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2022/02/12 21:00

<ライブレポート>GLAY、希望と勇気に溢れたさいたまスーパーアリーナ公演(2/5)ロングレポート

 2月5日、さいたまスーパーアリーナ。それはまるでGLAYというバンドが自分たちの表現と格闘しているかのようなライヴだった。そしてここで、それでもGLAYがGLAYらしさを貫いた事実は、僕の心を激しく揺さぶって、勇気を与えてくれた。まったく、最高の夜だった。

 「さいたま、行くぜ!」

 センターに立ったTERUはそう叫んだ。HISASHIのギターから入ったオープニングの「GALAXY」はGLAYの最新曲。これで勢いよく火ぶたを切ると、2曲目は「Hypersonic」だ。<小橋の夢>というフレーズとともにTERUの人となりが次々と唄われる歌で、場内にあたたかい空気が広がっていく。そして彼は先ほどの歌詞に「このさいたまスーパーアリーナのひとりひとり全員を幸せにすることだ!」と叫んだ。早くもいい雰囲気である。

 しかしそれも「Winter Moon Winter Stars」のあたりから徐々に変わっていく。これは<テレビからはコロナのニュースばかり><今更ジタバタしないで家にいよう>と明確に唄った曲で、最新アルバム『FREEDOM ONLY』にはこのようにコロナ禍という時代性が反映されている。会いたい人と会えず、思うように生活できず、やりたいこともできない日々。こうした状況にGLAYは真っ向から向かうと決め、その混沌を唄い、そこで自分たちの表現することに格闘した。『FREEDOM ONLY』はそんなアルバムであり、そしてこのツアーもまた、そんな旅だったと思う。

 続くビートナンバー「月に祈る」は1995年のリリース曲で、歌詞に月が出てくる歌が続く。この終わり頃、TERUは「サンキュー! 500レベル! 400! 300! 200!」と階層ごとに客席を煽っていった。しかしその最後に「アリーナ! 横浜アリィナ~!」と叫んでしまう。演奏終了後に彼は「アハハハ! やべえ!」と間違いに気づき、会場中に静かな笑い声が起こった。「いきなり笑わせちゃダメだよね(笑)」と反省するTERUだったが、しかしうっかりミスはむしろいつも通りで(失礼!)、そこで生まれる笑顔もまたいつものGLAYのライヴだ。そもそも今夜はTAKUROの復活ライヴでもあり、ファンの間には少なからず心配する空気もあったはず。ここでの笑顔は、その緊張をほぐしてくれるものにもなったと思う。

 ただ、中盤からはいよいよ『FREEDOM ONLY』の世界に足を踏み入れることとなり、いつものGLAYとは様相を異にしていく。ロック・バラードの「漂えど沈まず」は愛について戸惑う思いや誰しもが抱える孤独、そして人生について言及する歌。続く「BAD APPLE」は浮遊するようなサウンドの中でシリアスな現実を唄った曲だ。<決して祈りは捧げない 今宵の月を見上げるだけ>という歌詞は、先ほどの「月に祈る」にあったような思いにあえて釘を刺しているようにも思える。2つの曲が書かれた時間の幅はおよそ25年。ソングライターにしてアーティストとしてのTAKUROの変化と成長、加えて今のGLAYというバンドの表現のあり方を見た場面でもあった。

 ライヴはさらに深みを増していく。SEとセリフが入ったあと、隙間を創出したアレンジに弦の音色が融合する「Tiny Soldier」は<I’m so tired>……疲れた、という言葉が心に残る。オルゴールのような音色を挟んでの繊細なスローナンバー「Holy Knight」は<答えはない><彼女にはわからない>など、複雑な心模様が描かれた曲。深刻さに直面する心理を唄った曲が続いた。この「漂えど沈まず」から4曲の流れはアルバムと同じで、おそらく意識的な曲順だったはずである。

 また、この間はPERIMETRONがデザインしたアルバムのアートワークと連関するステージセットがとくに存在感を増していた。怪しげな森の木をイメージしたその異空間は、まさに<答えはない>と唄っているかのような『FREEDOM ONLY』の世界そのもの。炎が燃え、たいまつに灯がともる舞台上。やや暗めの照明、メンバーの映像にエフェクトが加えられることも多い大型ヴィジョン。これらに映像と音声で挟み込まれるストーリー性も相まって、さらに異様さが演出されていく。この中でGLAYは先の2曲のように音楽面でも挑戦的な演奏にアプローチしていた。あまりに苦く、息苦しさもあったこの流れの深遠さ、濃密さは、とくに印象深い。

 行くところまで行った、迷うことはさんざん迷った、そんな時間だった。だからコンサート後半の焦点は、GLAYがここからどこまで引き上げてくれるのか、どこまで高めてくれるのかにあった。「シキナ」のイントロでTERUが「OK、さいたまスーパーアリーナ! その手の力を貸してください!」と言うと、声をあげられないオーディエンスが手拍子で応える。雪の中、別れの悲しみや傷ついた心を抱えながらポップなメロディで<また歩き始める>と唄われる曲だ。間奏でTAKUROが弾く間、JIROもHISASHIも客席近くに歩み出て、笑いながら手を叩いている。ドラムのTOSHI、キーボードのハジメタルのサポート2人の笑顔も見えた。希望を唄うGLAYが明るい姿を見せてくれたことに、思わず胸が詰まりそうになる。そう。苦しくても、ツラくても、どんな時でも、彼らはこうあってくれるバンドだったから。

