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2022/12/19

<ライブレポート>斉藤朱夏が“キミ”と見に行く【くもり空の向こう側】 ライブハウスを巡り、たどり着いた日本青年館ホール

 2022年11月5日、土曜日、19時30分。斉藤朱夏が神奈川・横浜ベイホールにて、自身最長・最多公演となる【朱演2022 LIVE HOUSE TOUR「キミとはだしの青春」】のゴールテープを切ったあの日に想いを巡らせて、「約何年経ったろう」なんてフレーズが頭をふとよぎった。実際にはこれから語るライブ時点では、まだひと月さえも経っていなかったわけだが。

 最高だったライブの余韻とは、体からなかなか抜けきらないもの。残り少ない2022年にさよならを伝えるうえでの一区切りがほしいと、ぼーっとした心で当日を迎えたのが、12月3日に東京・日本青年館ホールにて開催された【朱演2022「くもり空の向こう側」】だった。同ライブはタイトル発表時より、斉藤本人が「くもり空の先に何があるのかを当日に答え合わせしよう」と幾度となく問いかけをしてきたわけだが、その“答え”についてはきっと、ライブに参加した誰もがすでに知るところだろう。そこで本稿はあえて、斉藤が当日に見せたパフォーマンスについて、細かな(あるいは細かすぎる?)点を拾っていく記事にしたい。

 ライブは開幕から驚きの連続だった。セットリストの中盤以降に置かれることの多い「セカイノハテ」を、なんとど頭から披露。しかも、持ち前のにっこり笑顔を初めて見せたのは、この楽曲を歌い終えてから。前述ツアー【キミとはだしの青春】という、いわば“全国修行編”で自ら鍛え上げてきたフロアの仕上がりを肌で感じ、どこか挑戦的に試すような様子だったのが、ここまで笑顔を隠していた理由なのかもしれない。なんにせよ、クラップや数々のハンド・サイン、会場全体の躍動によって2階席が軽く心配になるほど揺れていたあたり、斉藤自身も申し分ないと感じたことだろう。

 ホールにはホールでの遊び方がある。MCではそんな言葉を語ってくれるものだと思っていた。が、実際はライブ後半に「ホールなのにライブハウスみたい」な感覚だと述べられた通り。【キミとはだしの青春】で感じた、斉藤がフロア全員と漏れなく目を合わせ、むしろあちら側からじっと見つめてくるような感覚は、今回のライブでも感じたところだ。「会場の大きさなんて関係ない」と言わんばかりの姿勢に思わずうれしくなってしまう。

 そこからMCを挟み「ぴぴぴ」でステージ上に設置された三つのミラーボールによってフロアをダンスホールに変えると、「しゅしゅしゅ」ではフロア中にタオルの毛羽立ちが舞う。このあたりはライブの流れを意識してか、「ぴぴぴ」が“振り付け曲”、「しゅしゅしゅ」が“タオル曲”であると説明しないあたり、ファンへの信頼度の高さを窺えた。

 細かな点で恐縮だが、個人的に好きだったのが、斉藤が「ぴぴぴ」歌唱前、後ろに置かれたマイク・スタンドを片手で握り、その足を少し気怠げに引きずらせながら自らのほうに引き寄せていたシーン。また、「しゅしゅしゅ」の2番サビを歌い終えたあと、持っていたタオルを床に投げ捨てたシーンも最高だった。ロック・スター的な振る舞いに、鳥肌を感じさせられる。

 今回のベスト・アクトを挙げるならば、アコースティック・アレンジで披露された「よく笑う理由」だろうか。サビの高音をつーっと伝うような繊細なボーカルや、息を吐くのでははなく、むしろ吸いながら歌っているかのように聞こえる声の震わせ方……もっと言えば“泣き”のニュアンスの付け方が、ちょうど1年前のホール公演【朱演2021「つぎはぎのステージ」】で聴いたときに比べて明らかに上達していた。

 歌の巧さとは、言わずもがな見えるものでも、触れられるものでもないもの。それでも今回に限っては、もしかすると触れられるのではと思えてしまうくらい、圧倒的な成長ぶりだったのだ。感情を歌声にのせられるアーティストが確かな技術も身につけると、それはもう無敵の表現に他ならない。

 また、歌唱前のMCでは「“涙を見せちゃだめなんだ”とか、“私は強いです”って思われたくて」と過去の自分を振り返りつつ、「ツアーをするたびに、ライブをするたびに、もっともっと泣き虫になって」「キミがいてくれるから、“はだし”で、たくさんたくさん走れました。ありがとう」と改めて11月までのツアーへの感謝を伝える。このMCを通して「よく笑う理由」にリリース当時にはなかった新たな解釈を添えた意味は大きい。

 思えば、今回のライブはこの日限りということもあり、当時のツアー参加者も全国から再集結していたことだろう。そんなタイミングだからこそ、改めてツアーの振り返りをした意味もあったに違いない。本稿の冒頭に記したように、当時感じた余韻を思い出として宝箱に収める、【キミとはだしの青春】の本当のファイナル公演、あるいはアディショナル・タイムのような感覚や斉藤本人の気概を覚えたのは筆者だけではないはず。始めたものは、散らかしっぱなしにせず片付ける。これが斉藤朱夏なりの優しさなのだと受け取りたい。

