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2023/02/22 20:00

<ライブレポート>Official髭男dism、いつも照らしてくれた“あなた”へ届けた【SHOCKING NUTS TOUR】ファイナル

 Official髭男dismが、2月16日に全国ホールツアー【SHOCKING NUTS TOUR】ファイナル公演を東京・日本武道館にて開催した。

 2022年9月28日の青森・リンクステーションホール青森公演を皮切りに、途中公演延期のアクシデントをはさみつつ、じつに約4か月半のロングツアーとなった今回。ステージを360度囲む観客を、生バンドならではの華やかさとそれを乗りこなす高い演奏スキル、そして溢れんばかりの愛とユーモアで魅了し、ツアーの最後を大団円で締めくくった。

 開演前の会場に、メンバーのセレクトだろうか、ガンズ・アンド・ローゼス、DNCE、Donnie Trumpet & the Social Experiment、はたまたスキマスイッチといった洋邦バラエティ豊かなSEが流れる。彼らの音楽的素養の幅広さがうかがえる選曲に唸っていると、SEの音量が徐々にあがり、会場が暗転。メンバーがステージに揃うと、沈黙を破り「Pretender」の印象的なイントロが流れ出した。最初の一曲からこんなに切ないバラードをぶつけてこられたことに衝撃を受けつつも、歌詞で描かれる“今まさに終わろうとしている”恋、それを沈む寸前の夕日に重ねるような朱赤の照明が情感を揺さぶってくる。曲終盤では砕けた恋心がはらはらと散っていくさまを表現するように、会場に広がるミラーボールの光が美しくきらめき、そのタイミングで藤原聡(Vo. / Pf.)がエモーショナルなフェイクを入れてくるのが粋だ。最後の〈とても綺麗だ〉のフレーズでは約13秒もの超ロングトーンが決まり、会場からは自然と大きな拍手が起こった。

 圧巻のパフォーマンスへの満足感に浸る間もなく、一気に明るくなるステージとともに始まったのは「I LOVE...」。ハンドマイクを手に取った藤原が「お待たせしました、Official髭男dismです!」と叫ぶと、会場のテンションも上がっていく。誰からともなくハンドクラップが起きるなか、今度はまさに〈高まる愛〉を表すような淡いピンクの光と、華やかなホーン隊の音色が会場を多幸感で満たした。そのまま、ホーン隊が明るいファンクのムードをより引き立てた「Tell Me Baby」では、藤原の振りに合わせ、手を上下に振って会場全体が踊りだす。曲間では小笹大輔(Gt.)と楢﨑誠(Ba. / Sax.)のブルージーなユニゾンソロ、松浦匡希(Dr.)とパーカッションのブレイクが決まり、演奏陣のスキルの高さも見せつけた。

 ひと息つくと、日本武道館の特徴である、アリーナを360度ぐるりと取り囲むスタンドいっぱいに集まった観客へ丁寧にお辞儀をする4人。藤原は今回のステージ形状について触れ「みんながたくさん来てくれるから360度ステージにしたってだけじゃなくて、ちゃんと全員にしっかり音楽を届けられるって自信と、届けるっていう信念を持って、この形にしています。誰ひとり置いていくことはないように、今日もしっかりとライブをしていこうと思います」「楽しもう武道館!」と宣言した。

 軽快なモータウン・ビートが楽しい「Second LINE」、スライドギターがエモーショナルなバラード「ビンテージ」、10人編成ならではの分厚いサウンドへアレンジされつつも、音の隙間がはっきりわかる演奏のタイトさがすばらしい「LADY」と続いたあとは、突然の“かくし芸”タイムへ。そこから楢﨑、もとい“楢﨑まさよし”が「One more time, One more chance」を披露。最初は息をのんで見守っていた観客も、次第に手拍子が起こり、最後は大きな拍手が巻き起こった。

