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稲垣潤一 『男と女‐TWO HEARTS TWO VOICES‐BOX(Special edition)』インタビュー
計35人の女性アーティストとデュエットしたカバーアルバム『男と女』『男と女2』『男と女3』を詰め込んだ豪華BOXを今冬にリリースする稲垣潤一。石原裕次郎の記録をも超えたみせた彼が、このシリーズの話はもちろん、自身のヒストリーや『クリスマスキャロルの頃には』などの代表曲についても語ってくれた。
現実にはドラマティックな雨なんて降らない
--この度『男と女‐TWO HEARTS TWO VOICES‐BOX(Special edition)』をリリースする訳ですが、そもそも稲垣さんが女性シンガーとJ-POPのスタンダードを歌っていこうと思った経緯や理由を聞かせてもらえますか?
稲垣潤一:J-POPがJ-POPと呼ばれる以前からずっと「日本にはデュエットが少ないな」って思っていたんですね。ただ、当時は今よりハードルの高い作業がいっぱいあって。レーベルの壁とか。でも今は実現しやすくなったし、ユニバーサルに移籍したときにスタッフとその話をしていて「やってみましょうよ」と。でもこれは一緒に歌って頂く相手がいないと成立しない訳ですよね。しかも僕もスタッフも初めての挑戦で、歌って頂いた方もほとんどデュエットが初めてだったんですよ。
--なるほど。
稲垣潤一:それぐらい珍しいものだったので、歌って頂く方にお願いして了解をもらうのが一番時間の掛かった作業でした。特に1枚目の『男と女』は前例がないので難しかったんですけど、最終的に11組の方に歌って頂けて。最初のレコーディングが高橋洋子さんと歌った『Hello, my friend』だったんですよ。それを僕も洋子さんも歌い終えたときに「デュエットってこういう形になるんだな」と。やはり声を乗せないと分からないところがあるんですけど、その前に自分が描いていた世界と間違いが無かったなって。
--『男と女』の収録曲は80年代~90年代のヒットナンバーがメインとなっていますが、実際に歌ってみてどんなことを感じたりしましたか?
稲垣潤一:皆さんがよくご存知のヒットチューン。それをデュエット仕様にリメイクするということでプレッシャーはありましたね。ただ、おかげさまで皆さんに良い歌をうたって頂いたし、4人のアレンジャーにも競い合うような形で本当に良いアレンジをして頂いたので、良かったなと思っています。
--稲垣さんがデビューした80年代の音楽シーン。今振り返るとどんな印象を受けたりしますか?
稲垣潤一:ニューミュージックとか歌謡曲、シティポップ、AORなんていうジャンルがあって、まだカテゴラリー的にヒップホップ系は全然いない時代でしたよね。日本語でレゲエを歌うアーティストもいなかった。だから今の方が「J-POP」とひとえに言ってもいろんな音楽性を持ったアーティストが多い。80年代は81年が寺尾聰さんの『ルビーの指輪』で、82年に僕がデビューするんですけど、そこだけ見ても今との違いは明確。僕は今年で28周年なんですけど、その間にすごく変わりましたよね。メディアもレコードからCDになって、カセットからMDになって、アナログからデジタルになった。
--楽曲の作り方も大きく変わっていきましたか?
稲垣潤一:僕はバブルの時代にデビューしているので、曲作りのポイントなんかは今とは随分違っている。僕の曲に対して当時「映像やストーリーがよく見える」ということが言われていたんですけど、そこは意図的に作っていて。例えば『ドラマティック・レイン』という曲がありますけど、現実にはドラマティックな雨なんて降らないんですよ。
--(笑)。
稲垣潤一:それはある種のフィクションだったりして。でもそういう曲でも絵が見えるような詞、というものをテーマにして作っていました。だから「そんなのあり得ない」っていう世界を当時は敢えて歌っていたんです。ただ、90年代になってバブルがはじけると、00年代に向けてだんだんリアリティのある詞じゃないと受け入れてもらえなくなって。時代がそうさせてるんでしょうけど、リスナーが曲に背中を押してほしいと思うようになる。それは今も続いてますよね。
--その今の日本のシーン。他にはどんな印象を受けていますか?
稲垣潤一:昔みたいにお店へ行って買わなくても曲が購入できたり、本当に時代が変わっちゃってて。いろんなものが影響してるんだけど、音楽を聴く人が減ってる。ただ、ライブに関してはそんなに減ってる印象がないんですよね。実際にステージから見ていて、僕と同世代の人が子育てを終えて会場に戻ってきてる。ご夫婦やご家族で来ている方々も見かけるし。で、ライブというものはずっと形を変えていない訳で、これからも変わらないと思うんですよね。
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Interviewer:平賀哲雄
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