2021/12/27 15:00
野宮真貴が矢舟テツローとのジョイント・ライブが、ビルボードライブ横浜で開催された。言わずと知れた元ピチカート・ファイヴの歌姫だった野宮真貴はデビュー40周年を迎え、その一環で“World Tour Mix”と題したシリーズをスタートし、12月17日にNight Tempoとのコラボレーションによる新録曲「東京は夜の七時 (feat. Night Tempo)」を発表したばかり。一方の矢舟テツローは、2005年にデビューして以来ピアノを弾きながら軽快に歌うシンガー・ソングライターでとして活動すると同時に、小西康陽のソロ・プロジェクト、ピチカート・ワンのサポート・メンバーとしても重要な存在である。こちらも12月15日に小西プロデュースによるニュー・アルバム『うた、ピアノ、ベース、ドラムス。』をリリースしたばかりだ。このアルバムには野宮真貴とのデュエット曲が2曲含まれている。その縁によって今回のジョイント・ライブが実現しており、ライブには媒介役となった小西康陽もDJとしてゲスト参加というアナウンスがされていた。
しかし場内が暗くなり、DJブースから流れてくるラジオの音声のようなサウンドコラージュが終わると、小西康陽がいきなりステージに登場。MCで「ピチカート・ワンのステージに今日はようこそおいでくださいました。最後まで僕の歌とおしゃべりを楽しんでください」と語る。これは彼一流の冗談だろうと思いきや、すでにセッティングしていた矢舟テツロー・トリオをバックにハンドマイクで歌い始めたのだ。スウィングするバンドをバックに歌うのは「お正月」。あの有名曲をシニカルな替え歌にしたヴァージョンでつかみはOK。曲が終わると小西はアコースティック・ギターを抱え、ボサノヴァ風のリズムとスキャットに乗せて、「私の人生、人生の夏」へとなだれ込んだ。続いて矢舟テツローを紹介し、新作に収められている「きみには歌いたいことなんてないのに」を矢舟テツロー・トリオの3人で披露。最後に再び小西が「テーブルにひとびんのワイン」を歌いピチカート・ワンのパートは終了。「昔はミス・ピチカート・ファイヴと呼んでいたけれど、もう呼ばない(笑)。素晴らしい歌手、野宮真貴さんです」と小西の紹介により、真っ赤なドレスを来た野宮真貴が登場。ステージでハグを交わし、バトンタッチとなった。
ピチカート・ファイヴの名曲「私のすべて」で軽快にスタートした野宮真貴のパートは、続いて「ストロベリィ・スレイライド」へ。野宮のボーカルはいつも通りクールビューティーな雰囲気で心地よく聴かせるが、今回はバッキングを矢舟テツロー・トリオが務めていることもあって、いつものバンドとは違ってかなりシックでジャジーな印象だ。時折、矢舟がコーラスを加えたりもするが、まるでスタンダードを歌うジャズ・シンガーのように、自身のレパートリーを表現していく。その感覚は次のパートでさらに増していった。「矢舟くんが選んだピチカート・ファイヴのレア曲です」と野宮が紹介して歌い始めたのは、1994年のアルバム『overdose』収録の「ショッピング・バッグ」、1991年のアルバム『女性上位時代』収録の「クールの誕生」、1992年のアルバム『SWEET PIZZICATO FIVE』収録の「テレパシー」という3曲。たしかになかなか聴くことのできないレア曲だ。しかもピアノ・トリオをバックに歌うため、原曲とは違った味わいがあり、選曲の妙を楽しむことができた。
いったん野宮真貴が退場し、ここからは矢舟テツロー・トリオのパートに移る。先述したニュー・アルバム『うた、ピアノ、ベース、ドラムス。』から、細野晴臣の名曲をカヴァーした「ろっかばいまいべいびい」からスタートだ。さらに「ドレミ」、「会えないときはいつだって」と続き、山下達郎をジャジーにカヴァーした「あまく危険な香り」へと一気に歌い上げる。ジャイヴやスウィングをベースにした矢舟のボーカルは、ピアノを弾きながら歌うというスタイルもあって、ナット・キング・コール、ベン・シドラン、ボブ・ドロー、ハリー・コニック・ジュニアといった先達のヴォーカリストを彷彿とさせる。とにかく何を歌っても粋で洒脱。クリスマス・シーズンにも似合う、スタイリッシュなパフォーマンスを決めてくれた。
