2022/06/20
「ゲスの極み乙女。、解体します」――「bye-bye 999」のエンディングに川谷絵音(Vo/Gt)が発した言葉に続くアリーナを埋め尽くした“間”、コロナ禍の中で声を発せない不思議なこの空白をしばらく忘れることはないだろう。さすがゲスの極み乙女。(新名称はゲスの極み乙女)、やることが違う。
【結成10周年記念公演「解体」】を6月18日に幕張メッセ幕張イベントホールで開催したゲスの極み乙女。。会場に入るとステージ左右に時間をカウントアップするデジタル時計と大きくフロアに迫り出した花道が目に飛び込んでくる。周年ライブらしく、スクリーンには過去のMV映像などが流れる中、暗転したステージには既にメンバーがスタンバイしており、「ぶらっくパレード」からスタート。ハンドマイクの川谷は花道まで進み、表現力豊かにトーキングボーカルを聴かせる。休日課長(Ba)のベースもメロディの側面を支え、ちゃんMARI(Key)、ほな・いこか(Dr)との抜き差しの多い、しかし隙間の多いアンサンブルに改めて彼らの卓越したプレイヤビリティを実感した。「キラーボール」「パラレルスペック」など、初期からのキラーチューンをノンストップで演奏し、序盤からそれぞれ凄まじいソロプレイを配置するなど、怒涛の勢いだ。そこにモノローグから伸びやかなサビの歌メロまでスムーズに行き来する川谷のボーカルがアリーナをドライヴさせていく。
花道を使った演出では「ノーマルアタマ」で20人近い黒装束の男女のダンサーが登場し、コミュニケーションを抽象化したダンスで盛り上げた。「猟奇的なキスを私にして」ではスクリーンに歌詞も投影される。バンドの高いテンションに耳目を奪われがちだが、よく見るとステージ背後を構成しているカラフルなブロック状のものが少しずつ片付けられて、バンド名の装飾が現れ始める。何が起こっているのか? 注視しながら、マスロックの構築美も真っ青な緻密な演奏を聴かせる「ラスカ」、ステージ上をカメラクルーが駆け回る「crying march」ではその映像がスクリーンに映し出され、メンバーの表情がよくわかる。川谷の確かな16ビートのカッティングと課長のよく動くベースラインがより楽曲を立体的に響かせる「私以外私じゃないの」や「ロマンスがありあまる」の頃にはブロックはほぼ撤収されていた。ステージに近い人はセットが解体される音も聞こえたようだ。
「シアワセ林檎」では曲の半ばでindigo la Endから佐藤栄太郎がドラムの助っ人としていこかとスイッチ、いこかと川谷が歌を交互に歌いながら花道を前進し、アグレッシヴにファンを煽る。エンディングで二人がダッシュでステージに戻ったのには笑ってしまった。ノンストップなダンスタイムの中、少し切ないトーンの名曲「はしゃぎすぎた街の中で僕は一人遠回りした」がオーディエンス一人ひとりに染み込んでいく様が手に取れるようだ。川谷のファルセットも美しい。エグいほど痺れるリズムチェンジが効果的な「秘めない私」などを経て、ゲス、魂の1曲と言えるモノローグが印象的な「bye-bye 999」でスクリーンに投影された映像に透けて、タイムカウンターが0(ゼロ)に近づいていることを知る。演奏が終了しカウンターが0になると川谷が「ゲスの極み乙女。は解体しまーす」という宣言が放たれたのだ。静まるフロアにいこかが「違う違う」と、誤解を解くように言葉を挟む。何事かと見ていたら、ステージ上のバンドロゴのセットの<ゲスの極み乙女。>の“。”がUFOキャッチャーのクレーンのようなもので外されていく。バンド名を改名し“。”を取り今後は<ゲスの極み乙女>とすることを発表。川谷曰く「“。”が取れることで終わることはない」という説明だった。
以降は新たな表記の4人のスタートで、ぱいぱいでか美改め“でか美ちゃん”が「餅ガール」で花道に登場。フロアに“餅鉄砲”で餅を放ち、「ドレスを脱げ」では佐藤がギターを弾くために再登場する場面も。余りある興奮を残してメンバーはステージを後にした。だが、やまないアンコールに応えて、早くも新曲を披露。正真正銘のラストは川谷がメンバーにもファンにも向けた曲として「もう切ないとは言わせない」で、超絶に濃縮された全25曲、約110分を駆け抜けたのだった。ベストアルバムで楽曲を再構築し、『丸』とタイトルを冠したことはこの伏線だったのかもしれない。
Text:石角友香
Photo:鳥居洋介/横山マサト
◎公演情報
【ゲスの極み乙女。結成10周年記念公演「解体」】
2022年6月18日(土)
千葉・幕張メッセ幕張イベントホール
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