2021/08/05
昨年7月に発表した6thアルバム『ノー・プレッシャー』から1年、ミックステープとしては前作『ボビー・タランティーノII』(2018年)から約3年ぶりの新作『ボビー・タランティーノⅢ』。同シリーズは、2016年発表の『ボビー・タランティーノ』からはじまり本作で3部作が完結=最終章となる。トータル・プロデュースは、これまでの作品を手掛けてきたシックス(6ix)が担当。発売日の7月31日までには、1週間毎に4曲連続でシングルがリリースされている。
“I’m Back”の宣言通り、この短いオープニングだけで「ロジックが戻って来た」と実感させてくれるローファイ・ビートのイントロ「Introll」から、第一弾『ボビー・タランティーノ』(2016年)のリリース5周年目となる7月初頭に発表した1stシングル「Vaccine」で、アルバムは幕開けする。「Vaccine」は、ビースティ・ボーイズの「The New Style」(1986年)をサンプリングした男子受け必須のヒップホップ/トラップで、尺は短いがお得意の高速ラップも披露している。ワクチンの普及を自身の復活にかけた(ともとれる)リリックもロジック節が健在。
2ndシングルの「Get Up」は、アコースティック・ギターとエコーをきかせたコーラスが後ろですすり泣くミディアム・メロウ。困難な時期をファンや家族、チームの支えによって乗り越えられた…という感謝の意が綴られている。ラップを用いずボーカルをメインとした3rdシングルの「My Way」、Dwn2earthというシンガーがコーラスで参加した最新シングル「Call Me」……と、3曲ミディアム~スロウが続く。
ポップにクロスオーバーした「My Way」は、往年のファンからの評価はイマイチのようだが、これまでの作風とは一線を画す目新しさがある。「Call Me」も前作とはテイストの違うアーバンな雰囲気のヒップホップ・ソウルで、ロジックの名前を世に広めたブレイク曲「1-800-273-8255 feat.アレッシア・カーラ&カリード」(2017年)の続編的な、人生に行き詰っているリスナーへの“救いの手”を差し伸べるメッセージが込められている。
シングル3曲に続き、キャリアにおける苦悩を露わにしたナインティーズ感覚の次曲「Inside」~妻への想い諸々を歌ったトラップ・メロウ「Flawless」と、中盤まで落ち着いたトーンで展開する。「Inside」で力強く美しい歌声を響かせるのは、ブロードウェイでも活躍する英国出身の女優/シンガー=シンシア・エリヴォ。後半は彼女が主役というべく圧倒的な歌唱力・存在感で締め括る。「Flawless」は以前一部を公開した際に話題となった人気曲で、正式にリリースされた完成形の評価も高い。
ゆるやかなサウンドから少しずつテンポを上げ、後半はヒップホップらしいアップが続く。「ビギーとGZAを聴いて育った」というラッパーらしい(?)フレーズが登場する「Theme for the People」ではJ.コールの「High For Hours」(2017年)、エミネムを彷彿させるリリック&フロウもみられる「God Might Judge」ではドレイクの「Nice For What」(2018年)そっくりにパフォーマンスし、偉大なるスター等への敬意を伺わせた。「God Might Judge」では、「Breakin' My Heart (Pretty Brown Eyes)」などのヒットを輩出したR&Bユニット=ミント・コンディションの「U Send Me Swingin'」(1993年)をサンプリング・ソースとして使用している。
グラミー賞への批判からはじまり、社会情勢の悪化・治安についても触れた「See You Space Cowboy...」では、アウトロで愛息との初共演も実現。そこには、ヒップホップに対する情熱、家族やファンへの愛情、平和への願い等がオールドスクール・ヒップホップに乗せて語られている。かつてのア・トライブ・コールド・クエストのようだ。そして最後は、原点回帰ともいえる最もロジックらしいナンバー「Untitled」で希望を見出し、次作に繋げる。賛否はあるかもしれないが、最終章を飾るに相応しい密度の濃いアルバムだった。
米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”での功績を振り返ると、スタジオ・アルバムは1st『アンダー・プレッシャー』(2014年)が4位、2ndアルバム『インクレディブル・トゥルー・ストーリー』(2015年)が3位、3rdアルバム『エブリバディ』(2017年)で初のNo.1獲得を果たし、惜しくも2位どまりだった4thアルバム『YSIV』(2018年)から5thアルバム『コンフェッション・オブ・ア・デンジャラス・マインド』(2019年)で2作目の首位に復帰。最高2位を記録した『ノー・プレッシャー』(2020年)含め、6作全てがTOP5入りしている。
2016年発表のミックステープ『ボビー・タランティーノ』は同チャート12位どまりだったが、2部作『ボビー・タランティーノII』(2018年)はBillboard 200、R&B/ヒップホップ・アルバム、ラップ・アルバムの主要3チャートで1位に輝いている。本作で4作目の首位獲得なるか、シリーズ有終の美を飾る功績も残していただきたい。
Text: 本家 一成
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像