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2023/05/09 18:00

<ライブレポート>歴史的TKヒッツのオンパレード クラシックの殿堂 東京文化会館にて、小室哲哉フルオーケストラ公演を目撃

 見渡す限りのスタンディングオベーション、鳴り止まない拍手。そして、希望に満ち溢れたオーディエンスの目の輝き。日本を代表する音楽家、小室哲哉がたどり着いた表現のひとつの集大成を目撃した。

 クラシックの殿堂である上野公園に聳える東京文化会館にて、小室哲哉による数々のヒット曲が、東京フィルハーモニー交響楽団によって拡張された歴史的フルオーケストラ公演。【小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2023  -HISTORIA Encore-】が素晴らしかった。

 まさに流麗かつ荘厳な音楽の響き。あらためて思う、芸術的なライブだった。小室哲哉によるフルオーケストラ公演は、自身のソロキャリアでは初となり、昨年、渋谷・Bunkamura オーチャードホール、兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて行われ、喝采を浴びてきた。本公演は、そのアンコールとなる。

 自身のユニットTM NETWORK、globe、PANDORA(小室と浅倉大介によって2017年に結成された音楽ユニット。フィーチャリングでBeverlyが参加)はもちろん、渡辺美里、中森明菜、TRF、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美など数多のアーティストに楽曲を提供してきた歴史をオーケストラの響きによって紐解いていくヒストリカルな公演。小室哲哉が80年代から90年代、そして00年代から現在に至るまで築き上げてきた、これまでとこれからが交差して、まるでオーパーツのように時空を超えた輝きを放つ歴史的な一夜となった。

 小室哲哉が平成音楽シーンでトップを獲ったとき、「TKソングって打ち込みだし、使い捨てでしょ?」、「長く聴かれるものではない」など言われたことがある。

成功とは強い光を浴びる分、影となるやっかみ、批判はつきものだ。しかしながら振り返ってみてほしい。小室哲哉が生み出してきた名曲たちは、令和の時代も歌い継がれエバーグリーンな輝きを解き放っている。その瞬きは、なんら古びることなく常にフレッシュかつ豊潤なメロディーとして生きつづけているのだ。

 小室哲哉は音楽家である。自ら生み出してきた作品は、時代の欲求に応じて誕生したポップミュージックではあったが、普遍性ある骨太なメロディーが本質として存在していた。耳に、記憶に残り続けるフレーズの強靭さ、挑戦し続けたことで生まれた個性、そして未来を切り開いてきた明快なヴィジョン。変わらぬアートへの探求こそが、時代を席巻したヒット曲を生み出し、そして次世代へ継承するべくフルオーケストラ表現へと帰結したのである。

 そこに残ったのは小室哲哉が類稀なるメロディーメーカーであることの証明だ。

 TM NETWORKでのブレイク前。小室哲哉がロールモデルとし、その背中を追った音楽家、坂本龍一はもうこの世にいない。

 フルオーケストラでのコンサートへ足を踏み入れたことは、教授からの影響があったかもしれない。そもそも、小室はクラシカルなオーケストラ的表現とは真逆のテクノロジーを活用したシンセサイザーによって日本中を躍らせたダンスミュージックのパイオニアだ。しかし、そのルーツにはシンセサイザーを世に知らしめた音楽家、冨田勲が1975年にリリースしたアルバム『展覧会の絵』、そしてロックとクラシックが融合したプログレッシブ・ロックがある。プログレ界の代表的なバンドに、エマーソン・レイク・アンド・パーマーがいた。小室が敬愛した鍵盤にナイフを突き刺すキーボーディスト、キース・エマーソンが所属した3人組だ。本公演はいかに小室がクラシック音楽から影響を受けたかが再発見できる一夜なのである。しかしながら、冨田勲、キース・エマーソン、坂本龍一の3人はすでに鬼籍だ。

 定刻が過ぎて、全身プラチナめいた輝きの白い出で立ちであらわれた小室哲哉。その登場は、まさにロックスターの趣である。ファッションデザイナーTAE ASHIDAによるスペシャルオーダーなファッションだ。

 第一部1曲目は、TM NETWORK「Get Wild」からスタート。アニメ『シティーハンター』エンディング曲としても知られる、海外人気も高い作品だ。オーケストレーションに施されたアレンジは、よりプログレ色強めの重厚感でいっぱいな新感覚の「Get Wild」となった。途中、エマーソン・レイク・アンド・パーマーの代表作である1971年にリリースした、19世紀のロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーが1874年に作曲したピアノ組曲『展覧会の絵』における「プロムナード」のフレーズが鳴り響く。1曲目から予想を上回る感動だ。そう、本公演は"ただヒット曲をオーケストラでカバーするだけ"のようなものではなく、小室哲哉による誰もが知る歴代の作品をヒストリカルかつクリエイティブにマッシュアップ=意図をもって再構築した芸術的な攻めのライブ表現なのである。

