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2021/06/07

<ライブレポート>神はサイコロを振らない 4人の誇りが証明されたワンマン東京公演

 今年3月にメジャー・ファースト・シングル『エーテルの正体』をリリースした4人組ロックバンド、神はサイコロを振らない(以下、神サイ)が、待望のワンマン・ツアー【Live Tour 2021「エーテルの正体」】を地元である福岡のZepp Fukuokaを皮切りに、計5都市で行った。筆者が訪れたのは5月30日の東京公演。会場となる Zepp Tokyoでは、新型コロナウイルス感染拡大予防対策としてマスクの着用が義務付けられ、座席を配しての鑑賞となった。

 定刻になり客電が落ちると、幕が突如舞い上がり、そこに照明が当てられまるで『エーテルの正体』のアートワークのような、幻想的な光景が目の前に繰り広げられる。思わずうっとりとしていると、アンビエントなエレクトロミュージックと共にメンバー全員が現れ客席からは大きな拍手が巻き起こる。まずは『エーテルの正体』の収録曲で、日本テレビ新春ドラマ『星になりたかった君と』の主題歌にも起用された「クロノグラフ彗星」から、この日のライブはスタートした。

 イントロが鳴り出した瞬間、客席は総立ちに。激しいタテ乗りのリズムに乗せて全員が拳を宙に振り上げ、4人のバンドアンサンブルに全身で応えている。2階席から眺めるその光景ももちろん壮観だったが、ライブハウスを揺らすほどの荒々しい爆音を久しぶりに体全身で浴びて、その空気の振動に鳥肌が立つほどの感動を覚えた。「そうだ、ロックバンドのライブってこうだったよな……!」と心の中で叫んだのとほぼ同時に、ボーカルの柳田周作が「最高の景色!」と客席に向かって満面の笑みで呼びかけていた。

 間髪入れずに「揺らめいて候」。柳田がテレキャスターを抱え、ジャキジャキと宙を切り刻むようなカッティングで客席を煽ると、吉田喜一(ギター)も負けじと高速パッセージで楽曲を彩っていく。黒川亮介(ドラムス)による力強い4つ打ちキックと、どこか「和」のテイストを感じさせる切ないメロディ、狂おしくも官能的な柳田のハイトーンボイスと、ファンクのリズムをベースにしつつも異質な要素がごった煮になった、彼ららしいアレンジによって一気に「神サイ・ワールド」へと引き込まれる。

 昨年11月に配信されたデジタルEP『文化的特異点』収録の「遺言状」も、インダストリアルなビートとファンクやソウルのアレンジを融合させた、神サイならではの楽曲。かと思えば続く「泡沫花火」は、シンプルなピアノをバックに柳田が切々と歌い上げる、彼ら得意のバラードだ。感情の赴くままに熱唱しているようで、息継ぎまでもメロディの一部のようにコントロールする柳田の表現力に、思わず唸らされる。また、糸のように細いレーザー光線がステージ後方から無数に放たれ、バンドとオーディエンスを繋ぐようなその心憎い演出も感動的だった。

 ステージに設置された台に柳田と吉田がそれぞれ座り、まるで部屋でセッションでもするかのように息を合わせて始まった「胡蝶蘭」。この曲も「揺らめいて候」と同様、オリエンタルで美しいメロディが郷愁を誘う。中盤のMCでは、即席ラーメンとキュウリで空腹を凌いでいたデビュー前のエピソードを交えながら、神サイの歴史を懐かしそうに語っていた柳田。「これからも、このクソガキ4人をよろしくお願いします!」と全員で深々と頭を下げると、フロアは温かい拍手に包まれる。

 「僕らはまるで情緒不安定みたいなライブをやってますけど……」と話して笑いを取っていたが、事実ライブ後半は「プログレ・ミクスチャー・デジタルロック」とでも言うべきアグレッシヴな「解放宣言」から始まり、音源よりもパワフル且つヘヴィなアレンジになった「パーフェクト・ルーキーズ」と、まるでジェットコースターに乗っているかのような緩急自在の展開で、オーディエンスの感情を揺さぶりまくっていた。

 ミドルテンポのグルーヴィーな「ジュブナイルに捧ぐ」を挟んで届けられたのは、「夜永唄」とそのアンサーソングである「プラトニック・ラブ」。2020年という、誰もが閉塞感を覚えていた中で柳田が綴った孤独に寄り添うような2曲の歌詞が、今こうして多くのファンと共に「共有」されている光景に胸が熱くなる。

 「今日、(コロナ禍で)勇気を持ってライブを観に来てくれた皆さんは、音楽を愛していることを誇りに思ってください。僕はね、求めてくれるなら何度だって曲を書き続けるし、何回だってライブをしたいと思うし、この4人でできる限り音を鳴らし続けたいと思う。僕らは皆さんに愛をぶん投げます。ぶん投げるので、どうか打ち返してください、愛を!」

 そう柳田が叫び、「1on1」のアップテンポなイントロが鳴り始めると、自然発生的にハンドクラップがフロアから立ち上がる。続く「未来永劫」のエンディング、シンガロングの部分では柳田が「心の中で!」とフロアに呼びかけ、声こそ出せないものの全員の心が一体となったことを、ひしひしと肌で感じる。本編最後は「巡る巡る」。ダンサブルなリズムに合わせて吉田と桐木岳貢(ベース・キーボード)がぴょんぴょんとジャンプすると、会場は再びハンドクラップに包まれた。

 鳴り止まぬアンコールの中、「illumination」を含むアンコールを2曲披露しこの日の公演は全て終了した。様々な音楽スタイルを貪欲に取り込みながら、あくまでも4人組バンドのフォーマットで鳴らし続ける神サイの、「ロックバンド」としての矜持をひしひしと感じる一夜だった。


Text by 黒田隆憲
Photos by MASANORI FUJIKAWA

◎セットリスト
※5月30日東京公演
1. クロノグラフ彗星
2. 揺らめいて候
3. 遺言状
4. 泡沫花火
5. 胡蝶蘭
6. 解放宣言
7. パーフェクト・ルーキーズ
8. ジュブナイルに捧ぐ
9. 夜永唄
10. プラトニック・ラブ
11. 1on1
12. 未来永劫
13. 巡る巡る

◎配信情報
【Live Tour 2021「エーテルの正体」at Zepp Tokyo】
2021年6月26日(土)20:00~、「LIVE SHIP」「SSTV LIVE WIRE」でオンライン配信
kamisai.jp

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