2022/09/06 20:00
歌い手・ボカロシーンをルーツに持ちながら、シンガーソングライターとして頭角を現し、今や日本を代表するアーティストとなったEve。特に2020年以降は大型タイアップも続き、サブカルチャー・メインカルチャーの垣根を超え圧倒的な人気を誇る。
【Eve Live Tour 2022 廻人】と題し、全国8か所9公演のツアーを回ってきた今年。今回は追加公演として行われた自身初の武道館公演、その2日目の模様をレポートする。
セットリストは歴代のアルバムから選りすぐった曲で組まれており、まさに「Eveベスト盤」と言える構成。定刻を迎えると、オープニングムービーが始まった。廃墟のような世界で、誰かがとある屋敷のドアを開く。その先にはたくさんの階段があり、やがて「廻人」の文字が現れる。ステージに張られた紗幕越しにEveが見えた途端、観客は立ち上がって歓迎した。
会場の外では雨が降りしきるなか、包み込むような歌声の「藍才」で、おだやかに開幕を告げる。ベースソロが聴き慣れたフレーズに変化すれば、「夜は仄か」の合図だ。ダウナーなビートに体をゆらす観客に対して、Eveの歌唱は徐々に熱を帯び、力強いものになっていく。曲の展開に合わせて「廻人照明器Ⅱ」が様々な色を放ち、会場がEveの歌声に操られているかのように錯覚した。
ムービーが2020年発売のアルバム『Smile』のジャケットにフォーカスすると、放たれたのは「LEO」。“晴れ舞台”なんて言葉が粗末に感じるくらい、堂々たる歌唱はすでに武道館を支配している。余韻もつかの間、一転して軽快なグルーヴに思わず手を叩けば「レーゾンデートル」へ。そのままアップチューン「いのちの食べ方」で『Smile』パートを締めくくった。
続いて、2019年リリースのアルバム『おとぎ』の楽曲たちが始まる。思わせぶりなギターフレーズが聞こえただけで、察しの良い観客はほぼ反射的にクラップを始め、「トーキョーゲットー」が披露される。続く「アウトサイダー」の印象的なイントロに合わせて一気に紗幕が降ろされ、「武道館!」と叫ぶEveとバンドメンバーが姿を現した。劇的な演出に一気に感情も高ぶるが、すでに曲は始まっており、息つく瞬間も与えてくれない。ハイペースなロックサウンドに半ば強制的にのせられ、先ほどの衝撃をまだ呑み込めないまま「ラストダンス」になだれこむ。Eveはステージを端から端まで歩き、ときに手を伸ばしたり、ときに全身で舞ったりと、先ほどまでとは別人のように躍動感のあるパフォーマンスで魅了した。
ここで初めて一息つき、「こんばんは、Eveです。武道館2日目、夏休みの思い出をつくりに来ました」と挨拶する。「2年前はアリーナ公演が中止になって、その年の夏休みは、今日みたいにこんなにたくさんの人が集まってライブをするなんてありえなかった。花火とかお祭りとかプールとか旅行とか、何もできなくなってしまって。夏は毎年当たり前にやってくるけど、そういうものは当たり前じゃなかったと気づかされた年でもありました」と胸中を述べた。
そして、グランドピアノとオーケストラの音にのせ、2020年の夏に制作した「杪夏」を披露。当時の心象をつづった曲は、あのときは祈りの歌だったかもしれないが、今こうして直接会って聴けたことで、再会を祝す歌になったようにも思える。やがてピアノが軽やかな三拍子を奏で始め、展開されたのは映画『ジョゼと虎と魚たち』主題歌の「蒼のワルツ」。浄化するようなのびやかな高音が武道館のすみずみまで染みわたった。
続いて、ともに2017年にリリースされた人気曲コンビ「ナンセンス文学」「ドラマツルギー」。この5年間、常に代表曲を更新し続けてきたEveの底知れなさに思いをはせながらも、観客はひとつめ様よろしくクラップで楽曲に参加する。そうしてアルバム『文化』のパートを締めくくると、逆再生のような映像演出の後、再び冒頭と同じムービーが流れ始めた。
が、今度は映像にブロックノイズがかかっており、一回目とは何やら様子が違う。何が起こるんだろう? ——ワクワクとドキドキが最高潮に達した所で、荒々しく「廻廻奇譚」のイントロが始まった。言うまでもなくスマッシュヒット&ロングヒットを記録している大人気曲で、会場の熱気は最高潮に。その歌唱はこれが今日の1曲目かと思うほどパワフルで、この空間にいる誰でもないEve自身が、音楽から力をもらっているように見える。続いて「明日からまた退屈な日々を再演しないために、この曲で締めたいと思います」との曲振りで「退屈を再演しないで」を歌い上げ、本編を締めくくった。
鳴りやまない喝采に呼ばれ再びステージに戻ってきたEveは、拡声器を使って「デーモンダンストーキョー」を披露。さらに「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」の1周年アニバーサリーソングとして書き下ろした爽快なロックチューン「群青讃歌」を高らかに歌い上げる。
「武道館でライブをやることはめったにないので」と写真撮影をした後は、「まさか自分が武道館に立つなんて思っていなかった。みなさんに連れてきてもらえたと感じています。みんな一人ひとりが僕にとってなくてはならない存在です。本当にありがとう」と、作品をともにしたクリエイターやスタッフ陣、観客へ感謝を述べた。
いつかEveの活動を振り返ったときに、最も重要な一日として語り継がれるであろう初めての武道館。そんな2Daysのエンディングを彩るのは、お祭り気分なナンバー「お気に召すまま」。<この先ずっとよろしくね よろしくね!>と声を張り上げたり、右手で頭上をまっすぐ指してみせ、これからさらに上を目指していく気持ちを体現していた。
「また会いましょう!」と告げ、踵を返すと、ステージから退場……はせずに、「もう1曲やっていい?」。それは現実ではちょっとあり得ない、夏休みの延長戦。「僕のひと夏の思い出に、立ち止まってくれて本当にありがとうございました」と話し、アコースティックギターを持って「君に世界」を披露。時間を惜しむように大切に歌い上げると、満足した様子で観客に、あるいはひと夏の思い出に「またね」と告げた。
Text by ヒガキユウカ
Photo by Takeshi Yao
◎公演情報
【Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演】Day2
2022年8月30日(火)
<セットリスト>
00. 廻人 -inst-
01. 藍才
02. 夜は仄か
03. YOKU
04. doublet -inst-
05. LEO
06. レーゾンデートル
07. いのちの食べ方
08. slumber -inst-
09. トーキョーゲットー
10. アウトサイダー
11. ラストダンス
12. 杪夏
13. 蒼のワルツ
14. 心海
15. fanfare
16. ナンセンス文学
17. ドラマツルギー
18. 廻人 -inst-
19. 廻廻奇譚
20. 退屈を再演しないで
- Encore –
01. デーモンダンストーキョー
02. 群青讃歌
03. お気に召すまま
04. 君に世界
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