 藤原が戻ってくると、今回のツアーがバンド結成10周年を記念したものであることについて触れ「10周年ツアーなので一度原点に立ち返り、出来たてほやほやの曲を、みんなにライブで最初にお届けしようと……」と語ると、未音源化の新曲「風船」へ続く。ヒゲダンの楽曲を受け取るファンのことを心から思って書かれたことがわかる愛にあふれた表現と、風船の不安定さ、それゆえの自由さをファンへ、そして自身へとあてはめていく比喩表現の巧みさには感嘆してしまう。

 ホーンが爽やかな「Choral A」からは、楢﨑がベースをサックスに持ち替える。続く、80年代クラブのような、豪華で思わず踊り出したくなるサウンドでスタートした「夕暮れ沿い」では、間奏で藤原~ホーン隊+楢﨑~松浦と続くソロ回しも。最後、ラストサビではテンポを落とし、さらに転拍子になるアレンジがソウルフルだった。

 ここで改めて実感するのが、今回のステージが360度全方位から観られる構造をとっており、そのためにライブの定番設備である“大型モニター”を省いている、ということだ。映像での演出を省き、その代わりに光で曲の世界を伝える。そのスタイルが、目の前に情景が浮かぶようなヒゲダンの詞世界、そして耳と心にスッと染み込むような藤原のボーカルと見事にマッチしているのだ。この真骨頂を見せつけたのが、先の楽しいムードからしばしの沈黙を挟み、藤原のブレス音からスタートした「Subtitle」。ステージを観る視界いっぱいに広がる白く小さな光は、まさに〈雪〉であり、〈イルミネーション〉のたとえでもあるのだろう。そして曲が進み、歌詞の中で〈君〉への思いが明確化されていくにしたがって、その光も明るさを増す。曲終わり、藤原のまわりに雪のように光がちらちら降る光景には、そのあまりの幻想的な美しさに思わずため息が出た。

 2度目の“かくし芸”タイムでは、小笹が「本当に僕が文化祭でやってた曲、聴いてもらってもいいですか!?」と叫び、パッヘルベルの「カノン」をハードロック風アレンジで熱演。途中で藤原がステージに戻ると、彼もピアノで参加しヒゲダン4人での長尺セッションを披露した。セッション終わりには、「半分くらいでさとっちゃん(藤原)帰ってきてた(笑)。こういうところがね、ほんとギタリストって迷惑な生き物だなって思いますよね……」と小笹が自虐し始め、「そんなことないよ!(笑)」とフォローされる一幕も。

 「すごく昔の曲を、このバンドメンバーでリアレンジしたいと思います!」との宣言からは、バンド初の全国流通作『ラブとピースは君の中』収録曲の「parade」へ続く。ハッピーでカラフルな音を映すようにステージも虹色に光り、会場を一気に幸せなムードで包み込んだ。そこから一転、「Anarchy」ではサイケデリックな光に包まれ、一気に雰囲気がハードに変わっていく。藤原もがなるような声で手拍子を煽り、ブリッジではバンドの音に負けないほどの大きな手拍子の音が響いた。そして不穏なノイズを抜けて「Cry Baby」のアンセム的なイントロフレーズが鳴り響くと、観客も力強く手を突き上げてその迫力に応える。その腕の隙間から見える、手を大きく広げて力強く歌う藤原の姿が、これまでのどの曲で観たよりも大きく見えた。

 そして、しっとりしたピアノのメロディを弾く藤原を淡い水色とピンクの光が包むと、歌い出されたのは「115万キロのフィルム」。歌詞に詰めこまれた深い愛には聴くだけで笑顔になってしまうし、多くの観客が誰に促されるでもなく、自然に体を揺らしていたのが印象的だった。ここから怒涛のメドレーで「異端なスター」「宿命」と続けると、ひと息つき、藤原が「次の曲がこのツアーの締めくくりであり、もしかしたら、みんなと俺たちが声を出せない最後のライブになるかもしれないね」とおもむろに語り始める。「コロナ禍で、生きることって難しいなと思ったんだけど、それをやってのけたみんながここにいる」「ここに集まってくれた一人ひとりの憂鬱の力は計り知れないけど、それを乗り越えて、ここに集まってくれたみんなの強さはよく伝わってくる。そんなみんなと出会えたこと、暗闇を抜けてここまでこれたことを、本当に幸せに思う」、そして「ライブが奪われそうになったとき、みんなが守ってくれたから、俺たちも音楽でみんなのことを救えるような、そんなバンドになりたいと思っています。これからもよろしく! Official髭男dismでした!」と力強く告げ、「ミックスナッツ」がスタート。〈ここに僕らが居て あなたも居る〉と、先のコロナ禍を乗り越えての“今”この瞬間を確かめるようなアドリブに胸が熱くなる。会場をこの日いちばんの熱気で沸かせると、「また生きて、元気でお会いするからね! 俺たちもがんばるぞー!」と約束を交わし、本編を終えた。

