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<わたしたちと音楽 Vol. 46>和田彩花 アイドルとフェミニズムの間で考えていたこと

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回のゲストは、アーティストとして活動する和田彩花。ハロー!プロジェクトのアイドルグループ・アンジュルムのメンバーとして活動したのちに独立し、今は音楽活動を続けながら、自身の好きな美術やフェミニズムについても積極的に発信している。アイドル時代の違和感から解き放たれ、自由に発言する機会を得た彼女は今何を感じているのか。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Megumi Omori)

アイドル時代に感じていた、
“女性らしさ”への違和感

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――和田さんは15歳からアイドルとして活動していらっしゃいますが、どうしてその道を歩むことになったのでしょうか。

和田彩花:小学4年生のときに、ハロー!プロジェクトのオーディションを受けて、研修生からスタートしました。5年間研修活動をしたのちに、2010年にスマイレージとしてデビュー。その後、アンジュルムと名前を変えたそのグループで、リーダーも経験しました。


――アイドルを志していたときには、やっぱりアイドルへの憧れみたいなものがあったのですか。

和田:それが、アイドルを志したことはないんですよ。お父さんが親バカで、「うちの子は可愛いからどこに出しても大丈夫」って感じで、勝手にオーディションに応募していて。私は人見知りだし恥ずかしがり屋だし、「ステージに立って歌って踊るなんて無理!」と思って中学生になったら辞めようと思っていました。でも、親に怒られたくないな、と思っているうちにデビューが決まって、気が付いたら引き返せないところまで来てしまっていましたね。デビューしたら環境が変わって、関わる人も増えて、責任感が芽生えました。「自分たちのためにお金を払ってくれている人がいる限りは、失敗しないようにやらないと!」という気持ちでしたね。


――意図せずアイドルという役割を担ったということかと思うのですが、周囲が求めるアイドル像には馴染めたのでしょうか。

和田:“アイドルらしさ”という言葉は、“女性らしさ”と意味合いが重なるんですよ。足は組まずに閉じていないといけない、ずっと笑顔でいなきゃいけない、自分の意見を言える空気は当然のようになくて、政治や宗教の話なんて御法度。社会での旧来的な性別役割分担意識が根強く残っているのを感じて、“アイドルらしさ(=女性らしさ)”を求められることで、自分の中で違和感が積み重なっていきました。だから、それをどうにかして乗り越えなくてはいけない、そうしなければ自分として生きていけない、と思いながらアイドルを続けていました。


大学でフェミニズムを学んで
違和感の正体をつかんだ

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――“女性らしさ”への違和感自体は、アイドルとしての活動以外でも感じることはありましたか。

和田:それまでは、仕事があるときに地元から東京に上京していたのですが、大学進学に合わせて住まいを東京に移しました。そこから社会に投げ出された感覚があって、女性という自分の性を意識させられることが多くなりましたね。女子大に通っていたので、異性の目を気にせずに好きな格好をしていたのですが、ピンクや花柄の洋服を着ていると夜道で声をかけられることが多くて怖くて……。「この格好がいけないのかな」と思ってジーパンとTシャツを着ていた日は声をかけられなくて。これは“女性らしさ”に感じている自分のモヤモヤと繋がっているなと思いました。でも、当時は周囲が勝手に考えている“女性らしさ”を押し付けられているのだというところまで言語化できていなくて、自分の生活とアイドルの仕事で感じる違和感の正体をずっと探って研究してきた感じですね。


――そこから、その違和感の正体が解明したのは何がきっかけだったのでしょう。

和田:大学で、フェミニズムと出会ったことです。女子大だったので女子教育が充実していて、自立のためのキャリア形成を考える授業などもありましたし、私が専攻していたフランスの芸術の授業でも、性別によって芸術家がどう扱われてきたか教わりました。フランス文学の授業でシモーヌ・ド・ボーヴォワールの『第二の性』の「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名な一節を知ったときには、「自分の違和感の原因はこれだったんだ!」と一番の衝撃を受けました。それからは、図書館でフェミニズムのいろいろな本を読み漁ったんです。


