2021/06/01
現地時間2021年4月9日、薬物の過剰摂取による心臓発作で死去したDMX。享年50歳という若さでこの世を去ったレジェンド・ラッパーには、新旧様々なアーティストたちが追悼コメントを寄せている。
DMXの所属レーベル<デフ・ジャム>は、「DMXは世界中のファンとアーティストにインスピレーションを与え、曲を通じたメッセージや優しく誠実な人柄が、我々を向上させてくれました。伝説は永遠に生き続けるでしょう」というメッセージを発表。DMXのプロデューサーとして長年作品に携わってきた友人のスウィズ・ビーツも、「音楽と家族、そしてファンに人生を捧げた最も純粋な魂の持ち主」と称えた。
そのスウィズ・ビーツがエグゼクティヴ・プロデューサーを務めたDMXの遺作『エクソダス』は、2012年9月にリリースした前作『アンディスピューテッド』から約9年ぶり、デフ・ジャムからは2003年9月にリリースした5thアルバム『グランド・チャンプ』以来18年ぶりのリリースとなる、通算8作目のスタジオ・アルバム。タイトルのエクソダス(Exodus)は息子のエクソダス・シモンズから拝借したもので、カバー・アートはこれまでいくつかの作品を手掛けた写真家のジョナサン・マニオンが担当した。
4thアルバム『ザ・グレイト・ディプレッション』(2001年)以外、全てのアルバムにフィーチャリング・ゲストとしてもクレジットされているスウィズ・ビーツは、本作でも「That's My Dog」と「Dog's Out」の2曲に参加。前者は、ラフ・ライダーズ所属のザ・ロックスも加わったオープニングに相応しいど派手なギャングスタ・ラップで、ロックスのメンバーでもあるジェイダキスもソングライターとして参加している。後者は、20年来の友人でもあるリル・ウェインとのトリプル・コラボで、重圧感のあるヒップホップ・トラックと両者のバウンスしたラップが強烈。
スウィズ・ビーツの妻でR&Bシンガーのアリシア・キーズがボーカルを務めた「Hold Me Down」も、聴き手の記憶に残るインパクトある一曲。ピアノを基とした米ニューヨークらしい都会的なトラックに、DMXの攻撃的なラップとアリシアの滑らかなボーカルを絡ませた構成は、彼女の代表曲「Empire State Of Mind」(2009年)っぽくもあり、故アリーヤとのコラボレーション「Come Back In One Piece」(2000年)も彷彿させる。後者はアリーヤ主演の映画『ロミオ・マスト・ダイ』のサウンドトラックに提供したタイトルで、本作にはDMXも俳優として出演した。
その「Empire State Of Mind」で共演したジェイ・Z、ナズの東海岸ヒップホップのアイコン2人を招いた「Bath Salts」も、90年代の米ニューヨーク・サウンドに回帰した傑作。ナズとジェイ・Zは、先日リリースされたDJキャレドの新作『キャレド・キャレド』収録の「Sorry Not Sorry」でも共演し、不仲説を払拭させたことが話題を呼んだ。「Bath Salts」は、そもそもナズの11thアルバム『ライフ・イズ・グッド』(2012年)のために作られた曲だそうで、今作をリリースするにあたり両者が焼き直し、完成させたのだそう。ヒップホップ全盛期に頂点を極めた3者によるこの曲、クオリティが如何なものかは言うまでもないが、略すると本物此処に在りといったところか。ナズは、コン・アーティスも加わったレトロ&メロウ「Walking in the Rain」の2曲にクレジットされている。
90年代を代表するラッパーとのコラボレーションでは、スヌープ・ドッグをフィーチャーした「Take Control」という曲もある。同曲は、DMXのお気に入りだった故マーヴィン・ゲイの「Sexual Healing」(1982年)を下敷きにしたメロウ・チューンで、両者のパートも“らしさ”がひと際立っている。DMXは、デビュー作『イッツ・ダーク&ヘル・イズ・ホット』(1998年)の最後に収録された「Niggaz Done Started Something」でもマーヴィンの「Mercy, Mercy Me (The Ecology)」(1971年)をネタ使いしていた。スヌープとは、2012年リリースの「Shit Don't Change」以来の共演。
その「Shit Don't Change」を一部使用した4曲目の「Money Money Money」には、米テネシー州メンフィス出身のラッパー=マネーバッグ・ヨーがゲストとして参加している。本作の中では最年少アーティストとしてのクレジットで、若手ならではの勢いを上手く応用したハードコアに仕上がっている。もともとは、昨年2月に20歳という若さでこの世を去ったポップ・スモークのヴァースが使われる予定だったが、権利上の問題でマネーバッグ・ヨーに変更されたという経緯がある。
U2のボノによるボーカルが哀愁漂う「Skyscrapers」と、アッシャーとブライアン・キング・ジョセフをフィーチャーした、バイオリンとピアノが切なく響く息子ザビエルに捧げた「Letter to My Son (Call Your Father)」の2曲は、本作のコンセプトに寄り添った核となるナンバー。テイストは違うが、ウエストサイド・ガン、ベニー・ザ・ブッチャー、コンウェイ・ザ・マシーンが参加したリード曲「Hood Blues」も、それぞれの人生模様が画かれた遺作に相応しい曲といえる。「Hood Blues」には、マッドリブ率いるルートパックの「Answers」(1999年)ネタでも有名なリー・メイソンの「Shady Blues」がサンプリングされている。
アルバムの最後を締めくくるのは、2019年4月にDMXも参加したことのあるカニエ・ウェストの「サンデー・サービス」を引用した「Prayer」。少々こじつけ感はあるものの、かつてのDMXらしいサウンド・プロダクションの作品といえる。参加した面々もネタに使われた曲まで、DMXの出身であるニューヨーク・テイストで溢れているのもいい。ラフ・ライダーズの共同設立者=ダリン・“ディー”・ディーンが「最高傑作の一つ」と絶賛したのも納得。
DMX(本名アール・シモンズ) は、1970年12月18日生まれ、米メリーランド州出身。幼少期に米ニューヨークへ移住し、DJとしてキャリアをスタートした後14歳でMCに転身した。1997年に客演したLL・クール・Jの「4, 3, 2, 1」で注目され、翌98年にリル・キムと参加したザ・ロックスの「Money, Power & Respect」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で17位の大ヒットを記録。その勢いに乗せてリリースした同年のデビュー・アルバム『イッツ・ダーク&ヘル・イズ・ホット』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”でいきなり首位デビューを果たし、2ndアルバム『フレッシュ・オブ・マイ・フレッシュ、ブラッド・オブ・マイ・ブラッド』、3rdアルバム『そして、Xが残った…』、 4thアルバム 『ザ・グレイト・ディプレッション』、5thアルバム『イッツ・ダーク・アンド・ヘル・イズ・ホット』までの5作が、 Billboard 200とR&B/ヒップホップの両チャートで5作連続の初登場1位を記録した。
Text: 本家 一成
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