2022/05/26
ブロードウェイで上演されたミュージカル『ジャニス』の日本版が8月に日本人キャストで初上演される。音楽フェスティバルの女王や伝説のロックスターなどの異名を持ち、没後50年以上たった今も、多くのミュージシャンやリスナーを魅了するジャニス・ジョプリンに扮するのは、BiSHのアイナ・ジ・エンド。総合プロデューサーとして亀田誠治が参加し、アイナの歌声と解釈で表現されるジャニスが、偉大なシンガーの名曲とともに堪能できる。
ステージには、アレサ・フランクリン(UA)、エタ・ジェイムス(緑黄色社会の長屋晴子)、オデッタ(藤原さくら)、ニーナ・シモン(浦嶋りんこ)ら、ジャニスが影響を受けた女性アーティストたちも登場し、ジャニスの人生が振り返られる。今回、レスリー・キーが担当したキービジュアルの撮影現場にお邪魔し、アイナ・ジ・エンドに意気込みと現在の心情を聞いた。
――上京する前にミュージカルスクールに通っていたそうですね。そこで演技も習っていたのでしょうか?
アイナ:演技は全然やっていなくて、タップダンスやヒップホップ、コンテンポラリーといったダンスばかりやっていました。あとは声楽とか、発声法がメインでしたね。
――今年公開された『SING/シング:ネクストステージ』では吹き替えに挑戦しましたし、歌だけではない、新しい表現の道が少しずつ開いているのでは?
アイナ:今回は私の本格的な女優業の第一歩ではなくて、ジャニスの歴史をライブ形式でお届けするイメージです。お芝居で全てを伝えるのではなく、自分がどれだけジャニスに愛を注げるか、ジャニスの歌をどれだけ咀嚼して、それをアイナ・ジ・エンドが歌うとどういう意味を持つのかが大事な気がするので、あまり“お芝居”とか“女優”という感覚はないです。
――ジャニスに扮するアイナさんを想像していましたが、亀田さんが目指す「アイナなりのジャニス」という言葉を聞いて、もしかしたら、よくある伝記ミュージカルとは違う作品になるのではと思っています。
アイナ:亀田さんも頭ごなしに「ジャニスはこうだった!」って言わないと思うんです。ソロのレコーディングの時に「ここにこんなメロディを入れたい」って提案した時も、「やってみよう!」と、どんな提案も否定しない方なので、今回の舞台も私が一生懸命ぶつかってみて、よかったら受け止めてくれだろうし、よくなければいい方向へ向かうための舵を切ってくれるはずなので、私はとにかく精いっぱいやるのみです。
――亀田さんは、若手ミュージシャンたちとよく共演したり、プロデュースしていたりして、彼らが一番いい方向へ羽ばたける方法を常に考えているようにも思います。
アイナ:愛が深くて、音にも鋭い方なので、実はそこが怖いんです。亀田さんにも「私、亀田さんが怖いです」って言ってます(笑)。覇気があって、私泣いちゃうんですよね……。私が椎名林檎さんの「罪と罰」を『CDTVライブ!ライブ!』でカバーしたことをきっかけに、事務所の社長が「アイナのソロはぜひ亀田さんにお願いしたい!」って言って、亀田さんにお願いしたんですけど、「林檎ちゃんはこんな感じだった」って言われるたびに、自分の感情がわからなくなってしまうことがよくあって……亀田さんも椎名林檎さんも大好きなんだけど、私はアイナ・ジ・エンドだっていう想いもあって。今だったら「林檎さんのいいところをいっぱい盗んで成長しよう」って思えるんですけど、当時は「なんでこんなに林檎さんのことばっかり言うんだろう?」って思ってた時期がありました。それは亀田さん以外の方たちにも言われてきたことなので、塞ぎ込んでしまった時期もあったんですけど、亀田さんの愛によって、自分はアイナ・ジ・エンドとして歌っていいんだと思えるようになったので、亀田さんがいなかったら私は塞ぎ込んだままだったかもしれないです。
――ジャニスや林檎さんのような存在と同じ型にはめられる可能性もありますもんね。
アイナ:今まで散々いろんな人と比較されてきたんですけど、今思えばそれは全部ありがたいことなんです。中野の路上ライブとか、誰も見てくれていなかった時は、誰にも比較されなかったし、聞いてくれる人が増えたから、こうやっていろんな人が言ってくれるわけなので、全部の言葉がありがたいです。一度、尾崎豊さんの曲をカバーした時に、SNSで「殺す」って言われたことがあるんですけど、逆に「最後まで見てくれたんだろうな」とか「嫌な思いをさせちゃったのは悪いけど、見てくれてありがとうございます」って思うようになって。なので、私がジャニスを演じることに、いろいろ言われるかもしれないけど、全部受け止めていきたいです。きっとそれは私を見てくれているってことなので。なので大丈夫だと思います。
