国民的ロックヒロイン、LiSAのソロ・デビュー10周年を記念する全国アリーナ・ツアー【LiVE is Smile Always～LADYBUG～】は、12月8日の武道館公演をもって大盛況のうちに閉幕した。彼女は公演の最後に「また次の10年も遊ぼうね！」と約束してくれた。

　ツアーの締めくくりに2 days追加公演の舞台として選ばれた武道館は、LiSAの軌跡を象徴する場所でもある。「10年後のわたしへ」との言葉で始まったオープニング・ムービー。「元気にしていますか」「昨日は人に優しくできませんでした」「傷つかないためには、なくさないためには強くなるしかないでしょうか」……未来の自分へ向けた、謙虚で誠実な言葉が並ぶ。

　この日の天気こそ雨模様だったが、ムービーの後、ステージに現れた彼女の表情は実に晴れやかだった。ツアー最終日の先陣を切ったのは「dawn」。ボリュームのあるスカートの裾をゆらしながら円形のセンター・ステージをフルに使い、360度余すことなく歌を届ける。「迎えに来たよ武道館！」という叫びに、会場は歓声の代わりに喝采の拍手で応えた。

　「ようこそ、【LiVE is Smile Always～LADYBUG～】日本武道館ファイナルへ！　最高に楽しんでいきましょう、ピース！」と挨拶して披露されたのは、11月にリリースされたばかりの「白銀」。そのままステージに現れた太鼓を激しく打ちつければ、それはハイテンポなロック・チューン「ADAMAS」の合図。体温もテンションもぶち上がるしかないが、あくまで発声はせず、渾身の笑顔とペンライトで高揚感を示してみせるLiSAッ子たちにも脱帽だ。「ViVA LA MiDALA」ではLiSAを追うモニター映像にクロマキーの演出が加わり、MVのような世界観を構築。バンド隊との絡みやステージに寝転ぶ仕草にもドキっとさせられる。

　一度転換を挟むと、ダンサーたちのエキゾチックなダンスに誘われるようにして、玉座に座ったLiSAが再登場。細かくスリットの入ったチャイナ・ドレス姿で玉座の周囲を練り歩きながら「GL」を歌う。続いて「わがままケット・シー」のイントロが流れると照明が落ち、あたりが夜になったかのような場面転換を演出。ドレスを脱ぎ捨てセクシーな黒のレザー衣装になったLiSAは、官能的なダンスと歌唱を展開。指先まで繊細な仕草で見る者を魅了した。

　メンバー紹介を挟み、ポップ・チューン「ノンノン」へ。ダンサー陣と並んでライン・ダンス風の振付を披露すると、「妄想コントローラー」ではドラム・サンプラーを使ってオーディエンスと手拍子や足踏みの応酬を楽しんだり、バチを回してウェーブを要求したりとやりたい放題。LiSAッ子たちもこの時勢ならではの「声が出せない代わりに体を動かす」というライブの楽しみ方を心得ているようで、アコースティック・ライブ【LiVE is Smile Always～unlasting shadow～】で放たれた「新しいライブの遊び方を作ろう！」という宣言が思い出される。

　ここまで怒涛のセットリストだったが、ようやく落ち着いて話を始めたLiSA。と思えばMCの段取りを間違え、「やり直していい？」とはにかむプチハプニングに、興奮状態だった会場の空気もさすがにゆるむ。気を取り直して「会えなかったこの長い時間を、それ以上にみんなと楽しもうと思って、今回はこのセンター・ステージのどこにいても近く感じてもらえるように作りました」と話した。

　「どんどんセットリストも進化していった」と振り返る通り、このツアー中、LiSAは「HADASHi NO STEP」「往け」『明け星 / 白銀』と新曲をコンスタントにリリースし、10年の集大成を見せると同時に、立ち止まることなく進み続ける姿勢を見せている。バンド・メンバーと「あたし緊張してない！？」「全員緊張してる！」と軽快なトークを繰り広げ、ラジオのようなリラックスした空気が満ちるなか、「でも、いくつもこういう緊張を味わわせてもらいながら、10周年を迎えました！」と深く頭を下げた。

　歌詞の一節のアカペラ歌唱から始まった「シルシ」。応えるように会場のペンライトが染まれば、祈るように歌う姿が幻想的に際立つ。楽器の音がなくなる瞬間、涙をこらえ震える息を短く吐くと、万感の思いをこめてラスサビを歌い上げた。

　ゲーム実況風の動画を使ったレクリエーション・タイムを挟んだ後は、ミリタリー・ジャケット姿のLiSAとPABLOのツイン・ボーカルによる「play the world! feat.PABLO」。背中を預け合ってパワフルな男女ハモりを披露した。