再び黒いドレスに衣装チェンジした野宮真貴が登場すると、今度は二人のデュエット・パートがスタート。ピチカート・ファイヴ版の「きよしこの夜」に「サンキュー」の一節を織り交ぜた後は、リズム・チェンジがユニークな「陽の当たる大通り~ヒッピー・デイ」で盛り上げ、二人のダンスも見どころとなった「トゥイギー・トゥイギー」で一気にヒートアップした。そしてラストは「小西くんの作った曲の中で私が一番好きなラブソングです」と紹介して歌い始めた「マジック・カーペット・ライド」。これも野宮と矢舟のデュエット・スタイルでしっとりと歌い、ロマンティックな雰囲気に包まれて本編が終了した。
大きな拍手の中、アンコールが始まると、矢舟テツロー・トリオはアフロ・キューバン風のリズムを奏で始め、野宮真貴がクラクションを鳴らしながらステージに登場。誰もが待っていた代表曲「東京は夜の七時」を華麗に歌う。そして本日発表ということで、来年春にアルバムを予定していることと、ビルボードライブ東京と大阪で行われる40周年記念ライブをMCで伝えてくれた。その後は再び小西康陽が登場。「いい曲ばかりですね」というと、野宮は「おかげさまで」と返す。このなんともいえない絶妙な会話のやりとりに、ピチカート・ファイヴ時代を思い出してニヤリとするファンも多かったのではないだろうか。しかも、「最後に一緒に一曲お届けしたいと思います」と言って、「サンキュー」を野宮と小西でデュエットするというサプライズには驚くと同時に、往年のファンにとっては思わずグッと来る瞬間だったはずだ。これまでもニアミスはあったとはいえ、正式にオンステージで二人が共演するのは、通称「お葬式」と呼ばれていたピチカート・ファイヴの解散イベントまで遡るため、なんと20年ぶりだという。たった一曲とはいえ、貴重なコラボレーションを最後に、スペシャルなライブは幕を閉じた。
この日のライブの打ち出し自体は、「野宮真貴×矢舟テツロー」であり、スペシャル・ゲストとして小西康陽がDJというものだったが、期待以上の特別な一夜になったことは間違いない。しかも、三者それぞれのその後の新しい展開を予感させてくれたことも嬉しいライブだったといえる。とはいっても、マイペースな彼らのことだから過度な期待は禁物だ。今後なにかが起こるかもしれないし、なにも起こらないかもしれない。そればかりは“神のみぞ知る”といったところだろうか。ひとまず、野宮真貴は来年の春にかけて精力的にリリースやライブも行っていくことが決まっている。しばらくは彼女の動きに注目してもらいたい。
Text:栗本斉
Photo:高田真希子
◎公演情報
【野宮真貴×矢舟テツロー ~うた、ピアノ、ベース、ドラムス~】
ビルボードライブ横浜
2021年12月18日(土)※終了
◎配信情報
【野宮真貴からの“音楽のお年玉“
新春限定アンコール配信
野宮真貴×矢舟テツロー ONLINE SHOW
~うた、ピアノ、ベース、ドラムス~
2021.12.18sat. Billboard Live YOKOHAMA】
通常チケット:¥2,000
https://eplus.jp/makinomiya-st/
Club BBL会員:¥1,500
https://www.billboard-live.com/pg/membership/index.php/p/membership/m/eplus
にてログイン後、イープラスにて購入手続き。
販売期間:12/27(月)12:00~2022/1/3(月)21:00
視聴可能期間:12/31(金)15:00~1/3(月)23:59
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