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2023/02/25

<ライブレポート>八木海莉、健やかに育つシンガー・ソングライターの現在地を刻んだ2ndワンマン

 シンガー・ソングライターの八木海莉が2月11日と12日の2日間、ワンマンライブ【polydam】を東京・日本橋三井ホールにて開催した。

 2021年にアニメ『Vivy -Fluorite Eye's Song-』の主人公・ヴィヴィの歌唱を担当し、2021年12月に自身の名義でソニー・ミュージックからデビューした八木海莉。つい先日2月1日にリリースされたEP『健やかDE居たい』は、歌声の瑞々しさや何色にも染まれそうな透明感はそのまま、音楽性のレンジはますます広がり、表現世界の深化を感じさせる1枚だった。

 そんな意欲作の最新モードで臨んだ本公演は、最近買ったばかりだというエレキギターを携えた「健やかDE居たい」からスタート。<健やかで居られる訳が無い/終わりない矛盾ばかり>と歌うメランコリックな歌詞とは裏腹に、朗らかではつらつとしたギター・ポップを鳴らすオープナーに続き、同じく最新EP収録の「ゾートロープ」へ。淡いシューゲイザー風の音像が浮遊感たっぷりのナンバーで、聴き手にゆったりと深呼吸を促すような、優しい陶酔と高揚が心地いいパフォーマンス。後にこの2曲はエレキギターのお披露目で「緊張するから」という理由で初めに演奏したと語られるのだが、“健やかで居られる場所”という最新作のテーマ、ひいては今回のワンマンに彼女が込めた想いを象徴的に示唆する露払いだったようにも思う。

 ダンスも披露した「君への戦」を経て、「海が乾く頃」から「セプテンバーさん」への流れは海底に陽光が差し込んでくるような照明の変化も美しく、続く「SELF HELP」はエクスペリメンタルなサウンドの構築美で魅せる1曲。約1時間のミドルセットの中で自身のレパートリーを総動員しながら、多彩なアプローチで観客を引き込んでいく。目まぐるしい展開の「のうのうた」ではクラップを誘い、会場の一体感をさらに高めた。

 楽器のオーガニックな生音によって再構築された「A Tender Moon Tempo」、同じくミニマムな編成で生まれ変わり、とりわけピンスポットの中で美しいファルセットも交えながら届けた最初のワンコーラスの美しさが白眉だった「Harmony of One's Heart」は、アニメ『Vivy -Fluorite Eye's Song-』からの選曲で、八木の歌声の凛とした響きを際立たせた2曲でもあった。

 一方で、シニカルなリリシズムが炸裂する「お茶でも飲んで」以降、改めて実感したのは、やはり彼女の音楽性の含有成分が多岐にわたるというという点。ボカロP・ふるーりの作編曲で、喋り口調の軽やかな言葉の筆致が異彩を放つ「ダダリラ」、NAOTO(ORANGE RANGE)編曲のオリエンタルなトロピカル・チューン「刺激による彼ら」。「みなさんにも心地の良い朝が来ますように」と言って披露したメロウなチル・ナンバー「Sugar morning」から、ホリエアツシ作曲による虚無感と焦燥感が入り交じるロック・ナンバー「僕らの永夜」まで、披露される楽曲はジャンルも世界観も様々だ。

 2002年、広島で生まれた彼女は歌やダンスを学び、中学卒業後に“外の世界”に触れるために単身上京。デビューから今に至るまで、個性豊かなクリエーターたちとコラボしながら、常に自分にとっての“新しい世界”を拡げてきた。そんな彼女の原点ともいえる、地元からの旅立ちを歌った「さらば、私の星」は、宇宙船に乗って世界を遊覧する女の子を描いた映像、郷愁を誘う牧歌的な音色が相まって、 深い感慨を覚える本編の幕切れだった。アンコールを受けて再登場し、開口一番「やっとアンコールできる曲数になりました」と呟く八木。最後に初お披露目の新曲「セレナーデ」と始まりのデビュー曲「Ripe Aster」で締めくくった今回のワンマンは、すくすくと健やかに、伸びやかに育っていく若きシンガー・ソングライターの現在地を鮮やかに刻みこむステージとなった。

Text:Takuto Ueda
Photo:Loco Kinoshita / domu


◎公演情報
【polydam】
2023年2月11日(土)・12日(日)
東京・日本橋三井ホール
<セットリスト>
1. 健やかDE居たい
2. ゾートロープ
3. 君への戦
4. 海が乾く頃
5. セプテンバーさん
6. SELF HELP
7. のうのうた
8. A Tender Moon Tempo
9. Harmony of One's Heart
10. お茶でも飲んで
11. ダダリラ
12. 刺激による彼ら
13. Sugar morning
14. 僕らの永夜
15. さらば、私の星
EN
16. セレナーデ
17. Ripe Aster

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