ジャズ、ソウル、AORなど多彩な音楽性を反映させながら、良質なポピュラー音楽を生み出し続けている冨田ラボ。今回の公演では、タイトル通り、即興で楽曲を作る様子をリアルタイムで実演。現代のポップ・マエストロと称される楽曲制作のプロセスを共有できる、きわめて貴重なステージとなった。

 活動20周年を迎えた冨田ラボ。昨年6月にアルバム『7+』(細野晴臣、早見沙織など総勢20名のアーティストが参加)、今年6月にはワークス・ベストアルバム『冨田ラボ / 冨田恵一 WORKS BEST 2~beautiful songs to remember~』(11月3日には3枚組のアナログ盤を発売)をリリースするなど精力的な活動を続けてきた。

 7月15日には東京・TOKYO DOME CITY HALLでライブイベント【冨田ラボ 20th Anniversary Presents “HOPE for US” 】を開催。出演バンドはYONA YONA WEEKENDERS、TENDRE、KIRINJI。そして冨田ラボのステージには、磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS)、AAAMYYY(Tempalay)、TENDRE、長岡亮介(ペトロールズ)、長塚健斗(WONK)、bird、藤巻亮太、藤原さくら、ぷにぷに電機、堀込高樹(KIRINJI)、吉田沙良(モノンクル)、Ryohuが登場し、日本のポップミュージックの粋と呼ぶべきステージが繰り広げられた。

 20周年イヤーの締めくくりとして開催された【即興作編曲SHOW ~新曲レコーディング公開ライブ~】では、普段、冨田ラボが楽曲制作を行っているTomita Lab Studioをステージ上に再現。事前にアイデアを用意するのではなく、まったく何もない状態からメロディ、コード、リズムなどを重ねていき、一つの楽曲が出来ていくプロセスをそのまま見せるという超レアなイベントだ。

 このスタイルの公演がビルボードライブで開催されたのは、2014年以来、10年ぶり。(前回の公演タイトルは【冨田ラボ 即興作編曲 SHOW -NEW ALBUMレコーディング初日大公開!-】)。このイベントは公式YouTubeチャンネル内の「作編曲SHOW」へと発展。冨田ラボの楽曲制作の過程を見せつつ、冨田自身が作曲やアレンジについて説明するという音楽ファン垂涎のコンテンツとなっている。

 今回の公演でも、ゼロの状態から楽曲が生まれる、きわめてスリリングな音楽体験を共有することができた。

 ステージに置かれているのは、PC、キーボード、ベース、ギター、そしてピアノ。ステージに登場した冨田は「今日は普通のライブと違いまして、ここにコンピューターや機材がありますけど、曲を作っていく過程をみなさんにご覧いただこうと思います」とライブの趣旨を説明。「どう考えても時間が足りないので、早速やりたいと思います。何もしゃべらないでやりますが、みなさん自由に飲んで食べて、楽しんでもらえたらと思います」という言葉を挟み、まずはピアノを弾き始める。いくつかのコード鳴らしながら、メロディを口ずさむこと数分。曲想を掴んだあと、PCを操作し、リズムをプログラミングし始める。BPMを上げ下げしながらテンポを決めると、キーボードに向かい、エレピ風の音色でリフとなるであろうフレーズを弾く。さらにリズム、リフの絡みを細かく調整しつつ、メロディを実際に歌い、少しずつ曲の原型を形作っていった。

 その後はLogic Proで編集を重ね、リズム、メロディ、和声を精査していく。特に時間をかけていたのは、ヴァース(平歌)からコーラス(サビ)へ移行するパート。特にこだわっていたのはリズムで、キックやハイハット、スネアの音色を何度も変えながら、時間をかけてトライ&エラーを繰り返していた。

 開演から50分が過ぎ、ようやく全体像が見えかけると、今度はベースを手に取る。クリック音をしっかりと鳴らし、シンプルなベースラインを入れると、楽曲の輪郭がくっきりと浮かび上がった。続いてはシンセ、そしてストリングスと生のピアノ。すべてが即興なので、譜面を書いたりはせず、手を動かしながら次々と音を重ねていくわけだが、そのすべてが驚くほどに素晴らしい。特にストリングスの旋律は絶品だった。凄まじいばかりの集中力で(本当にほぼ何もしゃべらなかった)楽曲を構築していく姿は、まさに現代のポップ・マエストロだ。

 約70分でワンコーラス分を作り上げた冨田ラボ。最後に「ステージには僕ひとりでしたが、スタジオを再現するために、Apple、Umbrella Company、Media Integration、CASIOなど、いろいろな方に協力していただきました。今日来ていただいた方には、後日、作った楽曲を限定でダウンロードしていただけるようにします。できる限りミックスして整理しますが、今のリアルタイムでやっていた感じも消さずにお届けしたいと思います」とコメントして、ライブは終了した。

 そして約1週間後、来場者特典として、このライブで制作された楽曲のダウンロードが可能に。さらに冨田自身のよるセルフ・リポートも公開された。70分~80分の公演時間内に収める“時短”のためにしたこととして「確認、推敲の時間をほとんどなくした」「演奏テイクをあまり重ねない(普段はあの10倍くらい弾いてると思う) 」「音色選び、作る時間は見ていて退屈なのでDAWに使いそうな音色をあらかじめ用意」の3点を挙げている。また、「メロディの展開、先行きの構成、サウンドの方向性も見える曲調を決めることが最重要で、そこには妥協しない―15分以内で」もポイントだったという。

 ビルボードライブ横浜公演の1stセットで制作した楽曲は、メロディアスなミディアムチューン。楽曲後半のメロディ、リズムがブラッシュアップされ、ストリングスも加わり、”これぞ冨田ラボ”と称すべきメロウで心地いい楽曲に仕上がっている。譜割のマイナーチェンジにより、楽曲全体の印象に変化させる技にも唸らされた。

 2ndセットはアッパーなファンク系の楽曲。軸になっているのは強度の高いリズム。さらに「ベースライン=パンチラインだと思っていた」というコメント通り、極上のグルーヴを描くベースもキモになっている。

 どちらの楽曲も制作を進め、リリースされる予定だという。楽曲の制作をステージで開示する、つまり作曲・編曲のメソッドを垣間見せることで、音楽そのものへの興味と理解を深める。それは言うまでもなく、冨田ラボにしか出来ない芸当だろう。

Text:森朋之
Photo: 高田真希子

◎公演情報
【冨田ラボ 即興作編曲SHOW
~新曲レコーディング公開ライブ~】※終了
2023月10月6日(金)大阪・ビルボードライブ大阪
2023月10月8日(日)神奈川・ビルボードライブ横浜

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