2021/07/30
「From Tokyo To The World」を掲げ、RADIO FISH「PERFECT HUMAN」など手掛けてきた楽曲群のYouTube総再生数は1億回以上。独自のCity Musicを発信し続けるDJ/アーティスト/音楽プロデューサーのJUVENILEが、7月30日に『フリースタイルダンジョン』2代目モンスターでもあった人気ラッパー・輪入道をフィーチャリングした新曲『Pick Up feat. 輪入道』を配信リリース。このタイミングで音楽シーンやヒップホップシーンについて語るインタビューに応えてくれた。ぜひご覧いただきたい。
◎JUVENILE『Pick Up feat. 輪入道』配信記念インタビュー
<日本と韓国の音楽シーン「音楽だけで見たときに差が生まれた」>
--前回のインタビュー(https://bit.ly/3rECSJO)では、JUVENILEさんの音楽人生について語って頂いたので、今回はJUVENILEさんの目から見た日本の音楽シーン、そして『Pick Up feat. 輪入道』リリースタイミングということで、日本のヒップホップシーンについて語って頂きたいと思っております。
JUVENILE:「邦楽より洋楽のほうが良い」みたいな時期ってあるじゃないですか。「やっぱり本場は格好良いな、それに比べて日本は……」みたいな。でも今を切り取ってみると、めちゃくちゃ邦楽が面白いなと思っているんですよ。かなりレベル高いことをしている人たちがちゃんと評価されていますし。少し前まではダンス&ボーカルグループが増え過ぎて飽和状態になっていましたけど、そこから比べると今はバンドやシンガーソングライターで凄い人たちが台頭してきていて、SIRUPさんとか、Nulbarichとか、Official髭男dismとか、King Gnuとか、Tempalayとか「面白いな、格好良いな」と思っていて。
--たしかにハイレベルな音楽で評価されている人たちが増えてますよね。
JUVENILE:ヒップホップはヒップホップでUSの本線を踏襲している人もいれば、USのメインストリームじゃない流れで格好良い人もいっぱいいるし。振り返ってみると「90年代のJ-POP最高に良いじゃん」みたいな感じがあったんですけど、00年代中盤ぐらいから邦楽の印象が薄くなってしまって。それは僕が思春期で洋楽ばかり聴いていたこともあると思うんですけど、海外でEDMが全盛だったりして、それに比べて日本では凄いEDMのアーティストはあんまり育たなかったじゃないですか。言葉の壁や文化の違いがあったからだと思うんですけど、日本はどちらかと言えばフェス文化だからウルトラみたいなレイヴは主流にならなくて。若干ダーティーなイメージがあるんですかね。海内だとEDMのイベントはフジロックみたいに受け入れられているけど、日本だとパリピというか不良が騒いでいるイメージだったのかもしれない。
--局地的な盛り上がりで収まっている印象はありましたよね。
JUVENILE:そんな中でBIGBANGをはじめ、韓国から実力派ダンス&ボーカルグループがどんどん日本でも爆発的な人気を誇るようになっていって、気付いたら「日本、厳しいな」みたいな状況になっていたんですけど、今はそこからだいぶ盛り返しましたよね。ダンス&ボーカルグループというジャンルではなかなかK-POP勢に敵わない部分はあると思うんですけど……
--日本のアイドルムーヴメントから派生した無数のダンス&ボーカルグループの台頭と、韓国のK-POPムーヴメントから派生したソレでは成り立ち方も違いますし、求められているクオリティも違いますよね。
JUVENILE:どっちが上手くいったかは結果論でしかないんですけど、その過程として韓国の人たちは「売れる為にはどうしたらいいか」と考えたときにパフォーマンスをめちゃくちゃ突き詰めたんですよね。でも日本の人たちはそうじゃなかったのかなと思います。どちらかと言うと「分かりやすい」とか「親しみやすい」みたいなベクトルに向かっていきましたよね。それはアイドル文化の違いだと思うんですけど、山口百恵さんとか元祖アイドルは「本当に存在しているのか?」みたいな感じで、テレビの向こう側の存在だったじゃないですか。今の韓国のダンス&ボーカルグループはそっち側だと思うんですよ。でも日本は「もっと身近な存在にしよう」という考えにシフトしていった。それはそれで正義があって素晴らしいエンターテインメントだと思うし、誰もがアイドルになれる可能性がある文化にしたわけですからね。ただ、それが結果として、総合的なアイドルとしてのクオリティは分からないですけど、音楽だけで見たときに差が生まれちゃったのかなって。
<J.Y. Parkさんを見る度に「つんく♂さんだな」>
--事実、韓国のアイドルは世界中で高い評価を得てますからね。
JUVENILE:僕は音楽屋さんなんで、音楽に限って言えば間違いなくそこに差はある。これは認めなきゃ絶対にダメだと思うんですよ。そうなった理由は、完璧なパフォーマンスをストイックに突き詰めていくことで売れると思っているか、みんなとワイワイしながらファンと一緒にストーリーを楽しむことを大事にしているかの違いですよね。ただ、後者の日本のスタイルのほうが根強いファンも付くし、ソロになっても応援されやすいとは思うんですよ。そこは強みだと思います。韓国のスタイルの弱点は短命なところなんですよ。物凄く篩いにかけているので、そこから落ちた人たちの闇が韓国は深い。スポットライトを絞って良いところだけ見せているので、必ずそこから振り落とされた人たちの闇は生まれるんですよね。ただ、それぐらい実力至上主義なので、音楽的な差がこんなにも生まれてしまったんだろうなと思います。
--そこはどうしたら逆転できると思いますか?