 東京文化会館に訪れたオーディエンスは、固唾を飲み、前のめりな姿勢となって手を握りしめサウンドへと向き合う。ステージからは、ヒリヒリとした緊張感が伝わってくる。そう、単純にヒット曲をリラックスして楽しむだけではない、楽曲とピアノ、楽団というトライアングルによる真剣勝負が繰り広げられていたのである。

 事前に取材したインタビューでも、自身が生み出したヒット曲とクラシックの名曲の融合をほのめかしていたが、大胆に小室ヒストリーが時空を超えてクラシックとともにアップデートする試みに鳥肌がたった。なお、ステージの小室の周りにはピアノと並んでシンセサイザーMoogが設置されていた。Moogが持つ温かみあるシンセの響きは、オーケストラサウンドに似合う。さらに、近年の愛機Montageなどシンセサイズプレイがホール空間に響き渡る。そう、繰り返すが"ただヒット曲をオーケストラでカバーするだけ"ではなかったのだ。

 小室自身が生み出してきた、我が子のように大切な作品たち。楽団の紹介に続いて、「次の曲は、僕が音楽家としてはじめて認められたかな、という曲です」と語り「My Revolution」(渡辺美里)を奏ではじめた。さらに、ヒット曲は続く。映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』主題歌としてアニメーション史に刻まれた大名曲「BEYOND THE TIME -メビウスの宇宙を越えて-」(TM NETWORK)では、映画描写ともリンクするサイコフレームと共鳴するかのようなせつなき輝きを表現。そして平成を彩るTKヒッツ「寒い夜だから...」(TRF)、「恋しさとせつなさと心強さと」(篠原涼子)と、まるで宇宙空間に吸い込まれそうに壮大なサウンドを解き放つ人気曲がこれでもかと続く。

 さらに、1993年に中森明菜へ提供した「愛撫」から醸し出される芳醇なるメロディーには、観客も新鮮な驚きを隠せなかったようだ。2023年の今、あらためて再評価したい小室ソングだ。そして、優しく大きな海を感じるオーケストラアレンジが絶妙な「NEVER END」(安室奈美恵)。近年、再評価の声も高いglobeによるせつなきバラード「Precious Memories」が奏でられていく。

 小室ソングには、オスティナートというメロディーを繰り返す技法がとられている作品が多い。クラシックなアレンジと相性がよいことが、本公演で実証されていく。そこに小室らしさである転調がよきスパイスとなり、メロディーの美しさが活き活きと輝きだすのだ。

 現存する日本最古のオーケストラである、東京フィルハーモニー交響楽団による素晴らしき好演。そして、昨年の夏に開催されたTM NETWORKのライブ【TM NETWORK TOUR 2022 "FANKS intelligence Days"】(DAY8、9)にも出演した小野かほりが、パーカッションで華やかにビートを彩っていく。本公演で、指揮と編曲を担当した、もう一人の主役である藤原いくろうとは同じ音大出身だった縁もある。見事なチームワークで小室哲哉によるフルオーケストラ公演は、想像を上回る感動で時を進めていく。

 20分の休憩を挟んだ第二部は、小室が1990年にリリースしたサウンドトラック『天と地と』に収録された「炎」による重厚かつアグレッシブな展開からリスタート。もともと、サントラでは当時数億円したシンセサイザー、サンプラーのお化けであるシンクラビアを多用したバーチャルなオーケストレーション表現を用いた作品が、原点回帰であるフルオーケストラとして生音で聴けたことに感動したファンは多かったのではないだろうか。小室哲哉は楽曲を無駄にすることがない。未来を見据えながらも常に、過去曲への愛を忘れることはない。昨今海外では"リビルド"という概念で過去のヒット曲の再構築が話題となっているが、小室はTM NETWORKにて1989年に"リプロダクション"という手法で先んじて実現している。小室ソングのサステナブル(持続可能)な可能性を体現するワンシーンである。

 小室歌唱による映画『天と地と』主題歌「Heaven & Earth」では、命の儚さ、めぐり会いの奇跡を歌唱で説いた。ここで大きなサプライズが。MCなどで説明こそなかったが、globe「DEPARTURES」のイントロダクション前に、坂本龍一の「Rain」。そして教授の代表曲である「ラストエンペラー」の一節をピアノで奏でたことに感極まった。坂本龍一はつい先日旅立たれたばかりだ。そんな圧倒的現実に小室哲哉は心を大きく揺さぶられたことだろう。全身全霊の感謝の気持ちを込めた素晴らしいピアノプレイだった。

