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2022/11/02 18:00

<ライブレポート>chilldspot、ディープもポップも表現しきった初の全国ツアーファイナル

 9月14日にリリースした新作EP『Titles』を引っ提げて、9月23日の名古屋クラブクアトロを皮切りに福岡、札幌、仙台、大阪と回ってきたchilldspot初の全国ワンマンツアー【Road Movie】。そのファイナルが10月26日に東京・Zepp DiverCityで開催された。結成からおよそ3年、その間の加速度的な成長にこのツアーで得た手応えも加わったバンドの「今」を全力で体現するすばらしいパフォーマンス。その果てにこれから広がる未来も見えるような、いいライブだった。

 ライブの幕を開けたのは「music」。小﨑(Ba.)とジャスティン(Dr.)が生み出す心地よいグルーヴに玲山のギターのカッティングと比喩根の歌が絡み、フロアからは自然と手拍子が巻き起こる。そのまま「line」でオーディエンスを揺らすと、続いては一転、ゆったりとしたテンポの「yours」で空気を色づけていく。どこか気だるそうで、でも時折弾むような瑞々しさも感じさせる比喩根のボーカルは、やはり唯一無二だ。ツアーファイナルという解放感がそうさせるのか、メンバーみんなリラックスした表情を浮かべ、気持ちよさそうに音と戯れている。

 「今日は最後まで一緒に楽しい時間を作っていきましょう!」。比喩根が笑顔とともにそうオーディエンスに告げて「hold me」を繰り出すと、『Titles』に収録された「shower」を披露。ジャスティンの振るマラカスに柔らかなギターが重なり、伸びやかなメロディが広がっていくと、そのグルーヴを引き継ぐようにして「flight」へ。楽器ひとつひとつの音も、歌詞をなぞる声も、決して派手に自己アピールをするようなことはない。むしろ普段着のように自然で、友達と話すような親密さを感じさせる。にもかかわらずいつの間にか想像もしなかったような景色へと僕たちを連れ出してしまうのがchilldspotのおもしろいところ。続く「Sailing day」でもサビのハイトーンが気持ち良くオーディエンスをイメージの旅へと誘う。フロアから巻き起こった手拍子が、彼らの音楽の力を物語るようだ。

 「これだけたくさんの人が集まってくれて本当に嬉しいです!」と素直な喜びを口にする比喩根。「この4人が主人公となっていろいろなところをまわって成長していければいいな」と「Road Movie」というツアータイトルに込めたものを語ると、彼女はその「成長」のための挑戦としてギターを持たずにハンドマイクで歌い始めた。「夜の探検」、そして「weekender」。メンバーとアイコンタクトを取って呼吸を合わせながら、比喩根はこれまで以上に表情豊かな歌声を響かせる。さらに「夜更かし」へ。個人的にもとても好きな曲だが、この曲に宿る背徳感とその裏返しとしてのワクワクのようなものが、ステージ上でますます鮮やかに表現されていく。

 「dinner」、「Monster」とファーストアルバムの最後と最初を飾る曲を立て続けに披露、「Monster」につなげて玲山によるドラマティックなギターサウンドが鳴り響くと、その奥から聞こえてきたのはグルーヴィなディスコビート。キラキラとミラーボールが輝くなか演奏されるのは「未定」だ。小崎の弾くブリブリのベースラインもメンバーのコーラスもどこか懐かしく、そしてロマンティックだ。そして「この曲でぶち上がげていきましょう!」と「Groovynight」。ジャズの匂いも感じさせるアダルトなサウンドが、オーディエンスから巻き起こる手拍子と合わせて濃密な空気を生み出していく。

 メンバー紹介も兼ねて「どこが成長した?」と3人に問いかける比喩根。ジャスティンが「スタッフチームとの結束が高まった」と長いツアーならではの実感を口にし、比喩根自身も「演奏面でも成長したと思うんです。初めてのワンマンライブなんかお客さんが緊張しちゃうくらいだったけど、そこから1年で自分のパフォーマンスを出せるようになった」と語る。確かにこの日のライブ、chilldspotはどこまでも落ち着き、リラックスしているように見える。演奏にも豊かな表情が宿っている。それもツアーを通して成長してきた賜物なのだろう。

 「さっきまではかっこいいchilldspotでしたけど、ここからは少し落ち着いてしっとりした曲をやろうと思います」という比喩根の言葉をきっかけに「ネオンを消して」で再開したライブ。chilldspotの名前を一躍知らしめた1曲が、文字通り空気を塗り替えるように染み渡っていく。一言一言を丁寧に置いていくような比喩根のボーカルを抑制されたバンドの演奏が支える。玲山のギターはそこに振りかけられたスパイスのように楽曲を引き締めている。その張り詰めたようなテンションを「Ivy」がゆっくりとときほぐすと、続く「Kiss me before I rise」が一気に感情を溢れさせる。曲を折り重ねながら、まるで映画のような物語を描き出してライブは進む。

 そんなパートを経て、いよいよライブはラストスパート。「全部フリーになって手を叩いたりはしゃいだりできるのがライブの醍醐味。ラスト3曲、とびきり楽しくて幸せで、盛り上がれる曲を持ってきたのでみなさん一緒に盛り上がってくれますか?」という比喩根の声にフロアからも大きな拍手が起こる。ジャスティンの叩くシンバルがその拍手をさらに増幅させるように鳴り響き「your trip」へ突入すると、さっきまで聴き入っていたオーディエンスも一気にボルテージを上げる。

 そしてここで投下されたのが『Titles』の中でもひときわポップな「BYE BYE」だ。今にも踊り出しそうなリズムにのせて、比喩根の声もここにきてますます伸びやかに聞こえてくる。ラストは「Like?」。大ぶりのリズムとある意味この曲のサビといってもいいスケールの大きなギターサウンドがこの日の最高潮を描き出す。比喩根も飛び跳ねながら最後の最後までオーディエンスを盛り上げ続けた。

 本編が終わってもアンコールを求める手拍子は鳴り止まない。それに応えて再びステージに戻ってきた比喩根。持ち曲をほぼすべてやりきり、バンドでできる曲はない。だが「せっかくお気持ちをいただいたので……」と弾き語りで「私」を披露する。chilldspotの作品の中でもとりわけパーソナルな印象のこの曲が大勢のオーディエンスの前に歌われる様子は、とても特別なものだった。

 出せるものすべてを出し切り、バンドの成長も刻み付けた初の全国ツアーファイナル。バンドとしてのディープな部分もポップな部分も表現しきった全21曲。そのどちらの側面も、現時点での完成度とともに大きなポテンシャルを感じさせるものだった。口はばったいが、まさにこれからが楽しみなバンド。おそらくとんでもないスピードで進化していくと思うので、振り落とされないようについていきたいと思った。


Text:小川智宏
Photo:(C)Kana Tarumi


◎公演情報
【Road Movie】
2022年10月26日(水)
東京・Zepp DiverCity

◎リリース情報
シングル「get high」
2022/12/16 DIGITAL RELEASE
https://lnk.to/get_high

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