2022/05/31
90年代後半『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』なるバラエティ番組から派生した音楽ユニット・ブラックビスケッツの「Timing」。あの名曲が約25年の時を経て若手アーティストたちにカバーされ、インフルエンサーがそれを活用した動画がTikTokでバズったりと、2022年にまさかのリバイバルヒットを果たしている。この「Timing」ムーヴメントの先駆け的存在・MeikのMVも再生回数をぐんぐん伸ばしている今、彼女に「Timing」のカバーを提案した重要人物・ダイノジ大谷にインタビューを敢行した。
もしかしたらフェス/ライブシーンに最も影響を与えたお笑い芸人かもしれない、DJとしても大活躍してきた男が語る「Timing」の魅力。そして、今、宇多田ヒカルのコーチュラ出演もあって、世界的に注目されつつあるJ-POPの面白さについて。ぜひご覧頂きたい。
◎ダイノジ大谷 インタビュー
<M-1での失敗~DJとしての成功「ELLEGARDENの次の集客の多さです」>
--大谷さんがお笑い芸人でありながら、ここまで音楽シーンと精通することになったきっかけは何だったんですか?
ダイノジ大谷:ここ数年は「漫才が副業」と言われています(笑)。その経緯を話すと、僕らダイノジは『M-1グランプリ2002』の決勝へ行っていて、その当時はネタ番組とかテレビに出まくっていたから「次は俺たちの時代だ!」と天狗になっていたんですけど(笑)、M-1でスベっちゃったんです。審査員の松本人志さんや島田紳助さん、立川談志師匠の姿が目に入っちゃって、それまで1回もネタを止めたことなんてなかったのに、初めてネタが飛んじゃったんですよ。それがきっかけで相方の大地との仲も悪くなっちゃうし、当時はふたりとも生意気だったこともあってテレビから干されちゃって。そんな状況のときにケツメイシさんが「「涙」という楽曲のMVに出てほしい」と声を掛けてくれたり、『ROCK IN JAPAN』の兵庫慎司さんという方が「僕らのDJイベントのゲストに来ませんか」と誘ってくれたりしたんです。
--お笑いの仕事が上手くいかなくなっているときに、音楽の世界からの依頼が飛び込んでくるようになったんですね。
ダイノジ大谷:ただ、そのDJイベントでもスベっちゃったんですよ(笑)。自分の好きな曲をかければみんな踊るだろうと思っていたんですけど、全然踊ってくれなくて。そりゃそうなんですよね。当時の僕には技術も知識もないし。でも、それが悔しくて「ウケるまでは辞めたくないな」と思ったから、都内のロックDJイベントとか10ヶ所ぐらい行って「こういう繋ぎ方をすれば、こういう展開をすればウケるのか」とメモを取りながら勉強して、DJさんへのリスペクトも深めていったんですけど、同時に「芸人なのに、この人たちと同じことをやっても面白くないな」と気付いて。それで大地を呼んで「エアギターやってみたら?」とアドバイスしたりしながら一緒にやってみたら、めちゃくちゃ盛り上がって。大地は元々落語家さんがやるような、蕎麦食ったり、石焼きいも食ったりするマイムがすげぇ上手くて、だからエアギターもすげぇ上手いことやってくれて、それからふたりセットでやるようになったんです。
--それで各地の音楽イベントを沸かすようになっていったと。
ダイノジ大谷:そのうちフェス文化が日本の音楽シーンにも浸透していって、フェスでアンセムが生まれるような時代になっていって、それに合わせて僕らもフェスに呼んでもらえるようになって。そうやっていろんな現場に出て行くと、自分の中で凝り固まっていた音楽の価値観のレンジもどんどん広くなっていくんですよ。あと、尊敬しているミッツィー申し訳というDJの方に「大谷くん、地球上に悪い曲は1曲もないから。良い曲と思われるか、悪い曲と思われるかは、DJがどう聴かせるか次第だから」と言われて、それから「良い曲に聴かせる為にはどうしたらいいか」と考えるようにもなって、音楽を全範囲で好きになっていったんです。それで、例えば、フラワーカンパニーズの「深夜高速」とかマキシマム ザ ホルモンの「ぶっ生き返す」とか聴いて、そこに込められたメッセージみたいなものに「これ、俺らのこと歌ってるんじゃね?」って勝手に熱くなりながらDJを続けていたら、たくさんオーディエンスが集まってくれるようになって。
--フェスに欠かせない存在になっていきましたよね。
ダイノジ大谷:フェスの運営側に「俺らんところ、何人ぐらい入りました?」って聞いたら「1万数千人です。ELLEGARDENの次の集客の多さです」「いや、ダメでしょ! 俺らが2番目は!」みたいな(笑)。それぐらい、すげぇ人が集まってくれるようになって。それが僕らにとってご褒美みたいになっていって、フェスに出る度に「よし、また毎日頑張っていくぞ」みたいな感じになっていったんですよね。
<ブラビ「Timing」リバイバルヒット! Meikにカバーを提案した理由>
--そうしたDJとしての成功体験がお笑いにも活かされていくような化学反応もあったんですか?
