2022/02/13 20:00
2月6日、eillが東名阪を周る【BLUE ROSE TOUR 2022】の東京公演を豊洲PITで開催した。2019年に同タイトルで行われたファーストワンマンツアーの東京会場は渋谷WWWだったが、この2年でeillが多くのリスナーの心をつかんできた理由がはっきりと伝わるようなライブだった。
バンドメンバーとともに、スパンコールのついた青いドレスを着たeillが登場すると、リリースされたばかりのニューアルバム『PALETTE』のタイトルトラック「palette」からライブがスタートし、AOR調の心地いいグルーヴに乗って、清涼感のある歌声を届ける。そこから一転、「ここで息をして」ではロックな曲調に変化し、ダンサーのGANMIのパフォーマンスも加わりながら、パワフルな歌声を披露。さらにパーティーチューンの「FAKE LOVE/」ではeillもGANMIと一緒にステップを踏んで、にぎやかにライブが幕を開けた。
「やっほー」と場内に明るく声をかけ、「今日は声を出せなかったり、いろんなルールを守らなくちゃいけないけど、eillはみんなの心の声に耳を澄ませながらライブをしていきたいと思います」と挨拶をすると、竹内まりやのカバー「プラスティック・ラブ」、「honey-cage」を続け、GANMIとともに演劇チックなパフォーマンスを見せた「((FULLMOON))」、シンセのリフが引っ張るアップテンポな「Night D」と、矢継ぎ早に曲を披露していく。
ライブ中盤のハイライトとなったのは「ただのギャル」。音源では打ち込みのトラップビートだが、ライブバージョンはよりロック色が強くなり、その中でeillが巧みなフロウを聴かせていく。後半に出てくる重厚なオペラ調のコーラスから、菅野颯によるアウトロのドラムソロに至るまで、とにかくエネルギッシュで、圧巻のパフォーマンスだった。『PALETTE』というアルバムは、自分の色はひとつではなく、これまでもパレットにいろんな色の絵の具を落とすように曲を作ってきたことを再確認した作品であり、新曲と旧曲を織り交ぜながら、幅広い曲調を披露した前半の流れは、まさにアルバムのテーマを体現していた。
「次の曲は一緒に手拍子をしてほしいなって思うんですけど、いかがなもの?」と呼びかけた「special girl」は、前半をギターと会場のクラップのみで歌い、後半からバンドが加わる展開がドラマチック。続く「HARU」では間奏でeillが指揮者になり、バンドメンバーの演奏の音量をコントロールする場面も。こうしたオーディエンスとの、バンドメンバーとのコミュニケーションが、今のeillを形作っていると言ってもいいだろう。
そんな「大切な人たち」に向けた、文字通りラブレターのような一曲「letter…」は、歌詞の書かれた便箋を読みながら、アコギ一本で歌い上げ、静かに深い感動が生まれる。「ひさしぶりに書いたラブソング」という「いけないbaby」でのサトウカツシロによるエモーショナルなギターソロも印象的だったが、さらに素晴らしかったのが「花のように」。〈咲き誇って 闘うのよ〉と呼びかけるこの曲は、聴き手をエンパワーするシンガーとしてのeillの真骨頂であり、この曲中にパレットをイメージしたような十色のLEDが光ったのは、それぞれの色で、あなただけの色で咲き誇ることの尊さを強く印象付けていた。
「花のように」を終えて、eillはオーディエンスに語りかける。「怖いも辛いも苦しいも痛いも全部、自分だけが感じられる特別な、かけがえのない感情なんだよ」「心が何かを感じることを恐れないでほしい。それがいま私たちが生きている一番の証だと思うから」「部屋の隅っこで泣いている自分を救えるのはいつだって自分自身。この人生、この物語を変えることができるのはあなただけ」と、その言葉は熱く、eillの人生観が反映されたもの。
よく笑い、ときおり軽いノリを見せるMCでのeillは「ただのギャル」で、すぐ隣にいてくれそうな親近感を感じるが、その一方で、eillは自分で自分の生き方を選び取った表現者であり、その両面があるからこそ、彼女は誰かの希望になり得る。「みんながみんなの光に気付けるように、この曲をずっとずっと歌い続けます」と言って披露された「SPOTLIGHT」は、やはりそんなeillにとってのテーマソングであり、この日のハイライトとなった。
本編ラストでは、自らの年齢をタイトルに冠した「20」と「23」を続けて演奏。音源の「20」は「23」と比較するといい意味での軽さを感じるが、この日はイントロにビッグなコーラスが加えられ、たくましいバンドサウンドにアップデート。そのままなだれ込んだ「23」で会場中がハンドクラップに包まれる光景は、まるでスタジアムロックのようだった。これからのeillがさらにジャンルを超越して、大きなステージに向かっていくであろう、そんな手応えが確かに感じられた。
アンコールではキーボードの弾き語りで「片っぽ」を情感たっぷりに届けると、最後は再びGANMIをステージに呼んで、「踊らせないで」で大団円。花言葉を基に、「不可能を可能にする」「夢を叶える」の意味を持つ「BLUE ROSE TOUR」は、きっとこの先でまだ見ぬ光景を見せてくれるに違いない。
Text:金子厚武
Photo:山川哲矢
◎公演情報
【BLUE ROSE TOUR 2022】
2022年2月6日(日)
東京・豊洲PIT
<セットリストプレイリスト>
https://lnk.to/BLUEROSETOUR2022
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