 全員がふたたびステージ上に姿を現し、藤原のピアノからセッションがスタートすると、流れるように「Universe」へ。そしてメンバー紹介では、これまでの【SHOCKING NUTS TOUR】を支えてきたサポートバックアップメンバーも登場し、総勢12名がステージに勢揃い。この大編成で「Clap Clap」へと続けた。

 そして「声の出せないライブもすげえ楽しいし幸せだってことは、みんなが教えてくれた。その事実は、僕たちの中でとても大切なことです」「孤独に曲を作っていても、みんなは遠くから僕たちのことを照らしてくれていました」と語ると、「破顔」がスタート。先のMCをすべて回収する歌詞に、〈名も知らぬ仲間たち〉=観客への、ヒゲダンからの深い信頼と愛情が伝わってくる。そしてラストサビ前では、おもむろに藤原が「みんなと一緒に作りたい景色があります」と、観客へスマートフォンのバックライトを点けるように促す。小さくとも確かな光が、会場を白くまばゆく照らしてゆくと、「ライブのない時期でも、離れた場所にいても、俺たちからはみんなの存在はこういうふうに見えています」とそっと告げる。噛みしめるように歌われた〈届いてるちゃんと ちゃんと ちゃんと〉とのフレーズ、「照らしてくれたあなたたちが、もし窮地に飲み込まれそうになったとき、俺たちは音楽でみんなのことを照らして、音楽でみんなの憂鬱をかき消すようなバンドになるために、これからも未来を歩みつづけます。これからもよろしくお願いします!」との決意に、どんなエールの言葉よりも生きる勇気をもらったのは、きっと私だけではないと思う。最後は、ストレートなバンドサウンドに、ヒゲダンらしいひと癖が際立つ最新曲「ホワイトノイズ」で締めくくり、約2時間半のステージを終えた。

 序盤のMCで藤原は「誰ひとり置いていくことはない」と宣言していたが、その言葉を有言実行するように、曲の合間にはいつも客席に何度も向き直ってお辞儀をし、時に「ありがとう」と感謝を口にしていた。そしてMCでも、最後まで彼は観客に「がんばれ」と命令形で呼びかけることは一度もなく、ただ「これからもがんばっていきます」と、あくまで自分、バンド主語での決意を述べていたのがとても心に残った。自分たちの楽曲を受け止め、演奏を聴きにライブへ足を運んでくれることへの感謝と、「がんばれ」なんてわざわざ言わなくてもみんなは毎日がんばっているのだから、という信頼が、その誠実な振る舞いから滲み出ていたからだ。そして、藤原をユーモアたっぷりに支える3人の姿、その関係性も目の当たりにして、ああ、だからヒゲダンの音楽からはこれほどまでに深い“愛”を感じるんだ、と思った。この“愛”が根底にあるから、年齢や性別に関係なくこんなにもたくさんの人がヒゲダンの音楽に支えられ、その愛をまた彼らへと返しているのだろう。そんな幸せな相互関係を目の当たりにして、そのあたたかさに包まれるようなライブだった。

Text by Maiko Murata
Photo by TAKAHIRO TAKINAMI

◎公演情報
【SHOCKING NUTS TOUR】
2023年2月16日(木) 東京・日本武道館

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