ダイノジ大谷:NGK(なんばグランド花月)などの劇場でめちゃくちゃウケるようになりました。これは空間支配の話なんですよね。僕らはテレビタレントとしてはカメラの前で緊張しちゃうし、あんまり上手く機能できないと思うんですけど、現場を掌握する力に関しては、ダイノジは日本トップクラスだと思います。それは音楽の現場でいろいろ学ばせてもらった影響がデカいですね。例えば、僕はライブを観るときに「この子にとってMCは必要かどうか」みたいなところを注視するんですけど、上手い人は自然と七五調になっていたりするんですよ。サンボマスターなんてMCも完全に音楽なんで。僕にとってはラップってああいうことなんですよ。韻を踏むとかスキル的なことじゃなくて状況を支配する力。それがサンボマスターは凄くて、MCで心に響かせて、曲に入っていく流れとかめちゃくちゃ上手いんですよ。言葉のビートって言うんですかね。で、最後はみんなで泣く。あんな名人芸、なかなかないと思うんです。そういう意味では、僕の中では音楽もお笑いも一緒なんですよ。
--そんなあらゆる音楽の知識や手法を学んできた大谷さんが、2018年にMeikにブラックビスケッツ「Timing」のカバーを薦めた理由って何だったんでしょう? 2022年現在、あの曲は他のアーティストにもカバーされ、TikTokを中心に大きなリバイバルヒットを果たしています。
ダイノジ大谷:DJになると昔の曲もちゃんと聴くじゃないですか。で、DJで90年代特集みたいなことをやったときに「なんてプロダクションにお金のかかってる曲なんだ!」と思ったんですよ(笑)。メロディーも良いし、演奏も巧いし、ビートもすげぇ格好良いし、ブラウン管の向こう側で非日常的な何かが行われているような、キラキラしたアレンジも施されていて、完璧な曲だなと思ったんですよね。自然と口ずさめるし、90年代のJ-POPの中でも僕の中ではベスト3に入る曲なんです。MVを観てもキラキラしてるし、無駄に海外で踊ってるし(笑)、テレビの企画で作られた曲で、あれだけお金をかけて、150万枚近く売れて……日本のひとつの元気の到達点みたいな曲なんですよ。00年代に入っていくと陰鬱というか、内省的で、歌詞重視になるし、人生訓みたいな曲もすごく多くなっていくんですけど、90年代のJ-POPは音楽と芸能のすべてが混ざっている。そのトップクラスの曲が「Timing」だと思っていて。
--そもそも「Timing」を高く再評価されていたんですね。
ダイノジ大谷:キングコングの西野と話したときに「90年代の音楽がいちばん好きだ」と言っていて、「その中でもいちばん良い曲は何だと思う?」って聞いたら「「Timing」ですね」と答えたんですよね。それで「Timing」トークで盛り上がっちゃったんですけど、自分以外にも「Timing」の凄さに気付いている奴がいるんだと知って。で、ここから本題に入るんですけど、Meikちゃんは子供の頃からダンサーとして生きてきたこともあって、リズムが体の中に完全に入っちゃってるんですよ。シンガーとしてもピッチとか完璧だし。そうなると、世界的にトレンドとなっているリズムのダンスミュージックをやるのか、オーセンティックなディスコみたいな音楽をやるか、どっちかがメインになると当時から思っていたんですけど、であれば、そのサイドとして90年代のキラキラしたJ-POPを彼女がカバーしたら面白いんじゃないかなと思って。そういうDJっぽい視点から「Timing」のカバーを薦めたんです。
--選曲はもちろん、タイミングも見事でしたよね。まだ誰もカバーしていませんでしたし、そもそも「Timing」みたいな曲を作る人もいませんでしたし。
ダイノジ大谷:90年代の日本だったからこそ生まれた曲ですからね。あの曲は中西圭三さんが手掛けられていて、もちろんそれ以外にもZOOやEXILEの代表曲「Choo Choo TRAIN」など名曲はたくさんあるんですけど、圧倒的に「Timing」が良い曲なんですよ。中西圭三さんの最高傑作と言い切れます。
<宇多田ヒカルが世界的舞台でJ-POPを歌った日~ダイノジの夢>
--Meikバージョンの「Timing」を聴かれたときは、どんな印象や感想を持たれましたか?
