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2023/07/22 12:00

<ライブレポート>Deep Sea Diving Club、ポテンシャルを改めて見せつけた【Mix Wave Tour】ファイナル公演

 Deep Sea Diving Clubが福岡、大阪、東京を回る夏のツアー【Mix Wave Tour】を開催した。

 福岡発の4 ピースバンド、Deep Sea Diving Club。メジャーデビュー第1弾となるEP『Mix Wave』を携えたツアーで彼らは、多様な音楽性、際立ったポップネス、そして、バンドとしての一体感をダイレクトに提示してみせた。

 華やかなエレクトロ系のSEとともに登場した4人(谷 颯太/Vo.&Gt.、大井隆寛/Gt.&Cho.、鳥飼悟志/Ba.&Cho.、出原昌平/Dr.&Cho.)とサポートの宗正恭平(Key.)は、EP『Mix Wave』の収録曲「フーリッシュサマー」でライブをスタートさせた。トロピカルな雰囲気を反映したサウンド、〈ああ、僕らの夏よ!〉というラインが響き合い、観客のテンションを一気に引き上げる(なおこの日の東京は最高気温36℃だった)。

 谷が「渋谷、調子どうですか?」と観客を煽り、ハンドクラップを要求するとフロアは心地いい一体感で包まれた。続く「Left Alone」は起伏に富んだメロディとナチュラルな高揚感に溢れたバンドアンサンブルが一つになったポップチューン。音源では土岐麻子をフィーチャーしていたが、この日は谷が土岐のパートも歌うことで原曲とは違う魅力を引き出していた。

 4人はまったく音を止めることなく、穏やかで切ないグルーヴが広がった「SUNSET CHEEKS」、ゆったりとした旋律とともに〈いつまでも醒めない夢〉をモチーフにした歌を響かせた「おやすみDaydream」をつなげる。特に印象的だったのは、やはりEP『Mix Wave』の楽曲だった。まずはオーディエンスの手拍子とともに演奏された「リユニオン」。ネオソウル系のテイストを取り入れた音像と開放的なメロディラインがフロアを包み込む。異なる価値観や考え方が一つの場所に集まって、音楽を共有することの素晴らしさを描いた歌も、ライブという場所でさらに強いメッセージをまとっていた。

 そして「bubbles」はEP『Mix Wave』の1曲目に収められたポップチューン。疾走感のあるビート、メンバー全員のプレイヤビリティが存分に発揮されたアレンジを軸にしたこの曲は、今回のツアーでDeep Sea Diving Clubの新たなライブ・アンセムになったようだ。

 冒頭から8曲を続けて披露した彼ら。30分以上シームレスに楽曲を連ねながら、カラフルな音楽性をしっかりとアピールする演奏力とパフォーマンスは圧巻だった。メンバー全員が楽曲制作に携わり、クリエイター集団のイメージもあるDeep Sea Diving Clubだが、ライブバンドとしてもきわめて魅力的。満面の笑顔でプレイする姿も強く心に残った。

 「前回のツアーと違って、今回は声が出せます! 声を聞かせてください!」(谷)という喜びに溢れたMC、メンバー紹介の後は、このバンドの幅広い音楽性を体感できるシーンが続いた。〈揺れて繋がる思いだけがあるから〉というサビからはじまった「しじま」では、谷のソウルフルな歌声で観客の心と身体をゆったりと揺らす。「Miragesong」は00年代初めの日本のR&Bを想起させるサウンドと、ロマンティックで切ない冬の情景が重なるミディアムチューン。そして「渋谷の街を歩きながら作った曲です」(谷)と紹介された「goodenough.」は、洗練されたグルーヴと〈ありきたりな人間じゃダメだ〉という決意を込めた歌のコントラストで観客を魅了した。

 個人的にもっともグッと来たのは、「ゴースト」だった。ヒップホップの要素を取り入れたボーカルを介して、“触れられなくても、見えなくなったとしても、あなたを愛してる”という痛みにも似た想いを描き出すこの曲は、Deep Sea Diving Clubの奥深い音楽性をストレートに体現していたと思う。

 「地元の福岡の空を思い描いて書いた曲です」(谷)という「CITY FLIGHT」からライブは後半へ。シティポップ的な匂いとチルアウト的な音像が響き合う「フラッシュバック’82」、“何かを失い、何かを得る”人生の機微を快楽的なダンスミュージックに結び付けた「lostpeople」、そして「性別も好きなものも違うけど、Deep Sea Diving Clubの音楽を聴くという目的のために集まってくれてありがとう」(谷)の言葉に導かれた本編のラストは「T.G.I.F.」。〈ポップミュージックに沸き立つ心を忘れないで〉というライン、強靭にしてスムースなバンド サウンドによって、観客の高揚感はピークに達した。「いかれたBABY」(フィッシュマンズ)の一節を挿入したエンディングも最高だ。

 アンコールではレゲエのリズムを反映した「ランデブー」、レイドバックしたビート、エモーショナルな歌、“君は君のままでいい”というメッセージを刻んだリリックが一つになった「cinematiclove」を放ち、ツアー【Mix Wave Tour】は幕を閉じた。多様性に溢れたサウンド、観客の身体を解放するようなステージング。バンドとしてのポテンシャルを改めて見せつけたこのツアーで彼らは、さらなるステップアップを果たしたはずだ。


Text:森朋之
Photo:Ren Fujishige


◎公演情報
【Mix Wave Tour】
2023年7月17日(月・祝)
東京・Spotify O-nest

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