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2021/12/28

映秀。「ありがとう」が溢れた初ツアー【This is EISYU】終幕

 映秀。が、2021年12月上旬から開催していた自身初のツアー【This is EISYU】のファイナル公演を北海道・Zepp Sapporoで迎えた。本レポートでは、東京公演の模様をお伝えする。

 あまりにも凄まじいものを見てしまい、しばらく興奮が収まらなかった。才気煥発という表現がここまで似合うライブも珍しい。(何度でも言うけれど)この音楽が正しく評価されなければ、それは世界のほうが間違っている。

 今年リリースされた二つのアルバム『第壱楽章』と『第弐楽章 -青藍-』で、2021年を象徴するニューカマーとなった映秀。が、自身初の全国ワンマンツアー【This is EISYU】を完走した。YouTubeのカバー動画から台頭し、もともと歌唱力には定評のある彼だが、バンド編成での本格的ライブは初の試みだったという。さる12月18日、Zepp Haneda (TOKYO)にて開催された東京公演には幅広い年代のファンが駆けつけ、“はじめの一歩”を心待ちにしていた。

 開演前の場内にはマック・ミラー、J・ディラ、ハイエイタス・カイヨーテなど、映秀。みずから選んだメロウな楽曲がBGMとして流れていた。やがて会場が暗転すると、アルバムのアートワークにも通じる、時計をモチーフにしたと思しきアニメーションとインストの音楽が流れ出す。針を刻む音、メトロノームのごとく刻まれるリズム。形や大きさの異なる線や図形が少しずつ重なり合い、ひとつの「。」へと近づいていく。映秀。の「。」(マル)は、彼を支える仲間やファンを表すもの。自分だけではなく、ここに集まったみんなで表現を作り上げたい。そんな想いをひしひしと感じた。

 そこからスポットライトに照らされ、映秀。がカーテン越しに姿を現す。椅子に腰かけ、綴本を手にした文学的な仕草とともに歌い出したのは『第壱楽章』のオープナー「零壱匁」。<僕が何者かは僕自身が決めるんだ>という、幕開けにふさわしい一節が力強く響き渡る。そして、“映秀。”の文字がカーテンに大きく映し出されると、彼は腰を落としたパワースタンスでギターを構え、「反論」のリフを切り裂くようにかき鳴らす。静から動へのダイナミズムで会場を掌握すると、「生命の証明」「誰より何でしょ 人より事よ」と一気に畳み掛け、自分のペースに引き込んでいった。

 「はじめまして」の挨拶を挟んで、快進撃は続く。「第弐ボタン」ではマイク片手にラッパーばりのアクションとリズム感を披露。「失敗は間違いじゃない」では<HANDS UP HANDS UP 掴み取りに行こうよ>という歌詞の煽りに、客席も全力のハンズアップで応えた。ここまで怒涛の展開を見せてきたが、ドラムブレイクからスムースに移行した「砂時計」では、一転してチルな雰囲気を漂わせる。持ち前のジャンルレスな音楽性ゆえ、起伏に富んだセットリストになるのは必然。楽曲とシンクロした映像演出も相まって、観る者を一瞬たりとも飽きさせない。

 その後のMCで、彼は人のきっかけになりたくて音楽活動を始めたこと、自分自身もあるバンドのライブに勇気づけられたことに触れたあと、「人のきっかけになるというのは重たいことで、人生を変えてしまうわけだし、歌詞も一文字ずつ考えながら書いていて。そうやって作ってきた曲たちをみなさんの前で演奏できることを嬉しく思います。これまではMCイヤだなーとか、歌詞覚えられないなーとかライブを食わず嫌いしていたけど、みんながライブを楽しいと話す理由がよくわかりました」と屈託のない笑顔を浮かべた。この発言を踏まえてか、ギター弾き語りの「音ノ葉」では、マイクを外した肉声で<音に音 乗せて歌うよ 明日のあなたが思い出すように>と熱唱。張り詰めた声と弦の音色がフロアいっぱいに響き渡る。

