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2023/03/28

<ライブレポート>HOWL BE QUIET、13年間を締めくくる花束のようなラストライブ

 「今日は晴れたし、みんなの前で気持ちよく歌えたし、晴れやかな気持ちでバイバイできそうです。この先みんながどんな人生を送っても、俺らがどんな人生を送っても、今日という日をどうか忘れないでください。今日があったからもう一踏ん張りできる、そんな日にしてください。今日を思い出して一緒に頑張ろうよ。元気でね! またね! 幸せになれよ!」。竹縄(Vo./Gt./Pf.)が語り、岩野(Dr.)がこの日最大の声量で「ワン、ツー、スリー!」とカウントを叫ぶ。竹縄と黒木(Gt.)が目を合わせて微笑み、ギターリフを刻む。松本(Ba.)がベースの弦の上を滑らかにスライドする。新たな門出を祝う結婚ソング「メアリー」が奏でられて、会場はまるでラストアルバム『HOWL BE QUIET』のジャケットの花束のような彩りに包み込まれる。間奏のあいだ、お客さんのクラップの中で号泣する岩野。泣いている顔を隠すように下を向いたり、涙がこぼれないように上を向いたりしながらギターをかき鳴らす黒木。「13年間本当にありがとうございました、HOWL BE QUIETでした」。最大の愛ある拍手が響き渡る中、4人で音を掻き回す。ついに終わりを告げるフロアタムが叩かれ、4人で呼吸を合わせてから最後にもう一度、一斉に音を鳴らす。そして、「ありがとう」の声と拍手がフロアから飛び交う中で4人はステージを去った。

 3月22日、東京・恵比寿LIQUIDROOMにて、HOWL BE QUIETのラストライブが開催された。【HOWL BE QUIET LAST TOUR「Evergreen」】と題されたツアーは、名古屋・ell FITS ALL、大阪・Music Club JANUSを巡ったのちに、ここ東京がファイナル。HOWL BE QUIETの13年間を締めくくる最後のライブとなった。

 その内容は、実に晴れやかだった。「終わる」ための解散ライブではなく、メンバー4人が「始める」ための内容に見えた。なぜ人々は「結婚」という節目の報告に「おめでとう」と祝福の声をかけるのか。それは、その人にとってさらなる素敵な人生が待っているはずだからだ。これまで失恋や孤独の曲を多く歌ってきたHOWL BE QUIETが最後に作った唯一の結婚ソング「メアリー」で本編を締めくくったとき、「解散」という区切りは4人にとってさらなる素敵な人生を歩むための節目であることを思い知った。

 3月22日、19時。ラストアルバムにも収録されたお馴染みのSE「Abyss」が鳴る中、大きな拍手で迎えられてステージに登場したHOWL BE QUIETは、インディーズ時代の楽曲「From Birdcage」からライブをスタートさせた。「色んな想いは もう ここに全部置いていくよ」と、すべてをこのライブで出し切ることを伝えるかのような歌い出し。その後も、インディーズ1st EP『BIRDCAGE.EP』の頃に制作していたがラストアルバムまでリリースされなかった「つよがりの唄」、初作品『DECEMBER』に収録された「クローバー」、そして最新アルバムより「ベストフレンド」「解体君書」「味噌汁」、さらにはSexyZoneに書き下ろした「名脇役」のセルフカバーなど、13年間を網羅しながらも最新のHOWL BE QUIETを見せつけるセットリストとタイトな演奏が繰り広げられていった。

 最後のインタビューで竹縄は、「やりきった」という想いを語ってくれた。その意を一緒に掘り下げていくと、「言葉を選ばずに言うと、多分どこかに「疲れた」がある」「ネガに言えば「疲れた」だし、ポジティブに言えば「やりきった」」という言葉にたどり着いた。でも、この日のライブを見ると、インタビューのときの竹縄はまだ「やりきった」の感情を自分でも整理しきれていなかったのかもしれないし、このツアーをもって本当の意味での「やりきった」に到達できたのかもしれない。とにかく、冒頭の数曲からすでに4人からは完全に「やりきった」人の輝きと笑顔が放たれていて、それは後半にいくにつれてどんどんと濃くなっていった。「やりきった」と言えるものがひとつでもある人生を歩んできた人ならではの汗と涙の美しさに、羨む気持ちが芽生えたほどだ。

 竹縄が最後に書いた曲「ぼくらはつづくよどこまでも」はアウトロで4人の音が渦になっていく中、バンドの走馬灯が駆け巡るようだった。そして冒頭に書いた「メアリー」に辿り着くまでの終盤では、バンドとファンの間で「ギブアンドテイク」な関係性が巻き起こった。「ギブアンドテイク」の曲中に照らされたフロアは、太陽に照らされた水面のようにキラキラしていた。「シナリオみたいな運命に左右されずに 遠く遠く 目指した」から始まり「その名の通り“生きる”しか道はないのさ」と終わる、人生の困難や葛藤を歌う「ライブオアライブ」は、インディーズ時代からの楽曲であるもののHOWL BE QUIETのこれまでとこれからを表現しているように聴こえてきた。ブリッジでは大合唱が起こり、お客さんの腕の振り方と4人の頭の振り方が見事にシンクロしてひとつになる。