JUVENILE:それはひとえに「僕ら世代に懸かっているのかな」と思います。同年代で集まるといつも「僕らが頑張らなきゃダメだね」ってめっちゃ言ってます。僕らがこの10年頑張って40代になった頃には、たぶん影響力を持っていると思っているんですよ。J.Y. Parkさんが今50歳手前ぐらいじゃないですか。ということは、僕らがそれぐらいの年代になったときにどうなっているか次第だと思うので。で、僕らの下の世代は音楽プロデューサーじゃなくてアイドルそのものなんですよ。その子たちは誰に憧れているかと言ったら、BTSやTWICEだと思うんです。日本のアーティストじゃないんですよね。その状況は甘んじて受け入れなきゃいけない。
--その状況下で、JUVENILEさんはどう立ち回りたいと思っているんでしょう?
JUVENILE:「ダンス&ボーカルグループをプロデュースしてくれ」と言われたら、やっぱり仮想敵としてBTSは掲げると思うんですよ。今、BTSって雲の上の存在じゃないですか。だから何もかも規模が違うと思うんです。でも一矢報いる為にせめて音楽のクオリティだけでも噛み付いていかなきゃいけないなって。そこは抗いたいですよね。僕は2.5次元のアイドリッシュセブン(アイナナ)の楽曲は作らせてもらっていて、彼らはアニメのアイドルグループなんですよ。それはたぶん韓国にもないし、香港にもないし、日本だけの強いマーケットだと思うんで、そこで音楽で戦うのはアリだなと思っています。厳しいオーディションをやって、養成所で共同生活させて、生身の人間でそういうプロジェクトをすぐやるのが難しいのであれば、そういうソフトのパワーに頼るのはアリなのかなって。
--日本の音楽をどうやって高めて世界と戦っていくか。そういう意識って誰もが持っている訳じゃないので、話を聞いていてワクワクしてきました。
JUVENILE:僕は先頭集団にいる自覚を勝手に持っているんで(笑)。
--小室哲哉さんは90年代後半からずっとそういう意識で戦っていたわけじゃないですか。アイドル文化の中で言えば、つんく♂さんもそうですよね。J-POPがどうすれば世界に受け入れられるのか考え続けてきた。
JUVENILE:僕、J.Y. Parkさんを見る度に「つんく♂さんだな」って思うんですよ。『ASAYAN』という番組の中でオーディションをやって、デビューするタイミングでもうファンがついているシステム。だからJ.Y. Parkさんが今やっていることを見ていると「昔のモーニング娘。だな」って思うんですよね。
<小室哲哉を筆頭にかつて日本が得意だったもの>
--そういう日本のエンタメのシステムやアイデアって今かなり韓国で踏襲されていますよね。
JUVENILE:日本が『ASAYAN』とかやっているときに、J.Y. Parkさんとか「悔しい」と思っていたんじゃないですか。J.Y. Parkさんとつんく♂さんってそんなに年齢が離れていないと思うし「なんで日本でコレがやれて、韓国ではコレがやれていないんだ」と思ったはずなんですよ。そういう歴史があった上で逆転されて、今は僕らが「なぜ20年前に出来ていたことが今出来ていなくて、隣の国でここまでやられちゃっているんだろう」って悔しい想いをしている。そう考えると「すごく良い関係だな」って思いますよね。本当に結果論なんですけど、日本は止まっちゃっていて、韓国は進み続けていた。で、今は僕らが「頑張らなきゃ」と思っているわけで。
--音楽以外でも、例えば『梨泰院クラス』はかつて日本で大ヒットしたあらゆるドラマのミクスチャーであり、リアレンジだったりするじゃないですか。それを今の韓国のクオリティで表現してみせた結果、日本でもムーブメントが起きるという流れでしたよね。