ダイノジ大谷:笑いましたよ! ベース、ブリブリ過ぎて(笑)。最初はそれがすげぇと思って「え、Meikバージョンになると音楽的にこんなに格好良くなるんだ?」って。あと、Meikちゃんが持っているフィジカルとの相性がめちゃくちゃ良い。そこに関しては「そう、これこれ! こういう解釈! バッチシ! DJでめっちゃかけられる」と思いましたね。彼女が「Timing」を通して表現できる最高のカバー。なんて思っていたら「ミュージックビデオに一緒に出てください。ミュージックビデオ芸人じゃないですか」ってムチャぶりされて、でも「そう言われると悪い気しませんね」なんて言いながら出させてもらったんですけど、どんどん再生回数が伸びていって。気付いたら他のアーティストやインフルエンサーの方も「Timing」を盛り上げていく流れになったので、面白いもんだなって。
--今、J-POPのど真ん中が再評価されているのは面白いですよね。
ダイノジ大谷:コーチュラ(コーチェラ・フェスティバル/世界最大規模の音楽フェスティバル)の宇多田ヒカルさんも凄かったですもんね。88risingのステージだったから「どういうモードでライブするんだろう。エヴァンゲリオンの主題歌を歌うのかな? KOHHをフィーチャリングした曲やんのかな?」みたいな感じでいろいろ想像していたんですけど、1曲目が「光」の英語バージョンで「なるほど」と思っていたら、2曲目にまさかの「First Love」を日本語で歌い出して! で、客席が映ったら外国人が一緒に歌っているんですよ。 「あ、知ってるんや!?」と驚いていたら、今度は「Back to 1998──」英語で「1998年に戻りましょう」と語り出して、チクチクチク……ってデビュー曲「Automatic」のイントロが流れてきて。俺、あの瞬間に泣きましたよ! コーチュラのメインステージに立った初めての日本人がJ-POPを歌ってるんですよ? それで客席が映ったらまた一緒に歌っている外国人がいるんですよ。大谷翔平、佐々木朗希、宇多田ヒカル、この人たちの活躍が観れる時代に生まれてよかったなって。かつて「無理だ」と言われていたことを宇多田ヒカルが実現した……生きていてよかったと思えた瞬間でしたね。
--そんな世界的にJ-POPが注目されている今、「Timing」リバイバルヒットの先駆け的存在となったMeikに再びカバーを提案するとしたら、どんな曲を歌ってほしいと思いますか?
ダイノジ大谷:面白い質問ですね。今だったら……中島みゆきの「ファイト」ですかね。あれを自分の歌にしてみせたら、シンガーとして凄い存在になれると思うんですよ。でも、Meikちゃんなら出来ると思います。どうなるのか想像がつかないところも面白いし、僕は「ファイト」はリズム重視の曲だと思っているんです。ほとんどの人がメッセージばかりに注目するけど、中島みゆきはリズムなんですよ。俳句みたいな感じで作っていますから。でも、あれだけいろんな人にカバーされてきているのに、リズムを意識したアプローチで「ファイト」をカバーしている人っていないんですよね。で、先程も言いましたけど、Meikちゃんはリズムが体の中に完全に入っちゃってるアーティストだから、きっとその面白さに気付けるし、自分なりの「ファイト」を完成させてくれると思うんですよね。
--では、最後に、大谷さんが音楽やお笑いを通して実現したい夢、ヴィジョンなどありましたら聞かせてください。
ダイノジ大谷:僕は大分県出身なので、大分県で大分県の皆さんの為になるロックフェスを実現したいんです。そこにはお笑い芸人も出てて、ロックバンドも出てて、いろんなアーティストが集まって、そこにアイドルが出てきても面白いかもしれないし、そういう自分らしいフェスを実現することが夢ですね。あとは、死ぬまでダイノジを続けること。ダイノジとしての目標は今やテレビのレギュラー番組とかそういうことじゃなくて、解散しないで、どっちかが死ぬまでダイノジを続けていくこと。で、どっちかが葬式で挨拶したら大成功。それまで長くやっていきたいから、最近はお互いに野菜とかすごい食べてます(笑)。「ちゃんとヤクルト飲んだ?」って確認し合ってますもん(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
◎【Music Video】Meik「Timing」with DJ ダイノジ FULL ver. / ブラックビスケッツ cover
https://www.youtube.com/watch?v=297IORWJWAk
◎イベント情報
Meikワンマンライブ【Meik ~Summer Live 2022~ Make Action!!】
2022年8月6日(土)Spotify O-nest(東京都渋谷区円山町2-3 O-WESTビル6F)
OPEN 18:00 / START 18:30
チケット:前売3,000円 / 当日3,500円 ※1D代別途
一般販売チケットに関して
ローソンチケット
https://l-tike.com/order/?gLcode=73618
チケットぴあ
https://w.pia.jp/t/meik-t/
e+
https://eplus.jp/meik/
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