 そして「歌ってくれる?」と呼びかけて、アコギをシャランと鳴らした上で竹縄がアカペラで歌い、さらに合唱を誘って「レジスタンス」へ。「君の声は届くんだ」と歌ったあと、「ずっと届いてました」と胸を叩く。HOWL BE QUIETの音楽を聴いた人たちに支えられてきたメンバーと、HOWL BE QUIETの音楽に支えられてきたリスナーの感謝や愛の応酬で、会場は「温かい」なんて言葉の温度を遥かに超えて「アツい」状態になっていた。「HOWL BE QUIETというバンドは本当に愛してもらっていたなと思います。出会ってくれて、聴いてくれて、たくさんたくさん愛してくれて、本当にありがとうございました」と竹縄が涙を堪えて声を震わせながら言うと、フロアのそこらじゅうから「ありがとう」の言葉が聞こえる。そして、最後の「メアリー」へと続いた。

 アンコールでは、「拓郎と亨とクロへ、今までサンキューなと想いを込めて一曲歌います」と、メンバーにはサプライズで「かさぶた」を竹縄が弾き語る場面も。「悔いはない。幸せ者です。これだけのみんなに見守られながら旅立てることを本当に幸せに思います」という言葉から、メジャーデビュー曲「MONSTER WORLD」へ。間奏では黒木、松本が、ピアノを弾く竹縄のところに集まって身体を寄せ合う。

 最後のインタビューで私は竹縄に「HOWL BE QUIETというバンドをやる人生とやらない人生を選べる地点に戻れるとしたら、どうしますか」という質問を投げた。竹縄はそれに「バンドをやる」という言葉を返してくれた。この日のライブを見て、私もバンドがやりたくなった。メンバー同士、互いに憧れて、頼って、時にはむかついて、でもやっぱり甘えて、「友達」「家族」「同僚」などとはまた違う、「バンド」という言葉でしか表せないような、特別な関係性を築いてきたことが最後のライブには溢れ出ていた。本人たちが「バンドっていいな」と心から思っていないと、見ている側にそう感じさせる空気感は生まれない。「バンドをやりたい」、私たちにそう思わせる解散ライブだったのだ。

 そして、ついに最後の最後の一曲。「本当に最後のHOWL BE QUIETです。最後に一曲思いっきり心を込めて歌わせてもらいます」と、その言葉の通り心を込めて丁寧に大きな声で歌い出したのが「さぁ 始めよう ここから また繋がっていけるように」だ。HOWL BE QUIETの2ndメジャーシングル「Wake We Up」。ライブの前から、そしてライブ中も竹縄は、「この日のことを引き出しの片隅の方でいいから置いておいてもらって、いつもどこかで小さくでもエールを送ったりできるような、そんな日を作りたい」という想いを何度も語っていた。その想いは「今日閉じたそのミライ着 ギフト型タイムカプセルが いつか開くときに 君のこと助けてくれるだろう」という歌詞とも重なった。そしてラストライブを締めくくる「さぁ!素晴らしい今日から また始まっていくんだろう」というサビの言葉が、解散という決断が決してネガティブなものではなく、人生の新章を開くための一歩であることを宣言するようだった。

 アンコールのMCで岩野が、涙を流しながらHOWL BE QUIETを総括するようなことを語った。「大きいところでやることとか、すごくCDが売れることとかが、果たして『成功』なのか、俺はどうなんだろうなって思ったの。それは今日やっててもすごく思った。だって、みんなと僕らのこの状態を見て『あー、失敗だね、このバンド』という人はひとりもいないと思うわけ。もうひとつは、たくさん大切な人に、HOWLだったから出会えたんだよね。バンドの成功/失敗は、どれだけ素敵な人たちに出会えたかだと思うんだよね。それは、みんなに対してすごく思うよ。来てくれたみんな、応援してくれた人たちに対してすごく思うし、何よりこの3人には思うよ。本当に素敵なバンド人生をどうもありがとうございました」

 「解散」にはさまざまな形がある。メンバーの不仲でライブもやらずに解散するケースもあれば、突然の不幸で終わってしまうケースだってある。岩野の言う通り、こんなにも晴れやかに「解散」を迎えられたことが、HOWL BE QUIETの活動は成功だったことの証だ。さらにいえば、この日の会場に集まっていたオーディエンスは確実に解散後もこのバンドの楽曲を聴き続けるだろう。ツアータイトル通り「Evergreen」な、リスナー一人ひとりにとって時を経ても色褪せない名曲たちを生み出したことも、HOWL BE QUIETはバンドとしてひとつの成功を掴んでいたことの確かな証だ。

 いい音楽というものは、「音楽の中で歌ったことが現実になる」ということがしばしば起こる。3時間にわたるライブで歌った曲のいくつもが、HOWL BE QUIETとは音楽の中で歌ったことに導かれて歩んできたバンドであることを示していた。そんなHOWL BE QUIETが最後に残した曲が「メアリー」だ。この曲に未来が導かれるのであれば、4人のこれからの人生は幸せと笑いに満ちた喜劇になるだろう。

Text:矢島由佳子
Photo:山川哲矢


◎ライブ情報
【HOWL BE QUIET LAST TOUR「Evergreen」】
2023年3月22日(水)
東京・恵比寿LIQUIDROOM

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