2021/11/22 18:00
まさに「歌の饗宴」というべきコンサートだ。【魅惑のジャズ・ヴォーカル】と銘打たれているが、この夜の「カルッツかわさき」は、日本を代表する歌手たちが、狭い意味でのジャズにこだわらずに素晴らしい歌唱をたっぷりと披露する、とびきり豪華なパーティ会場と化した。
まずはバンドが登場して、ソニー・ロリンズの「テナー・マッドネス」を演奏、音楽監督でMCも担当するピアノの佐山こうたが開始の挨拶を述べた。バンドのメンバーは、佐山こうた(ピアノ)、三好"3吉" 功郎(ギター)、井上陽介(ベース)、大坂昌彦(ドラムス)という、日本ジャズ界でも屈指の名手たち。30曲以上を編曲し、歌手たちとのやりとりも一手に引き受けた佐山こうたの健闘ぶりには大きな拍手を送りたい。
オープニングは4人の女性歌手が次々に登場して1曲ずつを披露した。Shihoは「スイングしなけりゃ意味がない」、阿川泰子は「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、May J.は「アイ・ウォント・トゥ・ビー・ハッピー」、そして由紀さおりは日本語の歌詞で「ユー・ド・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」を歌った。そして4人がステージ前方に並び、ゴージャスなコンサートの幕開けを告げる。
4人の女性歌手をそれぞれフィーチュアするコーナーの最初はMay J.だ。黒のドレスに身を包んだ彼女は、ジョージ・ガーシュインの「誰も奪えぬこの思い」をヴァース(歌の最初にある導入部)からじっくりと歌い、続いてはオリジナル曲「Faith」、そして『アナと雪の女王』主題歌「レット・イット・ゴー」を、よく伸びるさわやかな歌声で聴かせた。続いては大御所、由紀さおりのコーナー。白いロングドレスの由紀は、フランシス・レイが彼女のために書き下ろした「恋に落ちないように」、ヴィブラフォン奏者の平岡精二の曲で、ペギー葉山のヒットで知られる「爪」、映画『ローズ』でベット・ミドラーが歌った「Rose」に映画監督の高畑勲が歌詞を付け、映画『おもひでぽろぽろ』の主題歌となった「愛は花、君はその種子」を、すべて日本語でじっくりと歌う。
3人目はShiho。黒のワンピースにブーツのShihoは、ニューオリンズの「セカンド・ライン」リズムを取り入れたオリジナル「ハッピー・ソング」でにぎやかにステージを開始した。2曲目はジャズ・ピアニストで作曲家のカーラ・ブレイの曲「ローンズ」。美しい旋律に魅了されたShihoは、友人の歌手SHANTIに英語の歌詞を付けてもらい、カーラ・ブレイ本人の許可をもらってレパートリーにしたという。そして最後はデイヴ・ブルーベック・カルテットの大ヒット曲「テイク・ファイヴ」だ。この曲の歌詞は「5分休憩して僕と話して」というナンパの歌だとShihoは言い、ソロを取る佐山と三好に「ナンパしたつもりで弾いてね」と釘を刺すのだった。
グルーヴィーなShihoで会場が盛り上がったところで、阿川泰子が濃紺のロングドレスで登場、1曲目は「マイ・フェバリット・シングス」だ。続いての「テイク・ジ・A・トレイン」は、転調を繰り返す複雑でファンキーなアレンジがおもしろい。間奏のときにステージをめまぐるしく動くアクションも絶好調の阿川泰子、自身のコーナーの最後はヒット曲「Skindo-Le-Le」でびしっと決めた。
休憩の後は、2人の男性歌手が登場する。まずは牧野竜太郎が登場して、ビリー・ポールの「ミー・アンド・ミセス・ジョーンズ」、そしてミュージカル『コーラスライン』から「ワン」を、明るい声でさらりと披露した。続いては藤澤ノリマサのステージだ。「ポップオペラ」という新しいジャンルに挑戦している藤澤は、ガーシュインの「サマータイム」をモチーフにした「One More Time」、そして自身が作曲し、松井五郎が作詞を担当したオリジナル「La Luce」を歌い、女性歌手たちと男性歌手のデュエット・コーナーへと続いた。
デュエットの最初は由紀さおりと藤澤ノリマサの「ウナ・セラ・ディ東京」、続いてはShihoと牧野竜太郎で「接吻」、三番手は阿川泰子と牧野竜太郎の「美女と野獣」、そして最後はMay J.と藤澤ノリマサで映画『アラジン』から「ア・ホール・ニュー・ワールド」。次々に歌手たちが現れて、おなじみの曲をどんどん歌ってくれるので、この辺になると聴いている方も「歌の力」にすっかり魅了されてハイな気分になってきた。
そして、いよいよ全員によるフィナーレだ。サンバのリズムに乗って阿川泰子が歌う「ムーンライト・セレナーデ」に始まり、「おいしい水」、そして「マシュ・ケ・ナダ」と続くラテン~ブラジル音楽メドレーは、歌手たちが次々に歌い、コーラスをみんなでユニゾンし、という実に楽しい構成。そしてアンコールに全員で「花は咲く」を歌い、3時間に及ぶゴージャスな歌の饗宴は幕を閉じたのだった。
素晴らしい歌唱を聴かせてくれた6人の歌手たちはもちろんだが、30曲以上を完璧に伴奏したバンドの素晴らしさも忘れてはならない。個人的には、大坂昌彦のステディで音楽的センスにあふれたドラミングに耳が釘付けになってしまった。そして再び、すべてを取り仕切った音楽監督、佐山こうたに拍手を!
Text by 村井康司
Photo by Tak. Tokiwa
◎公演情報
【魅惑のジャズ・ヴォーカル】
2021年11月3日(水・祝)
神奈川・カルッツかわさき
出演:阿川泰子、Shiho、May J.、由紀さおり、藤澤ノリマサ、牧野竜太郎(以上、Vo.)
佐山こうた(Pf.)、三好“3吉”功郎(Gt.)、井上陽介(Ba.)、大坂昌彦(Dr.)
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像