独立して目指したのは、
みんなが自分らしくいられる世界

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――そのときはアンジュルムに在籍していた時代かと思いますが、そうやってイ ンプットしていることとご自身のアウトプットにズレがある状態で過ごしていらっしゃったんですね。

和田:常に、気持ちとやっていることが正反対でしたね。アイドルは個人的な存在ではなくて社会的な存在だということを、正反対な考えを行き来しながら発見しました。どうにかアイドルの世界も変えられるんじゃないかって頑張ってみたけれど、1人では難しかった。自分がやりたいと思っていることは、今の会社に所属しながらでは実現できないと思ってグループからの卒業を決意したんです。


――具体的には、どんな働きかけをしていたのでしょうか。

和田:プロデュースされる存在としてのアイドルでも、個々人で表現したいことは違うから、プライベートの時間も含めて個人が大切にされるといいなと思っていたんです。幼いことや無垢でいること、可愛らしさが重要視されて、大人になるのは良しとされていなかった。前髪を伸ばすことも受け入れてもらえなかったんですよ。そんな中で、「なぜ私らしい私を表現できないのか」というビラを作って、スタッフの方に手渡したり、草の根運動を続けていたんです。表立った反応はもらえなかったけど、「みんなで回して読んだよ」ってこっそり教えてくれたスタッフさんもいて。当時は2018年で、今よりも多様性やジェンダーという言葉が社会に浸透していなかったので、唐突だったのかもしれません。現在は徐々に変化も感じていますし、ヘアメイクや衣装といった表現もバリエーションが生まれているのではないでしょうか。労働基準も問題視されるようになりましたし、芸能事務所がメンタルヘルスの相談窓口を設けることも増えてきていると聞いています。


――独立してソロになる決心をしたときには、どういうメッセージを、誰に向けて発信したいという思いがあったのでしょうか。

和田:自分より若い世代の人たちですね。グループに所属しているときにはフェミニズムについての発言は全てカットされていたんです。「女性の在り方を考えたい」というのがギリギリのラインでした。でも私はアイドルとフェミニズムの問題を考えたいし、みんなが安心して働ける労働環境を目指しています。独立してそういう発言をしていったことで一番驚いたのは、ファンの方が応援してくれたことでした。SNSではまだ声をあげる女性を良く思わない人たちもいますが、味方がたくさんいるのもわかって、この人たちがいれば発信しても大丈夫だと思えました。


自分の心を救済する居場所は
ネットや芸術の中にも見つけられる

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――周りに味方の存在を感じられると心強いですね。世の中には自分と近い考えの人を見つけられずに悩んでいる人もいるかもしれないと思うのですが、そういう場合はどうしたら良いでしょう。

和田:リアルで繋がりがあれば一番良いですけれど、今はリアルだけじゃないですからね。私もアイドル時代に“フェミニズム”って言葉を出してメンバーと話していたわけじゃなくて、寂しい思いをしたときもあったのですが、そういうときにはSNSを通して同じような気持ちを抱えている人の投稿を見て救われていました。だから、リアルだけじゃなくても、自分の別の居場所をうまく見つけてほしいなと思います。あとは本や芸術も、自分の心の居場所になるし、守られる感覚を得られるはずですよ。意見が違う人と出会っても流されずに「私はそうは思わないけどね」と気持ちを口に出してみると、軽い一言でも自分の心が守られたりします。あと私の場合は、歌詞として言葉にすることで自分の心に溜まった感情を解消しています。


――自分の心を守るためにできることは色々ありそうですね。構造として、エンタテインメント業界に横たわっているジェンダーギャップはどうしたら解消できると思いますか。

和田:表に立つ人間も、スタッフの方もファンの方も、性別も関係なくこの会話の輪に入ってきて欲しいですね。女性だけでなく男性も含めて、みんなが考えていることが可視化されれば、変化が起きるのではないかと思っています。


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