JUVENILE:それってかつて日本が得意だったんですよ。小室哲哉さんはまさにそうだったと思うんですよね。スーパーパワフルなゴスペルとかユーロ系のダンスミュージックを日本にローカライズして、しかも独自の転調とか加えて面白くするっていう。でも今はそれを逆に韓国にやられちゃっている。今の日本はバンド系は面白いと思うんですよ。ただ、ダンス&ボーカルグループで言うと、僕がお仕事をもらえるようになった時期ぐらいからリファレンスがK-POPになったんですよね。その状況を見て「これは決定的だな」と思いました。作る前から下に入っちゃっているわけじゃないですか。だから僕は今二次元で戦うのはアリだし、面白いと思っています。日本独自のカルチャーだし、そこに逆転のチャンスがあるんじゃないかなって。
--前回のインタビュー(https://bit.ly/3rECSJO)で、何かひとつのジャンルに絞ったほうが「○○の人」と分かり易く捉えてもらえるかもしれないけど、それでも自分は「全ジャンルのリスナーに音楽を発信したい」と仰っていましたが、今回のインタビューで話してくれたことを実現する為にも、それはJUVENILEさんに適した選択だったんだなと思いました。狭いジャンルで戦うタイプではない。
JUVENILE:常に迷ってはいますけどね。そう宣言しても「本当にこれでいいのかな」と揺れますし、でも「いやいや、そうじゃない。あのときインタビューでも言ったし」みたいな(笑)。そうやって保っているんですけど、また最近面白いことがあって「何かひとつのラインに乗って、その色を抜くほうが大変だ」って言われたんです。その考え方は今までなかったので「なるほどな」と思って。例えば、2.5次元の舞台系で物凄く人気者の役者になったときに、そこからドラマとか映像の役者にシフトするのって難しいらしいんですよ。たしかに色を付けたほうが売れやすいんだけど、その色を抜くのは物凄く大変っていう。で、今の僕はすべての色が薄いと思っているんですね。ダンス&ボーカルグループを作るプロデューサーの色も薄ければ、ヒップホップやアニソン系の色も薄い。何かひとつに集中すればその色を濃くできるけど、それだと後々他のことがやれなくなる。であれば、すべてにちょっとずつ色を付けていこうかなって。
--その全方位型スタイルこそがJUVENILEさんの色ですよね。
JUVENILE:なぜそうしようと思ったかと言うと、同年代の躍進が凄いんですよね。例えば、ボカロ系に振り切っているTeddyLoidは物凄いし、ヒップホップ系で松たか子さんとコラボするまでに至ったSTUTSくんも凄いし、そういう彼らの活躍ぶりを見ていると「自分は何も持っていない」という気になっちゃうんですけど、よくよく考えたら全方向に少しずつ持っている。それを全部合わせたら相当な数になる。そう思って精神を保っています(笑)。十種競技を極めていく感覚ですね。
<輪入道とのコラボ「昔から物凄く良い奴なんですよ」>
--その十種競技のひとつ、ヒップホップに2021年は力を入れていますよね。そこで伺いたいのですが、JUVENILEさんから見た現在の日本のヒップホップシーンはどんな風に映っているんでしょう?
JUVENILE:どんどん枝葉が分かれていっているなと思います。高校生RAP選手権から派生した「ラップはオートチューンがかかっているもの」と思っている10代~20代の若い子たちもいれば、それこそ輪入道くんとか、Creepy Nutsとか、呂布カルマさんとかバトルシーンから台頭してきたラッパーたち。『フリースタイルダンジョン』含めてそこのシーンは熱いですよね。それとは別にSTUTSくんとか、PUNPEEさんみたいなオシャレで洗練された人たちのシーンも盛り上がっている。
--そんな状況下で、前作『ミラールージュ feat.Liyuu』に続いて今度は『Pick Up feat. 輪入道』をリリースすることになりました。輪入道さんをフィーチャリングした経緯を伺ってもいいですか?
