2022/02/23
昨年ポニーキャニオンからメジャーデビューしたシンガーソングライター、Little Black Dressがシティポップの名曲をカバーするライブ【CITY POP NIGHT】の第2弾を昨年10月と同じブルーノート東京で開催した。2公演が行われたが、本稿では1st Showの模様をレポートする。Little Black Dressの愛称は「LBD」と「リト黒」の二つがあるようだが、本人はリト黒推しのようなので、そちらに合わせることにしよう。
18時ちょうど、MUROによるオープニングDJとクロスフェードするようにメンバーがステージに上がる。左からデビン木下(Key.)、山木秀夫(Dr.)、鈴木明男(Sax.)、休日課長(Ba.)、吉田サトシ(Gt.)、佐々木久美(Org.&Cho.)という世代の広い面々。ギターを手にした主役のリト黒は、レースのパターン入りのシックなジャケットにキュロットっぽいショートパンツ、ニーハイブーツまで黒で固めて、インナーのカットソー、ベルトのバックル、そしてイヤリングのキラキラ感で鮮やかなアクセントをつけていた。
「みなさんこんばんは。ようこそCITY POP NIGHTヘ! どうぞ最後までお楽しみください。さっそく音楽の扉を開けて、ご案内します。『真夜中のドア~Stay with me』」と曲紹介をして、吉田のギターのストロークから演奏がスタート。今や世界的に愛される松原みきのデビュー曲である。オリジナルを基調に少しアレンジを効かせ、ブルーノート東京を「2022年かつ1979年」という不思議な空間に染め上げる。ギターをタンバリンに持ち替えて「DOWN TOWN」(シュガーベイブ~EPO)、スツールに座ってちょっとテンポを落とした「プラスティック・ラヴ」(竹内まりや)と「あまく危険な香り」(山下達郎)をそのままMCなしで演奏した。伸びやかな歌声と丹念な歌唱が心地よい。
MCタイムで歌謡曲とシティポップへの愛を語り、ラジオやインスタライブに寄せられるファンの意見をもとに当夜の曲選びをしたことを明かして、座ったり立ち上がったりしながら「ルビーの指環」(寺尾聡)と「ドラマティック・レイン」(稲垣潤一)。いわゆる男唄のせいか、キー低めの婀娜なボーカルが出色だ。歌い終えると「ルビーの指環」を編曲した井上鑑への敬愛を語り始めた。
「洋楽へのオマージュだけじゃなくて、うまく歌謡曲の要素を織り込んでいらっしゃるのが天才的で。なんといってもイントロ!」と井上の編曲作品をいくつか挙げ、昨年11月に開催された松本隆50周年記念イベント【風街オデッセイ2021】で彼がバンマスを務めていたこと、バンドメンバーに山木と佐々木が参加していたことを明かす。「明日WOWOWで放送されるから、みなさんも見てください。WOWOWの人みたいになっちゃった」と照れ笑いしていたが、自分のワンマンライブで尊敬するレジェンドたちと共演できる喜びと思い入れのほどがうかがえた。
「テレビで歌謡曲を歌いたい、という夢が叶ったのがこの曲でした」と、次はNHKの『うたコン』で昨年10月に歌った「みずいろの雨」(八神純子)。リト黒のカラオケの十八番だそうだが、吉田のアコギをフィーチャーしたボサノヴァ調で、アタマのサビをカットしてAメロから始まるアレンジが新鮮だった。再びギターを手にして「シティポップの重鎮、角松敏生さんの曲でバンドセッションをお届けします」と前置きし、鈴木のごきげんなサックスから始まる「AFTER 5 CLASH」。ベース→ギター→キーボード→オルガン→ドラムス→サックスの順でソロ回しをして、メンバー各人の卓越したスキルを見せつけた。
「ラストスパートです! City pop ladies' medley!」とシャウトして、「CAT'S EYE」(杏里)、「フライディ・チャイナタウン」(泰葉)、「シンプル・ラブ」(大橋純子と美乃家セントラル・ステイション)を短尺で連打していく。ミラーボールが回り、光の粒が80年代のスキー場のディスコ感を醸し出すなか「BLIZZARD」(松任谷由実)を歌って、リト黒とバンドはいったんステージを降りた。
アンコールを求める手拍子に応えて再登場すると、バンマスのデビン木下から順番にメンバーをひとりひとり紹介。ベテラン組はリト黒のラジオ番組(Inter FM『TOKYO MUSIC SHOW』)にもゲストで呼ばれたことがあるそうで、そのエピソードもまじえていた。山木が少年隊「君だけに」のフィンガースナッピングも担当していたとか、西城秀樹「Y.M.C.A.」のドラムをマイク3本で録ったという話はとりわけウケていたが、彼の「シティポップは日本の文化の象徴」との発言に示唆されたリト黒のシティポップ論は興味深いものだった。
その後に「令和のシティポップ、お届けいたします」とオリジナルの「雨と恋心」を披露したが、なぜ歌謡曲に惹かれるのか、そのエッセンスをどう自分の音楽に反映させていくか、まわりの人たちと話し合いながらいつも考えているのだろう。詳しく聞いてみたいものだ。
最後は「君は1000%」(1986オメガトライブ)と「恋のブギ・ウギ・トレイン」(アン・ルイス)のメドレーで華やかかつ賑やかに締めた。長い手足を思い切り動かし、後者ではスキャットで鈴木のサックスとアツい掛け合いを聴かせるなど、リラックスして楽しんでいるように見えた。
セットリストはもらっていなかったが、とりたててシティポップ通だったわけではない僕でも全曲知っている超有名曲ばかり。それだけに歌と演奏を問われるともいえるが、いたって快適に楽しめた。親子ほど世代の違うミュージシャンたちが上下関係なくプロ同士でセッションを楽しむ様子もとてもいいものだ。
もっとも印象に残ったのは、とにかく楽しそうな歌い方。そして、これはいかにも歌謡曲好きらしいところだが、歌詞にしっかり感情移入して演じるように歌うので、曲ごとに発声も節回しもよく変わって見ていて飽きなかった。特に「ルビーの指環」は、オリジネイター寺尾聡の物静かでぶっきらぼうな風情を踏まえつつリト黒自身の人なつっこさや元気さが混ざって新しい味わいを作り上げていたと思う。
そう、彼女の人なつっこくておきゃんな雰囲気は、強めにキメたアーティスト写真しか見たことがなかった僕には新鮮だった。特に鈴木や山木とはリラックスした様子で話していて、まるで娘のよう。年の離れた世代にもかわいがられそうなので、そのキャラを生かしてレジェンドたちとガンガン仕事をして学びまくり、オリジナル、カバーを問わず、昭和と令和をつなぐ歌を聴かせてもらいたい。
Text:高岡洋詞
Photo:AKI
◎公演情報
【CITY POP NIGHT @Blue Note Tokyo】
2022年2月18日(金)
東京・ブルーノート東京
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