 ここからのGLAYは怒涛のポジティヴさを見せていった。ステージで火柱が上がり、セットの果実が揺れる「SHINING MAN」はシングル『BAD APPLE』のカップリング曲で、バカ騒ぎそのものの高揚感が爽快。エイトビートが疾走する「Runaway Runaway」ではTERUが「このコロナ禍の闇を切り裂け!」と叫び、HISASHIがギターソロを響かせ、そこにTAKUROが絡んだ。JIROの独壇場であるパンキッシュな「SHUTTER SPEEDSのテーマ」の前には、彼が「いいね! 俺、今ライヴやってて思ったよ。みんな笑顔を忘れちゃいけないね! 声を出せなくてもいいから、たくさん笑顔をちょうだい!」と、やはり笑顔で言う。そしてこれも初期のビートパンク「彼女の”Modern…”」ではことさら感動的な瞬間があった。曲終わり寸前の詞で、いつもはオーディエンスが「裸足のままで」と合唱を返す箇所があるのだが、声を出せない今回はTERUが「心の中で大丈夫よ! カモン!」と言った。そして次の瞬間、ヴィジョンに客席が投影され、無言のままでリアクションを返す観客の姿が映し出されたのだ。一瞬の空白のあと、再び連ねられていくビート。GLAYと彼らのスタッフ、そしてファンとの思いが凝縮された、熱いシーンだった。

 次のブロックの前にTERUは「バンドやってて良かったなと思います。GLAYがほんとに、今の自分にとっての救いでした。なので、こうやってステージで唄えること……きっとみんなもそうだと思うんですけども、演奏できることが何よりも幸せで。この尊さを感じながら今ステージに立って、やってます」と語った。戸惑い、苦しみが続くこの2年は、バンドもファンも、いや、すべての人がそうだった。そんな事実をあらためて感じる彼の言葉だった。

 本編ラストは、アルバム中でも重要な「青春は残酷だ」、そして「祝祭」の2曲が飾った。後者では、演奏前に「夢見ることができれば、それは実現できるのさ。あの雲の上にも行けるんだ」というセリフが聞こえ、TERUは2番のサビ前の歌詞を「さぁ共に夢見ていこうぜ!」と少しだけ変えて唄った。熱い夜になった。

 アンコールを待つ拍手の間、僕は思った。この時代は音楽を鳴らすこと、今ここで唄うことそのものが問われているのだと。これはミュージシャンに限らずだが、この2年の間には、自分のやるべきことを見失った人や生活が立ち行かなくなった人が多数いる。そんな中で前に進むこと、そしてそれを音楽で表現することは、決して簡単ではない。それでもGLAYはそんな中でもがきながらも、歩みを止めないことを思考し、実行してきたのだと思う。

 アンコールで、やはりアルバムから「BETTY BLUE」と「永遠を名乗る一秒」がパフォーマンスされた。宴が終わりに近づく。そしてここからは、GLAYの歩みとともに書かれてきたポジティヴ・ソングの一貫性と変遷を見るような構成となった。

 「次の曲は(リリースから)もう25年以上経ってますけども、どんな時代も、苦しい時に力を与えてくれる、そんな曲です」という前置きで唄われたのは「生きてく強さ」。<前むきな心があれば どんな時だって><努力が実れば そうたやすく 迷わない>などの歌詞は、今聴くとあまりにまっすぐで、まぶしく感じるほど。青春時代!という感じだ。しかしTERUの歌声は、あの頃と何ひとつ変わらずストレートに、力強く響く。

 この次に彼が「どんなにツラい時も、一緒に夢を見ていきましょう。みんなが夢を見てくれることが僕らGLAYの夢です。これからもずっとそれを叫んでいきたいと思います。夢見ていこうぜー!」と煽ってから入ったのは「BEAUTIFUL DREAMER」だった。こちらはそろそろ20年近く前の作品で、じつにエモーショナルな曲調だ。しかし間の<俺達はなぜお互いを守りたかっただけなのに傷つけ合うの?>というフレーズに象徴されるように、歌には明らかに苦渋を経験したことが反映されている。それでも<確かに今灯がともる>と、苦しみの中でも前に進もうとする姿が見えるのだ。若者が壁にぶち当たり、強くなろうと必死になり、成長していこうとしている。そんな歌だ。

 そしてライヴの最後を飾った「FRIED GREEN TOMATOES」は『FREEDOM ONLY』の収録曲。30代の頃に原型があったとTAKUROが語っていた曲だが、歌詞からは今の時代ゆえの複雑な問題や、そこでの悩みや葛藤が感じ取れる。開放的な曲なのに、重層的で、また、重厚な部分もある歌。しかし曲が進むと<明日がどんな日々でも構わない>と、希望の光を見せるような描写になっていくのだ。これは長い間、メンバー同士が肩を寄せ合い、共に戦ってきたGLAYだからこそ唄える曲だと思う。

 この翌日、アリーナツアーの【FREEDOM ONLY】は幕を降ろした。さまざまなことが懸念され、ぬぐい切れない不安を前に、関わった誰もが神経を使ったこの旅。ディスタンスをとっての座席の配置もあり、生で体験できたファンもそう多くはないかもしれない。あらゆる意味で普通ではなかったこのツアーだが、しかしそこでGLAYというバンドは自分たちの真価を見せた。このことこそ、ここで強調しておきたいことである。

 希望を、勇気を、ありがとう。GLAY!


Text:青木優
Photo:岡田裕介、田辺佳子
※写真は2月5日、6日両日のものになります。


◎公演情報
【GLAY ARENA TOUR 2021-2022 “FREEDOM ONLY”】
2022年2月5日(土)6日(日)
埼玉・さいたまスーパーアリーナ

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