 ここから後半戦に入ると、映秀。が「僕の大親友」と紹介したピアニスト・角野隼斗が参加。音源ではギターがリードしていた「共鏡」の導入部を、繊細なタッチで書き換えるなど、楽曲のポテンシャルを次々と引き出していく。やさしく寄り添ったり、軽快に跳ね回ったり、エモーショナルな旋律を奏でたりと変幻自在。そんな角野の手腕によって、映秀。の歌声もますます表情豊かになっていく。

 もう楽しすぎて仕方がなかったのだろう。よりラウドに変貌した「喝采」では、首を痛めそうな勢いでヘドバン。「ハ茶メ茶オ茶メ」では1番の歌詞をうっかり2番でも繰り返し、「本当にハチャメチャだよ」と漏らす場面も。それもこれも一心不乱に音楽と戯れていたから起きたこと。ステージ狭しと飛び回り、儚くも情熱的に歌うその姿は、まさに音楽の申し子。次に何が起こるかワクワクが止まらず、気づけば食い入るようにライブを楽しんでいた。

 そんな期待も軽々と飛び越え、「自然」でのハイトーンはどこまでも伸びていく。轟音をまとうバラードが並んだ終盤、とりわけ感動的だったのは「雨時雨」。<僕は一人でも大丈夫だから>というくだりを、<僕は一人じゃない>と変えて歌っていたのは、「。」に対する感謝と信頼の表れだったはず。そして本編最後は、「東京散歩」をグルーヴィーにプレイ。角野の流麗なピアノ、映秀。のまくし立てる歌声が冴え渡り、万雷の拍手がZepp Haneda (TOKYO)を包んだ。この無敵モードはアンコールでも継続。鬼気迫るテンションで「脱せ」が演奏されると、会場のボルテージは最高潮に。映秀。は角野の椅子にちょこんと座り、気持ちよさそうに歌っていた。

 この二人以外のメンバーがステージを去り、ラストを飾ったのは「Good-bye Good-night」。東京公演の開催日からちょうど2年前、2019年12月18日にがんで亡くなった父親との別れを題材にした曲である。そのエピソードをMCで語りながら、客席に友人知人の姿を見つけたとき、感情の抑えが効かなくなったのだろう。映秀。は涙を堪えきれなくなり、しばらく言葉を詰まらせた。「映秀。の『。』は僕でもあるし、みなさんでもある。僕一人では今日のステージはやり遂げられなかったと思います。本当にありがとう」と告げると、この夜一番の拍手が沸き起こった。さらに、彼はこう続ける。

 「それぞれの大切な人たちに、帰り際でもいいし、明日……いや、明日ではダメだな。今日このあと、『ありがとう』と伝えてほしいなって思います。言えるときに言っておかないと後悔として残るんですよ。僕も今日、歌いながら気づいたんですよね。時間には限りがあるというテーマを、自分が何度も歌詞にしてきたことに。ほとんど無意識なんですけど、きっと父のことがきっかけでそう考えるようになったんだと思います。だから後悔がないように、言えるときに思っていることを伝えてほしいです。ありがとう。」

 このMCの最中から、会場中がすすり泣く声に包まれていた。無性に切ないピアノに乗せて、憂いを昇華させるように、映秀。は心の奥底から声を放つ。<誕生日を過ぎてても なんの記念日じゃなくてもいいかい? たった五文字だけど恥ずかしいから 音に乗せて言うよ “ありがとう”>というサビがことさら胸に響く。そして、映秀。は最後にまた「ありがとうー!」と叫ぶと、感極まった表情でステージを後にした。

 「今日という日があなたのきっかけになり、記憶に残りますように」と彼は語っていたが、全編ハイライトと言っても過言ではない一部始終は、自分自身にとっても生涯忘れられない経験になったのではないだろうか。【This is EISYU】というツアータイトルが示しているように、今回のライブは現時点の集大成であり、まだ何色にも染まっていない映秀。の音楽が、新たな未来へと駆け出すための出発点でもある。ここから彼はどこへ向かうのか。なにせまだ19歳、目の前には無限の可能性が広がっているはずだ。

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