JUVENILE:まずエレクトロからのヒップホップをやりたかったのは、このまま進んでいくとエレクトロ特化系の人になっちゃうと思ったので、元々自分の中に持っている音楽要素であるヒップホップをここで打ち出したかったんです。でもヒップホップは一大ムーヴメントが出来ているので、わりと覚悟を持って入っていかないといけない。その中で輪入道くんは同じ歳で10代から知り合いなんで、ブースト役として「力を貸してくれませんか?」と。彼は本物じゃないですか。まわりの仲間からは「Liyuuの次、輪入道? 落差凄くない?」と言われたんですけど(笑)それもアリなのかなと思って。
--輪入道さんってバトルでも相手に敬意を表した上で勝っていくスタイルですし、めちゃくちゃラップに対して純粋じゃないですか。JUVENILEさんはどんな印象を持たれていますか?
JUVENILE:僕はギャルだと思っているんですけど(笑)。真っ直ぐでピュアじゃないですか。ゆえにギャルは必要以上に女の武器を全面に打ち出しているイメージなんですけど、輪入道くんも男がより男らしくしている。だから見た目は怖そうなんだけど、めちゃくちゃピュアですよね。昔から物凄く良い奴なんですよ。悪い話は聞いたことがない。彼の「俺はやる」を聴いてもブレてないなと思いましたし、昔から変わらない。17,8歳ぐらいからの知り合いなんですけど、彼は千葉の人間なんですよ。で、僕は東京の江戸川区出身なんで、物理的に近い距離に暮らしていたこともあって、同じイベントに出演する機会も多くて。その頃からずっと熱い男なんですよ。で、今回の『Pick Up feat. 輪入道』はその熱い男が熱いトラックでラップしても今までのイメージ通りだから、敢えて綺麗なトラックをぶつけることにしたんです。
--フィーチャリングアーティストの新しい一面を引き出しつつ、本質にも迫っていく感じはまさしくJUVENILE節だなと思いました。
JUVENILE: 輪入道くんはもちろんヒップホップの人なんですけど、マインドはロックだなと感じていて。ヒップホップとロックって根底は一緒だと思っていて、抑圧からの反発みたいな。その中でも彼は竹原ピストルさんのような泥臭い雰囲気を纏っていると思っていて。ただ、それをそのままの文法でやってしまったら面白くないなと思って、今回は今までの彼のイメージにない音楽をやりたかったんです。彼も「それがいい。どうせ一緒にやるなら自分の色にないことをしたい」と言ってくれたので。で、僕のスタジオに来てもらって「どういう曲にしようか」といろんな曲を流しながら話し合ったときに、若い子たちがやっているメロラップみたいなアプローチ。それを32歳のおじさんたちがやったらどうなるかっていう。結果的にラップは熱く、トラックは優しく。で、彼は結婚して子供も最近生まれていて、その中での心境の変化を歌ってくれているんで、輪入道ファンの人たちからしたらかなり新鮮な曲になっているんじゃないかなと思いますね。
--そんな新曲『Pick Up feat. 輪入道』の反響も楽しみなJUVENILEさんなんですが、今回のインタビューを通してひとつ気付いたことがありまして。JUVENILEさんって負けず嫌いですよね?
JUVENILE:そうなんですよ! 本当はそうなんですけど、あんまりそういう風に見られなくて。逆に「みんなでハッピーにやろうよ」と思っているマジメな人みたいな印象を持たれがちなんです。何でも出来る優等生キャラみたいな。でも実際は「全部の椅子を奪いたい」「全ジャンルにおいて負けたくない」と思っている貪欲な奴なんですよ。だから今後はそこもしっかりアピールしていこうと思っています。しっかりと全ジャンルにケンカを仕掛けていく。なんか戦闘狂キャラみたいになっていますけど(笑)、まず2021年はヒップホップで戦っていく。この先もいろんなスタイルのラッパーたちをフィーチャリングしていこうと思っていますし、ディスコファンク的なアプローチも織り交ぜていけたら面白いかなって。去年リリースしたアルバム『INTERWEAVE』がエレクトロだったんで、今年は僕なりのブラックミュージックを突き詰めていきたいなと思っています。
Interviewer:平賀哲雄
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