 続く楽曲は「ピエロ」。彼女の音楽活動を最初期から支えてきた作家・ハヤシケイ(LIVE LAB.)が約12年前に発表した楽曲のカバーである。斉藤は【キミとはだしの青春】千秋楽においても、ツアーは“自分と向き合う時間だった”と印象深く語っていたが、そんなツアー期間で何度も聴いていたのがこの楽曲とのこと。<大丈夫 大丈夫 上手く笑えなくていいんだよ>と曲中には「よく笑う理由」と地続きなメッセージも。似ているけれども違う素材を持ってくる。まるで“パッチワーク”のようなセットリストだ。

 だが、しんみりとした空気を打ち破るように、ライブ中盤以降は一気に“遊ぶ”ことを宣言する斉藤。フロアの誰しもが思ったことだろう。“ちょっと待って、朱夏”と。そんな制止も問答無用で「イッパイアッテナ」をドロップ。曲全体に敷き詰められた歌詞を飄々と歌いこなすボーカルだからこそ、<難しいこと考えてたら お腹空いたな ケーキでも食べようか>なんて楽観的なフレーズもよく活きてくる。あまりに軽やかすぎて、落ちサビ前には左足を腰の高さ以上に上げる大ジャンプも。ちなみに、この楽曲だけでないが、ステージ上手から下手へのサイド・チェンジを、たった7歩、3秒足らずでしてしまう身軽さもすごい(実際に数えた)。本当にホール・クラスのステージの広さには思えないのだが。

 と、ここから自身の肘に何度もエルボーをするように、全身を使って“キメ”のリズムを何度も味わう“イケメン朱夏”を拝めたのが「Your Way My Way」。さらに「月で星で太陽だ!」から「ゼンシンゼンレイ」へと、「イッパイアッテナ」から4曲続けての“アゲ曲”の畳み掛けがすごい。もはや追い込みである。

 ここでは、斉藤やフロアのほか、ひぐちけい(Gt)、伊藤千明(Ba)が西野恵未(Key)のもとに集まり、少し離れた場所の今村舞(Dr)と共に、各々が至るところで“ゼンシンゼンレイ”ぶりを発揮していたのも大きな見どころだった。そして特筆したいのが、楽曲の持つ灼熱感やエナジーが、斉藤の持つ拡声器に集約されていたこと。あまりに夏フェスすぎるアイテムである。今後のライブでもぜひ懐に忍ばせておいてほしい。

 ライブ終盤には、ライブ・タイトルの答え合わせも。だが、斉藤の言葉は“くもり空の向こう側”に何があるかよりも、その答えを“誰が教えてくれるのか”を大切にしていた気がする。もちろん、その“誰か”とは、目の前にいるファンに他ならない。そんな彼らに向けて、努力や汗を滲ませながら、これからも進み続ける決意を歌った「ワンピース」や「もう無理、でも走る」を歌唱。毎公演とも斉藤のがむしゃらさをぶつけられる「もう無理、でも走る」では、とうとうステージの床を手のひらで叩く光景さえ目撃された。

 アンコールでは、来年2月に新シングルを発売し、表題曲「僕らはジーニアス」が1月より放送開始のTVアニメ『齢5000年の草食ドラゴン、いわれなき邪竜認定』オープニング・テーマに起用されることを発表。リリースに先駆けて同楽曲を初披露したのだが、“やりたいようにやる”というメッセージを歌ったポップロック・チューンがいかにも斉藤らしい。曲中にはラップのような歌い回しやクラップ・パートなど、彼女がこれまで提示してきた音楽の楽しい部分が存分に詰まっていたほか、開始1秒でドラが鳴らされるのが最高すぎる。本人いわく、初披露でとても緊張したとのことだが、この時点で会場の空気を大いに掌握していた。掴みはバッチリ。あとはもうリリースを待つのみである。

 ライブの終着地は、2022年における活動の幕開けを飾った「はじまりのサイン」。筆者は今年4月のライブ【朱演2022 LIVE HOUSE TOUR「はじまりのサイン」】に参加した際、「斉藤朱夏から次のツアーへの招待状……いや、忘れられないひと夏の“青春”へとつながる、“はじまりのサイン”を受け取った」と【キミとはだしの青春】への期待感とともにレポートを締めくくった。そんな楽曲がその年の最後にも披露されたわけである。当時の予感が間違いでなかったと証明されたような気持ちになれた。

 別れ際、「また一緒に生きようぜー!」と高らかに宣言していた斉藤。“遊ぶ”を超えて“生きる”に。斉藤朱夏と生きた同じ一瞬の余韻に、いまもまだ浸り続けたまま。だけど今度こそ、“はだし”のまま落ち着かなかった心に靴下を履かせて、“くつひも”だって結べた気がする。待つのは、次の春に訪れる新しい“はじまりのサイン”だけだ。

Text by 一条皓太
Photo by Viola Kam[V'z Twinkle]


◎公演情報
【朱演2022「くもり空の向こう側」】
2022年12月3日(土)
東京・日本青年館ホール

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