　続いて、ダンサー陣とドラムのコラボ・パフォーマンス。ダンサーはステージに上がり、思い思いのパフォーマンスを繰り広げていく。ショーに湧き立った観客を見て満足したのか、LiSAは「武道館、遊び尽くすよー！！」と叫び、ライブの再開を告げる。「RUNAWAY」が始まるとセンター・ステージの外周部分が回転を始め、どんどんスピード・アップ、さらにはスモークや花火まで！　ポールに掴まっているとはいえ、LiSAは猛スピードの回転も特効もものともせず歌い上げた。

　ステージに炎がともれば、察したオーディエンスたちもペンライトを赤く切り替える。羽織をまとい、今日一番高く上がったステージの上で披露されたのは、昨年日本レコード大賞を受賞した「炎」。さらに、彼女の新境地を見せた「明け星」、ヒット・ソング「紅蓮華」と続き、息つく間もなく怒涛のアニメ『鬼滅の刃』のテーマソングを連続で紡いだ。

　ライブも終盤、しかしLiSAの表情に疲れの色はまったくなく、歌唱やパフォーマンスはむしろエネルギーを増していく。早着替えでノースリーブのレザー・ジャケットへと衣装を切り替えると、ライブの定番「ROCK-mode'18」へなだれこむ。前方にせり出たミニ・ステージへバンド・メンバーを引き連れたり、キレのあるダンスを披露したりと騒ぎまわった後は、ノンストップで「Rising Hope」。ここに来て全力疾走のような展開に、武道館の端から端まで熱狂が満ち満ちているのを感じる。

　本編最後は、エンディングにぴったりな「ハウル」。ダンサーによる激情をぶつけるような渾身のパフォーマンスと、LiSAの優しい歌唱のコントラストが印象的だった。いつまでも鳴りやまないバンド・サウンドのなか、「どんな日も、今日を超えて行け！　ピース！」とぴかぴかの笑顔とピース・サインを掲げ、本編を締めくくった。

　演者たちがステージを降りた後、モニターには「10年前の私へ」という言葉とともに、上京して初めて住んだ街・下落合でこの10年を振り返るLiSAの映像が。さらに「Believe in myself」をBGMに、過去のライブやスタジオの映像が次々と流れる。私たちの知っている彼女も知らない彼女も含めて、当時の思い出と感情を一つひとつ思い起こさせていく。

　アンコール・パート1曲目は「Letters to ME」。アルバム『LADYBUG』収録曲で、10年前のソロデビュー・ミニアルバム『Letters to U』の対となる、自分自身へのアンサー・ソングだ。当時いた場所からかなり遠い所まで来たはずだし、背負っているものの大きさは計り知れない。それでもなぜだか、いまこの曲を歌っているときだけは、一人の人間として自分自身に向き合い、のびのび歌っているように見えた。

　「みんなが会いに来てくれたこの1回1回を、大切に作ってきた1曲1曲を、毎日生きてる一日一日を。最高じゃなかったなんて思いたくなくて。みんなと生きてる今日は最高なんだって、今日もいい日だって、唱え続けてきました。ここ日本武道館で、みんなと迎えられた今日は本当に最高に“今日もいい日だっ。”って言えます。本当にどうもありがとう」

　そうした嗚咽まじりの吐露の後、涙をぬぐって放たれた「また10年後も一緒に遊ぼうね」という言葉。決して平坦ではなかったはずの道のりを経たうえで、それでもこの言葉をくれることがどれだけ嬉しいか！

　この日の、そしてツアーの大トリを務めたのは「Another Great Day!!」。映画『地獄の花園』の主題歌であり、その詞にはLiSAの「ハードでロックな10年間」を込めた曲。＜本気で生きてる貴方も本気美しい＞＜ダサくたって笑っちゃうくらいで丁度いい＞……応援歌のような歌詞がまっすぐに心に響いてくる。LiSAは手を大きく振りながらステージを360度回り、最後は高らかに終幕を宣言した。

　よほど名残惜しかったのか、すべての演目が終わった後も「イヤや、帰りたくない」と言ってなかなかステージから降りなかったLiSA。喝采の拍手を浴びながらようやくステージを降り、フロアを出る間際にもう一度マイクを受け取る。「生きててよかったって本気で思ってます。みんなと生きているこの時代がとても幸せです。一緒に遊んでくれてありがとうございました。気をつけて帰ってね。ばいちー！」と告げると、また前を向いて、もう振り返ることはしなかった。

Text by ヒガキユウカ
Photo by Viola Kam［V'z Twinkle］

◎公演情報
【LiVE is Smile Always～LADYBUG～ 追加公演】
2021年12月8日（水）
＜セットリスト＞
1 dawn
2 白銀
3 ADAMAS
4 ViVA LA MiDALA
5 GL
6 わがままケット・シー
7 ノンノン
8 妄想コントローラー
9 シルシ
10 往け
11 play the world! feat.PABLO
12 RUNAWAY
13 炎
14 明け星
15 紅蓮華
16 ROCK-mode'18
17 Rising Hope
18 ハウル
EN
19 Letters to ME
20 Another Great Day!!