――モモコグミカンパニーさんも小説家デビューしてから、「いろんな意見をもらいたい、批判されたい」とおっしゃっていました。
アイナ:もちろん私もモモカンも人間なので傷付きますし、モモカンとはなんでも言い合える仲なので「またこんなこと言われた~」って話はしょっちゅうしていて、互いに「しょうがないよね。もっと頑張ろう!」って話しています。ロボットじゃないから「批判されたい」って言っているのも、一種の強がりなのかもしれないですね。
――ステージには、長屋さんやUAさん、藤原さくらさんなど、音楽仲間がいるので、心強いですよね。
アイナ:実は怯えています。だって、地に足付けて歌えるようになったのも最近ですし、「2度と出るな」って言われてかなり凹んだ時や、喉の手術をして身体的に歌えなくなった時期、逆に調子に乗りすぎていた時もあったので、「私はこういう歌が歌いたい」って自覚して、自分の足で立って歌えていると実感できるようになったのも、この数年なので、そう思うと「UAさんはそれを一体何年やっているんだ?」って思うし、晴ちゃん(長屋晴子)もバンドメンバーとの活動が長いはずなので、私は大丈夫だろうかって……。でも、人と比べるのは良くないので、比べるより、しっかり向き合おうと思っています。「この人の声は本当に素晴らしいな!」って認めながら、「じゃあ、自分はどうあろう?」って考えてステージに立とうと思っています。
――公演は3日間だけ。あっという間に過ぎちゃいそうですね。
アイナ:そうですね。ひよるのは、もう止めたいので、こういうインタビューでもなるべく前向きな言葉だけを言いたいんですけど……実際はすごく怖いです(笑)! いやぁ~、本当に頑張りたいです! キャストの皆さんと一緒に走っていきますし、ジャニスのことをずっと考えているスタッフさんもいるので、大丈夫だと思っています。
――最後に、ジャニスの名曲「Cry Baby」のように、誰かに泣いてお願いした経験はありますか?
アイナ:あります! 昔、中学2年生くらいに足を怪我してしまったんです。当時のダンスの師匠がすごく恐い方で、「レッスンに来るな」って言われたんですけど、どうしてもレッスンに行きたかったし、学校にもちゃんと行けていない時だったので、「私にはここしかないんです! レッスン受けさせてください!」って土下座しました。難波駅前のOCATっていう、いつもの練習場に行って、(グラン・)バットマン(片足を大きくあげる動作)ができなかったので、「帰れ!」ってやっぱり帰らされて。ただ、ずっと言い続けていたら、レッスンを受けさせてもらえるようになったんですけど、今度は先輩の足を踏んでしまって、「お前は自分だけじゃなくて、人の足も壊すのか!?」ってものすごく怒られたことがあります。泣いたり、怒られたりするのは、しょっちゅうでしたね。
――ご両親にも上京を説得したりして、人に訴える能力や行動力が高いのかもしれないですね。
アイナ:昔は頑固の極みでしたね。学校も「嫌だ!」と思ったら行かないし、東京も「行く!」って決めたら行くし。だから友達がいなかったのかも。BiSHになって、私みたいなメンバーがいて、みんなやりづらかったと思うんですけど、みんなと成長させてもらって、このメンバー6人で8年目を迎えることができてよかったです。
Interviewed by Mariko Ikitake
Photographed by Leslie Kee
Other photos by Maho Korogi
◎公演情報
ブロードウェイミュージカル『ジャニス』
2022年8月23日(火)・25日(木)・26日(金)、東京国際フォーラム ホールAで開催
出演:アイナ・ジ・エンド、UA、浦嶋りんこ、藤原さくら、長屋晴子(緑黄色社会)ほか
チケット:SS席16,000 円(前方席保証)、S席11,000円、U-25席5,000円(すべて税込)
最速先行チケット受付:2022年5月26日(木)10:00~6月5日(日)23:59
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