 そして、再び楽団とともにglobeによる大ヒット曲「DEPARTURES」へ。そう旅立ちの曲である。雪景色が目の前に広がるかのような儚げなピアノによるメロディー、音の響きを広げるオーケストレーションの重なりが美しい。

 ここで、「FACES PLACES」のイントロとともにステージにゲストボーカリスト、Beverlyがあらわれた。小室とは楽曲提供や、ライブでの共演。浅倉大介とのユニットPANDORAへのフィーチャリングでの歌唱など、信頼関係を築いたシンガーである。

 驚異的な歌のうまさ。一切ピッチのズレない、しかしとてもヒューマニティーに富んだエモーショナルな歌声。まさに、天を突き抜けるかのような驚異のハイトーンボイスを堪能させてくれた歌姫の登場だ。そして歌われるのは、篠原涼子に提供した歌詞のメッセージ性がしみるレア曲「GooD-LucK」。スペシャルゲストに、現在自身のユニットaccessがツアー中である愛弟子、浅倉大介を迎えて海外人気も高いPANDORA「Be The One」をプレイ。ダイナミックにオーケストラサウンドと溶け合い、ハートに響きまくる異次元の世界へと誘っていく。耳馴染みのあるクラシック名曲がインパクトとしてマッシュアップで織り込まれる凄み。最上級の感動に、会場の誰もが驚きを隠せなかったことだろう。世界へ伝えたい、唯一無二の見事なライブ表現が東京で繰り広げられていたのだ。

 ここで浅倉大介、Beverlyがステージから去り、小室が指揮を務める藤原いくろうにアイコンタクトして早くもオーラス「I'm proud」、「CAN YOU CELEBRATE?」を迎えるステージ。それこそ、原曲においてもフルオーケストラによるレコーディング音源が制作された、90年代を代表する人気のTKヒッツだ。心揺さぶられ押し寄せる高まる感情の波。思わず涙するオーディエンスもたくさんいた。間髪を開けず、浅倉大介、Beverlyを再びステージに招き入れ、いまの時代にぴったりな選曲として「SHOUT」をフックアップ。時代と溶け合うために歌詞を2023年版にリライトした小室による歌唱で披露。本作は小室が、1989年にリリースした1stソロアルバム『Digitalian is eating breakfast』に収録された、自身の創作活動において思い入れの深いナンバーである。

 歌詞でアップデートされた"あいつにSHOUT 社会にSHOUT 英知にSHOUT 気のすむまでSHOUT"という、まさにパンデミックを経て、AIが急速に進化する時代へ向けたアグレッシブなフレーズ。それをフルオーケストラで表現するのだからパンクだ。

 17曲のすべての演目を終えて、安堵の表情を浮かべる小室哲哉。客席は、見渡す限りの総立ちのスタンディングオベーション、鳴り止まない大きな拍手。そして、希望に満ち溢れたオーディエンスの目の輝き。

 こうして、小室哲哉による"ヒストリア"をキーワードとした新たな挑戦は大成功を収めた。そして、小室哲哉は2024年に40周年を迎えるTM NETWORKでの音楽活動へ本格的にギアを入れ、音楽シーンにさらなる革命を起こしていく。本公演は、小室にとって大きな自信や指針となりターニングポイントとなったことだろう。

 音響の素晴らしさ、そのクラシカルかつアートな佇まいなど、日本が世界へ誇る文化遺産=東京文化会館にて、小室哲哉による数々のヒット曲が、東京フィルハーモニー交響楽団によって拡張された歴史的フルオーケストラ公演。音楽が持つ感動は、オーディエンスひとりひとりの思い出や記憶にスイッチを与えていく。ヒット曲とは、人それぞれの人生という歴史に鳴り響く心の鼓動とシンクロするのだ。そんな、人それぞれが生きてきた証を、フルオーケストラによる素晴らしき響きで体感した一夜。まさに贅沢な夜だった。

text:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
photo:岩田えり

◎公演情報
【小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2023 -HISTORIA Encore-】

【東京】2023 年 4月 23 日(日)OPEN 16:00 / START 17:00 東京文化会館 大ホール ※終演

出演:小室哲哉、浅倉大介、Beverly

指揮・編曲:藤原いくろう
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

主催・企画制作:ビルボードジャパン(阪神コンテンツリンク)
後援:米国ビルボード

https://billboard-cc.com/classics/tetsuyakomuro2023-encore/

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